第14話
どれくらいの時間を奏して過ごしていたのだろう。
短かったのかもしれないし、長かったのかもしれない。数年にも数秒にも間隔が狂うほどの時間を過ごした気がする。
「ごめん……。もう、大丈夫、ありがとう」
「うん」
顔を離して康太の顔を見つめた、同じように見つめる顔に安堵しながら、ゆっくりと体を離してゆく、抱きしめてくれていた手が解かれて、互いに離れてゆく。でも、手だけは放すことは無く、離れることもない。
再び歩みを進めて曾祖父母の墓の前に立つ。
二つの墓石は苔むしていて薄暗い真緑の苔に覆われていたけれど、静かで優しかった。懐かしい二人の顔がしっかりと浮かぶ。
「じーじ、ばーば、来たよ」
あの頃の家を訪れた時のように口にした。
返事は帰ってくることは無い。
でも来たことを喜んでくれているようにも、悲しんでいるようにも思える。複雑な心象とでもいうべきなのだろうか。
「手、離そうか?」
「ううん、できれば繋いでいたい……」
「構わないよ」
気遣いの言葉に私は首を振って返事をした。そして手を握ったままでしっかりと頭を下げる。
深々と下げ深々と祈る。
同じように康太も頭を下げてくれた。一分ほど頭を下げたまま祈り続け、康太もまた祈り続けてくれる。
「また、帰るときに寄りたい」
祈りを終えて頭を上げると私は康太を見てそう呟く。
「いいよ、一緒に来よう」
同じように私を見て康太はそう言って頷いてくれる。
私達は約束を交わしてコンクリートブロックの道をゆっくりと戻っていく。
足取りはどことなく軽く思えた、ピンクのブロックがほのかに温かな熱を放っているように思えて、その熱が足の裏から全身に駆け巡ってゆくような気がした。
日はかなり陰りを見せて足元は薄暗くなっていたけれど見えないほどではない。緩やかに調子を合わせて一歩一歩と歩みを進めてゆく、互いの手が離れることはなく、その支えが時より不安定になる足元から支えてくれていることに、温かさを感じていた。
互いの手を解いたのは車の傍で、解いた手をそのまま康太の身体に回してしっかりと抱きしめると同じように私も抱きしめられた。感謝の抱擁だったのにも関わらず、その温かさを求めてしまい、康太はそれを理解してくれたように離されることはなかった。
「連れてきてくれてありがとう」
「どういたしまして」
何度目かの抱擁、感謝の抱擁、心からの抱擁、色々な意味を持つ抱擁だった。
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