第7話 物欲はたくさん
北東の森は道外れにあって歩きづらいことを除けば田舎のギルドと同じ要領でゴブリンなどが生息している。ただ田舎のとは違って集団でいることが多いので石を投擲してくることに注意すれば魔石がそこそこ集まるので美味しいと思う。
森の入り口あたりでは他の冒険者らしきコスプレがいたが、その人たちもゴブリンをちまちま倒しているのだろう。少しだけど仲間意識を持つ。
ただ、たまに豚っ鼻の太いゴブリンがいるのでそいつだけは魔石を取り出すのに苦労する。
身長差があるから一度膝を砕き、屈んだところを脳天を叩いて倒すのだけど、脂肪がある分木刀では木刀の耐久度が心配になるし、錆びたナイフで魔石を取り除こうとしたら脂肪で二本とも使い物にならなくなった。
普通のナイフで取り出しても脂がつくので切れ味が落ちやすい。豚ゴブリンの値段が高いことを祈りながら夜まで探して魔石の回収を繰り返す。
多分だが二百は溜まったのではないだろうか。カバンの底が段々と重くなっていくのと集団でいるのが助かって結構集まる。
この暮らしを続けるならもう一個カバンがあってもいいかもしれない。もしくはもっと大きいカバンを持ってもいいかもしれない。
夜闇になると目は頼りにならないので耳で近づく者を木刀で切り捨てるのだが、たまにフォレストウルフなのか別のウルフなのか知らないけど野犬が近づいて来る。
一応心音から魔石があるか確認してから倒してるから問題ないのだけど、魔石がない害獣とかもいるのだろうか?
はっ!今更気づいたが魔物って魔石のある生き物のことを言ってたんじゃないだろうか?それなら魔物と言われても納得できる。納得したらお腹空いたので干し肉を食べながら血の匂いに近づいてくる魔物!を倒して魔石を回収する。
そうなると妖刀とかは生きた刀なのかな?仲良くなれたら使わせてくれるかもしれないのでいつかは見つけたい。
さすがに血の匂いが濃くなってきて魔物が来ることが少なくなってきたので別の場所に移動しながら次の休憩場所を見つけて数匹斬ってからその匂いに釣られてくるのを待つ。
そう繰り返していけば初日にしては深夜の分を合わせても三百か。ゴブリンが十円だとして三万円くらいだろうか。
三日頑張れば九万円は行けると思ってもう少し森の深くに進むとまさかの植物が鼓動をしている。
それだけじゃなくて脳のような構造もしている。これも魔物なのだろうか?鉱物らしき音も聞こえるから多分魔物だとは思うんだけど植物も感染する病気だったとは。知らない間に世界は末期になっている。
とはいえ、植物相手に木刀は使えないので銅刀を取り出して作ってもらった鞘から穿つように一閃して斬ったらジタバタともだいたあとに次第にゆっくりと枯れていった。
不思議な生き物だ。植物ゴブリンを倒した後は魔石のあるところにナイフを突き立てて抉りながら取り出すと通常のゴブリンよりも大きい魔石だ。
きっとゴブリンになって栄養不足になると植物のように光合成を始めてこうなるんだろう。また新しいものを見つけて次のゴブリンを探す。
進んでいくにつれて植物ゴブリンの頻度が増えて想像してたよりカバンの重量が増えていく。
それにナイフもそろそろ一本折れそうな音が聞こえる。芯の方が恐らくヒビが入ってるのだろう。
稼ぐために買っては壊して稼いで買っては壊す。そんなこと繰り返して儲かることはできるのか。
父は一体なにと戦って儲けていたのだろう。
木刀も限界が感じ始めてるため、三日の予定を諦めて二日で切り上げて帰ろうと思い、帰り道にもゴブリンがそこそこいるので他所道を通りながら魔石を回収していく。
植物ゴブリンのおかげかせいなのか、カバンが重たくなったので恐らく四百か五百程度の魔石を集めて暗くなって王都の東門まで来たら門が閉まっていて開く気配が無い。
門限とかあるタイプの場所だったのか。それは知らなかった。
どうしようかなと思っていると見張りなのかこちらに気付いて手を振ってくる人が門の端っこにいる。
近づけばいかにも西洋な兵みたいな人が近づけば笑いながら話しかけてくれる。
「夜は門閉じてるけど人間が通れる扉が設置されてるからここから入れるよ」
「ありがとうございます」
やけに分厚い扉を開けてくれて、中に入るとコンビニ…じゃなくてギルドに向かってまだ明るいことに安心して中へ入るといつもの受付嬢がやっぱり働いてる。休み一日も無いのかな。
「アカネさん?」
「換金…しに来ました」
「換金ですか?なんというか獣臭が凄いですね」
それは申し訳ない、死んだ野犬の近くにずっといたからだろう。
カバンから取り出すのが面倒なのでカバン事渡すと、重さに驚きながら他の受付の人と一緒にカバンを裏の方に運んでいく。
何をして待ってようか考えながら水筒の水を飲みながら張り紙をもう一度見て何か自分でも出来るものはないのか改めて見る。
めぼしい物はロックタートルとかスライムフロッグとかかな。亀とカエルならなんとか…あ、でも水中に逃げられたら私では駄目か。やっぱりゴブリンくらいしか私に倒せるものはいないのかもしれない
がっかりしながら受付の方で私を呼ぶ声が聞こえたのでそちらに行くと受付嬢が笑顔でカバンを返してくれる。
「凄いですね。ゴブリン以外にも色んな魔石が詰まってましたよ」
「はい…色んなゴブリンがいました」
「色んなゴブリン?これなら張り紙に書いてあるものを受けなくてもCに昇格できそうですね。今後も期待してますよ」
そして小さな声で「銀貨80枚ほどです。端数はプラスに回しましたので」と呟いて笑顔で対応してくれる。
周りに聞こえたら泥棒がいる大陸だし、狙われるのを考えて言ってくれたのかもしれない。
感謝を込めてお辞儀をしてから。ギルドを出て銭湯に向かう。夜もまだやっているか不安だったがやっていたので安心して体を綺麗にして。宿屋に入ると扉を開けた音で起きたのか、私を見てから笑顔で対応してくれた。
食事は今は提供できないけど宿泊なら部屋があるので大丈夫と言ってくれたのでありがたく使わせてもらう。
飯も干し肉が使う予定だったものが残ってるのでそれを食べながら護衛してた金額が二日で稼げたことを驚いている。
やっぱりゴブリンなんだな。剣じゃ稼げないなんて思っていたけど、野犬も少し混じってるがゴブリンであれば動きは人間とそんなに大差ないし問題ない。
困ったら二日森に籠ればしばらくは暮らせる額が稼げるとしったので安心しているんだが。お金のことに気が行ってしまってすっかり父のことを忘れていたことを気付く。
ただどうやって探すべきか。ギルドに募集をかけてはいるが田舎のギルドではパーティしようって誘いが次々と来ていたのに今回は来ていなそうだ。
悩んでも仕方ないかと思いその日はゆっくり眠ってから朝を迎える。
まずは武器屋で…いや、この場合カバンの問題を解決する方が先かもしれない。ただフリティアの地図に雑貨屋の場所が記載されてないので先にフリティアへ聞くのがいいかもしれない。
そう思ってフリティアのユワなんとかの店に向かって中に入る。扉にベルがありその音から元気のなさそうなフリティアが裏から表に出てくる。この国は従業員を雇わないのだろうか。
「アカネ様じゃないですか?どうしました?」
「カバンが…不便だから雑貨屋を知りたいです」
「カバン?アカネ様ってぶっちゃけどれくらいお金持ってるんですか?」
言うべきか悩んだが、別に今更お金くれとか言われるとも思えないからいいか。
「今は…全財産銀貨90枚くらい」
「25枚は少なかったかぁ!なるほど、でもそうですねこれは私が舐めていたせいですね。アカネ様が普段どれだけ稼いでるのかは知りませんが小さいカバンで沢山物が入る物があるんですよ。例えばその持ってるカバンと同じサイズで五倍程度に物が入ります」
どこかのアニメに出てくる四次元的なものだろうか。三次元いつの間にか超えていたんだな。
「その金額が大体最低金貨10枚くらいなんですよね。まぁ銀貨で言えば10000枚ですね。分かって無さそうな顔してますから言いますけど、銅貨100枚で銀貨1枚。銀貨1000枚で金貨1枚って言えば分かりますか?」
分かってはいるんだけど、なんで銅貨は100枚で繰り上がるのに銀貨は1000枚で繰り上がるのかが不思議だ。百の繰り上げの方が楽なのに。
「大抵の人は銀貨で交渉します。ただ裕福な連中は金貨になっちゃうわけですね。商人の目標もまずは第一歩が金貨1枚ってな感じです。アカネ様がマジックバッグを欲しいって思うなら集めてみたらどうですか?」
一日銀貨40枚。十日で400枚。百日で4000枚。ゴブリンじゃ全然足りない!
「アカネ様って普段目閉じてますけど顔に出やすいのか面白いですね!それに計算できるんですね?」
別に表情に出やすいとか言われたことはないが、私が何か言わなくても勝手に喋ってくるあたりフリティアの観察眼があるのだろうきっと。
「ふむ。アカネ様が前回お金持ってなさそうだったのに今銀貨90枚となると一日40枚くらいですか?それでも見た目からは想像できないので意外ですけど。アカネ様がどういう理屈で冒険者で稼いでるのかは分かりませんが難易度の高い依頼は受けないんですか?」
何故私の収入まで分かるんだ。商人という生き物だからだろうか、私は剣しかないが商人からしたら金が全てみたいな能力を特化してるのかもしれない。
しかし難易度の高い依頼か…。ゴブリンは数でどうにかしてるけど見たことない生き物を殺しに行くと言うのはどうにも躊躇われる。ただ別に隠しても仕方ないので素直に助言を求めるべきか。
「普段は…ゴブリンを倒して稼いでます。あとは豚の鼻をしたゴブリンとか…植物のゴブリンとか…」
「なんで全部ゴブリンなんですか?多分なんか勘違いしてませんか?豚はオークで、植物はどっちでしょう?トレントかアリアドネ?金額で考えたらトレントですかね?どれも魔石だけ回収してるんですか?」
「はい…」
「パーティ組んだらいいじゃないですか?その豚の鼻をしたゴブリンは肉が売れますし、トレントは果実が生ってることがあるのでそれも売れます。どちらも魔石より高値ですよ」
ここでパーティが出てくるのか。でも私は一撃で終わらせるようにしてるから、他の人らが殴らせろ斬らせろと言ってもあんまり参加させたくない。むしろ音が混じり合って邪魔まである。
「なんか知らないですけどパーティに嫌な思い出があるみたいですね。そうですね…借金したらどうですか?」
「…借金」
「ギルドがある程度まで借金をしてくれます。アカネ様はその年齢でDランクですし信頼あるからそのランクなんじゃないですか?」
どうだろう?借金してまで稼げるかとかとなると不安でしかないが。それも金貨10枚…。
百万だよな…?一日四千円の稼ぎなのに…。現実的じゃない気がする。
「まぁいいじゃないですか!アカネ様ならなんとかなりますって!ちなみに贋作も売られてることあるのでギルドで販売されてる物を買った方がいいですよ」
「色々…ありがとうございます」
「いえいえ!協力してあげたいですけど私もそんなに稼いでないので力になれなくてすいませんね!頑張ってください!私はアカネ様を応援してますから!」
相談に乗ってくれただけかなりありがたいものだ。
それに次元を超えたバッグも欲しいし、知らないことだらけだった自分に衝撃のオンパレードだ。
店を出てから武器屋に入って、ナイフを見てから銀貨1枚なのを見て思わず自嘲気味になってしまう。
銀貨1枚稼いで喜んでいた自分はどこに行ってしまったのか。
「なんか知らんけど陰気臭い雰囲気だして店に来ないでくれ」
「木刀…売ってるところ知りませんか?」
「ぼくとう、嬢ちゃんの木の棒か。それなら鞘の型作りで試作したものがあるが買うか?」
「丈夫であれば欲しいです」
そう言って店主が取ってくる間にナイフを二本ほど丈夫な物を選んでカウンターに置いておく。
「待たせたな、ナイフも買うのか。それも鞘が必要ってんなら用意するが」
「お願いします」
「おう。銀貨4枚でいいぞ」
「ベルトも…ありますか?」
「お、おう。陰気臭いわりに金は弾んでるよな」
それぞれ持ってから、木刀も強度を確認してコーティングもされてあるので問題ないだろうと思い腰に三本下げてる状態になる。
「ゴミって…どこに捨てればいいんですか?」
「ゴミ?何捨てるんだ?」
「今まで使ってた木刀がもう限界なので…」
「それならうちで引き取るが、薪の代わりくらいにはなるだろう」
まぁ捨てられるより薪になる方が木として本望だろうと渡す。
感謝しながらお辞儀をして店を出てから再度どうしようか悩んでしまう。借金をしてしまえば確かに楽ではあるがこのカバンが五倍入るようになったらどれだけ便利になるのかを追加で考えてしまう。
それならもっと他の事に使うべきなのではないだろうか。フリティアの服だけで銀貨25枚、次からは正規の値段だろうからもっとかかるだろうし。
フリティアの言ってた通りギルドに相談するのが早い気がする。大人しくギルドに向かう。
いつ寝てるのか知らないけど受付嬢がいつも通りいるのでそこに行く。
「アカネさんどうしました?」
「マジックバッグ…っていうのが欲しいです」
「あー…まぁアカネさんなら欲しそうですね。ただどうしましょうか。今在庫も無いですし、あってもアカネさんが買える金額じゃないんですよね」
在庫が無いのか。そう聞くとなんか安心してきた。無い物は買えないんだし考えなくてよくなる気がする。
「それじゃあギルド的にもアカネさん的にも助かるやり方してみませんか?」
結構諦める準備をしていたつもりだったけど受付嬢がカウンターから出てきて張り紙のところから一枚紙を持ってくる。
「このミノタウロスを倒してきてくれませんか?」
「どんな生き物か…分かりません」
「えっとですね、牛みたいな見た目をしていて二足歩行で武器とか頭の角を使って襲ってくる魔物です。これをギルドが人選した人と狩ってきてほしいんですよ。なんでも西の平原で十数体の群れが暴れているらしくて、それと人選した人は狩りに参加できる実力はなくて荷物運びですねミノタウロスの角や肉が欲しいので」
フリティアの言っていたパーティを組む形に近いのか。
紙を見て金額を見ると一体あたり銀貨100枚、十数匹いるなら頑張っても銀貨1000枚と数百枚か。これでようやく十分の一。
「あ、金額は気にしないでください。アカネさん一人で倒してくれるなら金貨5枚は支払います。ちょうど上位陣が出払っていて問題視されているので金額を上げようという話しが出てるんですよ。目標に近づけると思いませんか?」
それなら確かに半分は稼げる。そうしたら一気に目標に近づく!
「地上の生き物なら…殺せるので任せてください」
「地上限定なんですね?安心してくださいミノタウロスは飛びませんから、跳ねるかもしれませんが」
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