第9話 和服?

 牛の残党狩りのために西へ西へと向かっていれば、干し肉を齧ってるときに鼻息が聞こえたので近づけば数体興奮状態になってるのを発見して銅刀と鉄刀を腰に下げて残りの荷物は地面へ置いた後に突進してくるのは首を刎ねて。


 その後に残った者を一体ずつ処理していく。

 研いでもらったおかげで銅刀も斬りやすくはなってるがもう寿命だろう。四体仕留めた時点でまたすぐに刃こぼれをして刀身が嫌な音をしている。


 帰ったら武器屋に渡して置くべきと思って今後は鉄刀のみでやっていくとして。


 ナイフで魔石のあたりを抉り取り、角は根元の部分を刀で斬り落とす。

 やはり銅よりは鉄の方が良い。素早く振れるし、慣れている分斬ったときの感触が馴染む。


 ただ部位を斬るなら小太刀も欲しくなってくる。ナイフの方が解体するのにいいんだろうけど綺麗な解体の仕方を私が知らないからこそ小回りが利くものがあってもいいかもしれない。

 体に忍ばせれば護身用にもなるだろうし。


 ここが外国なればこそ、もっと刀が欲しい…。まぁ、結局二本は宿に預けたからマジックバッグを手に入れるまでの辛抱だ。


 次のミノタウロスを探しに行けば、また興奮状態のミノタウロスが闊歩しているので同じ要領で六体を仕留める。

 材質がなんだろうと刃こぼれはするのでミノタウロスとの相性が良くないのだなと結論付けて角をカバンに納めるのだが。カバンに入りきらないので包帯で腰にぶら下げるようにして持ち歩く。


 他にいないか探すも丘を超えた先まで来ても見当たらず、もっと奥へ行っても見つからない。


 もしかしたら仲間が帰ってこないから探しに来ていたミノタウロスが全部だったのかなと思い、一日探索を続けるも見当たらないので、大人しく帰ることにする。


 戻る際中ミノタウロスの死骸に「ぶもぶも」喚いているのが三体ほどいたので処理しておいて、他にいないかまた探して、戻る。


 結局五日ほどの旅になってしまい、携帯食量が尽きてお腹を空かしながら王都に戻ることになった。


 まだ昼なのでそのままギルドに向かい、受付嬢は私が入ってきたのを確認すると手招きするのでそのまま向かうのだが、受付嬢が個室に入りながら呼んでくるので個室に入る。


「アカネさん!お疲れさまでした。どうぞお席に座ってください」


 中央にある椅子に座って腰に括り付けていた角を一つ一つ机に起きながらカバンの中身も魔石と一緒に中央に置いて行く。


「えーっと、十三体ですか。聞いていた報告よりも多く生息していたんですね」


 水、ではなく果実水を用意されて喉が渇いていたのもあり美味しくいただきながらこれで依頼達成だろうと満足していると机の上に置いてあった角と魔石を受付嬢がどかした後に、金貨を7枚並べて、その隣にやけに紺色のカバンを一つ置いてくる。


「アカネさんはどちらが欲しいですか?金貨七枚とマジックバッグ」


 無かったのではないのかと思ったが、そもそもマジックバッグという物を知らない。

 どこかから買ってきたのか、フリティアの話しだと金貨十枚相当らしいので欲しいのはバッグなのだが。見た目は普通のカバンである。


「どこから説明したら良いのか分かりませんが。そうですね、マジックバッグを求められても基本的にはお売りしないんですよね。悪用されることもありますし。ただ今回はミノタウロスの件で困っていたのは事実ですし、ギルドマスターと話し合ってアカネさんがどんな人なのか確かめてから販売するか決めようと思っていたんですけど」


 ギルドマスターというと酒場の店主みたいな言い方だ。実際ここで酒を飲んだりしている者もいるからある意味マスターであってるのかもしれない。


「仕事は実直にこなしますし、口数がないので性格もわかりませんし、普段の生活も勝手ながらどんな生活をしてるのかいろんな方に協力してもらって聞いてみても服飾店の人と普段泊ってる宿の店主、あとはアカネさんが贔屓にしてらっしゃるその珍しい形の剣を作ってる武具店の店主ですね。このお三方からしかあまり聞けませんでした」


 私も服飾店のフリティアしか名前知らないから、宿と武器屋の人は顔が分かるけどそんなに会話をした記憶も特にない。

 というよりも私の事を知りたかったとは思わなかった。父を探してる話しはしたとは思うんだけど。


「その結果、フリティアさんが友人関係だと言ってたのでギルドマスターがマジックバッグが欲しければ信頼が一番だと言うのでフリティアさんと話し合った結果…が今です。私には分かりませんがアカネさんフリティアさんとよく話してるんですね?」


 話してたっけ。相談はしたけど特に…贔屓にしてほしいとか宣伝してほしいとか言ってたから客にしか見られてないと思っていたけど、力になってあげたいとフリティアが言ってたので本当に私のために面倒くさいことをやってくれていたのかもしれない。


 また店の名前聞いて…あ、地図を見れば店名書いてあるか。完成した服を着て聞かれることがあればちゃんと宣伝してあげるようにしよう。


 受付嬢がじっと見てくるので頷いておくと、苦笑される。


「なんというか意外ですね。全く喋らないアカネさんとフリティアさんが友人なのは。マジックバッグのこともフリティアさんから聞いて欲しそうにしていたと笑って話してましたよ。実力に関しては知らなかったみたいですけど。ミノタウロスの集団を討伐させに行ったと言ったら心配していらっしゃったので顔を出してあげてくださいね」


 服もできているかもしれないし、お礼も言っておかないといけないだろう。

 ただそんなに気に入られることした覚えがないのだけどフリティアは私のことを気軽に友人とか言って良かったのかな。


「それでですが、どうされますか?見た目が気に入らないなら一応他のもありますが、機能性だけで選んだらこれが一番拡張されてあったので持ってきましたけど」

「バッグで…お願いします」

「分かりました。それでバッグをお渡しする前に聞きたいのですが、アカネさんは今後どんな活動をされるんですか?」

「募集…誰か来ました?」

「あぁ、アカネさんのお父さんのことですか?一応アカネさんの要望通りBランクの方に協力を願って模擬戦をしましたがアカネさんより強い方がいなかったのでこちらでお断りしたんですが、断らない方が良かったですか?」

「いえ…それでいいです」


 父が反応しないということはこの王都にはいないのかそれともギルドにそもそも興味なくてどこかで鍛錬を励んでるのかもしれない。

 お金やバッグのことばかり考えていたから今後のことなんか決まってはないのだが、今必要なのは生活費くらいだろうか?


 もしくは私より強い人を私の方から探しに行くべきなのかもしれない。ただ父が誰かをパーティなんてものをすると思えないから個人で活躍してる人なら可能性がある。


「募集してなくて…剣術が強い人、あと一人でいる人…いますか?」

「パーティを誰ともしてなくて剣を扱う人…一応いますが…その人がどうかされましたか?」

「戦って…私より強かったら、父を探しながら弟子になりたいです」

「戦うですか…その、いえちょっと待ってくださいね?アカネさんがどれほど強いのか私には分からないんですよね…それにその人もそれこそ募集をしてないので紹介するのはギルドとしてはなんとも…お声かけはしておきましょうか?」

「お願いします」

「分かりました。お返事が良いものでなかったら諦めてくださいね?」


 そう言うとバッグを前に出して、それを手に取って頷く。

 バッグに試しに今持ってる刀とカバンを入れたらどういう理屈なのか吸い込まれるように入っていって、取り出すときは手元に感触が伝わって何が入ってるのかちゃんとわかる。


 嗅覚もちゃんと中身が何か分かるし、マジックバッグと言ってもどこかへ飛んでいくとかではなく本当に見た目とは違って中身が広いバッグみたいだ。

 ただ感覚が慣れないのは入れる時と取り出すときにぬるんと出てくるので不思議なバッグだ。


 何度も刀を出し入れしていると受付嬢が笑い始めて少し恥ずかしかったのでバッグを方に斜め掛けして大事にする。


「これ…壊れたらどうなるんですか?」

「余程のことが無ければ壊れませんよ、それこそ魔術を施した人が解除しなければちょっとした盾にはなると思ってもらって大丈夫です」


 そう言われると斬りたくなるが、高級な品物なので大事にしなければ…壊れないと聞くと斬りたい。盗賊が持っていたら斬りたくても予備のバッグも欲しい。

 なんでもかんでも物を持ちすぎるのは悪い癖だけど収納できる物ならいくらあっても困らないだろう。


 果実水を全部飲み干して、話しが終わったのか受付嬢ものんびりとしている。目の前に角と魔石と金貨がなければ仲良くしてる光景に見えるかもしれない。


「アカネさんは定住するつもりはないんですか?」


 何を思ったのか、ここに住めと…あまり想像してなかったので考えるけど、一人で修行し続けるのは難しい気がする。

 それこそ私が倒れても父が家に持ち帰ってくれていたから倒れるまで剣を振り続けることができたし、この王都で私が定住しても私の面倒を見てくれる人がいない。


「私より…強い人がいたら考えます」

「アカネさんてもしかして強さ以外興味なかったり…いえ、おしゃれを気にするとは聞いていましたし…なんで強くなりたいんですか?」

「父が…そうしろと言ってたからです」

「あー…そのことって他の人、アカネさんよりも強い人にも話していいことですか?」

「…?いいですよ」


 別に、誰に聞かれても同じことを述べるだけなので広める分には問題ない。

 父が私よりも強く、父のような強い人に自慢できるなら父の偉大さをいくらでも話そう。


「それとアカネさん、タグもらってもいいですか?昇格しておきます、本当ならバッグを渡してるのでBでもいいんですけど周りの目もあるのでCにしておきますね」


 どうでもいいけどこのタグに意味はあるのだろうか。身分証明書だとは分かるのだけどランクが上がったから給料が上がるわけでもないし、素材が丈夫になるくらいだろうか?

 素直に渡すと、タグを交換しに行って、私が一人で待つことになるけど。金貨が目の前に放置されてるのは不用心な気がする。


 それにしても今後どうしたものだろうか。私としては父に早く会いたいのはもちろんとして弱くなった私ではなくせめて元の強さに戻った状態で父と再会したい。


 バッグから刀を出し入れしていると受付嬢が戻ってきて、銀色のタグを渡してくる。『アカネ 剣士 C』

 それと周りに模様みたいなものが増えて少しおしゃれになってる。


「アカネさんが望まれるのでしたら近いうちにBに昇格してもらえるように打診しておきますが?」

「別に…いらないです」

「そうですか?ランクが上がれば強い人が興味を持ってくれるかもしれませんよ?」

「…募集来なかったら考えます」

「やっぱり強くなりたいんですね…そうですね。私も出来ることがあれば考えておきますね」


 ただ本当に強い人はランクなんかに拘らない気もする。外国だとそうでもないのかな。

 父の門下生は私よりも優秀だったが、彼らが今ここにいたらランクには拘らないだろうし。


 受付嬢との話し合いが終わって、個室の外へ案内されてからお辞儀をしてギルドから出る。


 目的が牛を倒しただけで達成されたので、気持ちが上ずってしまう。

 こういうことにいちいち感情が振り回されてはいけないとしても、目に見えて分かる成果というものはかなり気分が良いものだ。


 地図を取り出してユワナヴェルという店名を確認してからフリティアの所へ行き、店内に入る。


 カウンターでくつろいでるフリティアがこちらに気付いてから笑顔で近づいてきた。


「おぉ!アカネ様じゃないですか。なんだか知らない間にミノタウロスの集団に突っ込んで活躍してたみたいですね!大丈夫とは思いましたけど心配してましたよ、せっかく作った服を着る相手がいなくなるんじゃないかと不安で不安で!」

「バッグ…買えた?貰えました。ありがとうございます」

「バッグ?あぁマジックバッグですか、どれだけミノタウロス倒してきたんですか?そんなに報酬良かったでしたっけ?まぁいいです。アカネ様が欲しがっていたものが手に入ったのはいいことですね!そのバッグのデザインこちらで変えましょうか?」


 そんなことが出来るのか。さすがに壊れないと言っても不安なので首を横に振ると少し残念そうにされて、手を掴まれてカウンター裏の作業場まで連れていかれる。


 そのあとは笑顔で「脱いでください!」と言われるのでバッグや服を脱いだら「包帯もいらない部分は取っちゃいましょう」と言われて胸以外の包帯を外すと、和服を体に着せてもらう。

 下着もちゃんと用意してくれてるみたいでノースリーブの下着やら袴もどき…まぁ袴を穿かせられて靴下なども丁寧に着せてくれる。


 ショートブーツも足首が少し違和感を感じたが、邪魔にならない程度にはフィットしてると思う。多分。


 髪は一結びにしていたのを解かれて、左右の髪を一房結ばれてハーフツインテールにされる。一結びの方が良いと思うし、何故髪留めを二つ用意されてあるのが疑問なまま着せ替えが一通り終わったらしく、周囲をぐるぐると周りながら私の姿を見ている。


「どうでしょうか!一応サイズは小さいですが鏡もあるので是非見ていってください!」


 そう言われて鏡台の前に立たされるも、生地は望んだとおり綿で作られているし着心地は問題ない。

 体を少し動かしてずっと一結びしていたから首回りが少しくすぐったいが、慣れるだろう。


 試しに歩いたり構えたりして今まで履いていた革靴よりも良いには良いが、やはりくるぶしの圧迫感があるのに違和感が拭えないが…これも慣れか…。


 手袋に関しては実際に刀を取り出して握って確認するが問題なさそうなので刀をバッグに納める。


「何着…あるんですか?」

「まだ一着ですよ!試してもらわないと生産しても意味ないですからね。それに要望が変わるかもしれないので、問題なければ同じものから少し凝った物まで用意する予定です!」

「同じので…」

「分かりました!良かったです!勝手に露出多くしてた時戸惑ってましたから実は嫌なんじゃないかと思ってたんですよね。さすがアカネ様です!無頓着なのか頓着してるのか分からないのも理想的ですよ!」


 戸惑ってるのが分かっていたなら元の状態にしてくれていいんだけど。

 とりあえず今まで着ていた服をどうしようか迷っていたらフリティアが勝手にそこらへんに投げ捨てたので、処分してくれるのだろう。もしくは自分が作った物以外は着てほしくないのかもしれない。


「下着等はお渡ししておきますね。髪留めも!ほかにご要望があれば是非ともお願いしますよ!」

「それなら…羽織を作ってくれませんか?」

「羽織ですか?別にいいですけど、それだと露出の意味が…やっぱり露出気にしてました?」

「…冬は寒いかなと」

「本当ですかぁ?まぁいいです!模様はまた月がいいんですか?」


 頷くと、図案をまた描き始めて、みせてくるが裾を長くしてもらえるように頼んだらすぐに書き足してから見せてくる。問題ないので頷くと「これなら銀貨2枚ですかね?」なんて言うので想像してたより安い。

 数着分を考えて銀貨10枚渡す。


「防寒ということなので生地を少し厚めにしておきますね?それとアカネ様が肌の露出本当に嫌でないのなら薄地にしませんけど大丈夫ですか?」


 気にしているので大丈夫じゃないと首を横に振ると笑われた。


「やはり気にしていましたか!薄地でも作っておきますね!私も勝手しちゃいますけどちゃんと言ってくれないと分からないので要望はもっと言ってみてくださいね!」

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