第3話 黒魔導士は俺を信じてくれるらしい
「それじゃあ、今日は一日僕とだね!よろしく、セイジ。」
「あぁ。よろしく頼む。」
戦士セイジの強化係は、本日黒魔導士であるクロが担当する。
魔導士というだけあって魔法に長けているので、今日は主に魔法を教えて貰うことになった。
黒髪を結ったクロは温和な笑みを浮かべて草原に立っていた。
「まず、魔法の仕組みについては大丈夫かな?」
「勿論、大丈夫ではない。」
「そ、そっか。じゃあそこからだね。」
「僕は理論より実践重視でやってきたから、君にもそうしてもらうね。まず、魔法を使う仕組みについて!」
そう言ったクロは持っていた杖を此方に向けてよく見せてくれた。
木で出来た杖には、同じく木目製のダイヤルが3つ付いていた。
「魔法は大気のエネルギーを使って、使用するものなんだ。それで大気のエネルギーを攻撃魔法や治癒魔法とかに変換するため魔導具が必要なんだ。」
「魔導具にはダイヤルがついていてね、これを回してエネルギーの調整をするんだ。調整のポイントは、出力する魔法に必要なエネルギー量と大気中のエネルギー量に注意すること。」
「前者と後者のエネルギー量をしっかり把握してダイヤル調整をしないと、魔法がでなかったり、暴発したりするんだ。」
「それじゃ、早速簡単な魔法を使ってみようか。」
といった目線の先には、自身の斧があった。
「この斧は魔導具だったのか…」
「そうだよ!?気付かなかった!?」
「あぁ…ただの鈍器として使っていた。」
「そもそも鈍器でもないよそれ!」
初めて知った正しい使い方。今の今まで役割を果たせてあげなかったことを申し訳なく思いつつ、斧を使う準備をする。
「よし。まずは斧を強化してみようか。」
「構わないが、強化されたと分かるのか?」
「勿論!僕はこれでも魔法に長けてる魔導士だからね!」
自信満々なクロを信じて斧の強化をすることにした。攻撃強化をする魔法、ヒートは強化する攻撃や得物が強ければ強い程、エネルギーが必要になる。
無駄金持ちのセイジが持つ武器は勿論、一級品だ。つまり、相当なエネルギーが必要になる。
が、ここで問題が発生する。大気中のエネルギーがどのくらいあるのか皆目検討もつかないのだ。
「クロ。大気中のエネルギーはどうすれば測れるんだ?」
「あ!ごめんね教え忘れてた。えっと魔導士を目指す人は実数値と一緒にエネルギーを浴び続けてアイテムなしでも分かるようになるんだ。だけど、魔導士以外の人の為にも、魔石っていうアイテムがあってね、」
矢継ぎ早に一生懸命説明を続けるクロは懐から何やら赤く輝く石を取り出す。
「これこれ!えっと、これが黄色の時は実生活をする時に使う魔法に充分なエネルギーが満ちてることになるんだ。」
「それで黄色を基準にして赤だったら過剰、青だったら不足気味って具合かな。」
「成る程。今は赤いな。ということは、周囲はエネルギーが過剰ということか。」
「うん。君の武器は結構エネルギー必要だから、調整自体はそんなに必要ないかも。」
相分かった。早速ダイヤルを回してヒートに挑戦。調整はそれほど必要ないらしいので一つだけあるダイヤルを回してみる。
その瞬間、バンッと音を立てて斧が内部から膨張して壊れてしまった。
「あれっ!?なんで!?」
「わ、分からん。しまったな。」
「あー!多分ダイヤルが1つしかないからだ!」
「1つだけだと爆発するのか…」
「ま、まさか!ただ必要エネルギー量が増えたら調整も気をつけなくちゃいけないから、細かい調整が出来るようにダイヤルは多いほうが良いんだ。」
「そうだったのか…」
「でも、ダイヤルを2つ以上持つには資格がいるんだよね…」
「俺は持ってないぞ?というかこの武器は父から貰ったものだからな。よく分からないんだ。」
「だよね……。それなら、どうして君の父上はこの武器を君にあげたんだろ?…」
「…………さあな。それより、これからどうする。」
「あーと、えーと、とりあえず街に戻って武器を買い直そっか!お詫びに僕が買うから!」
「詫び…?金はいくらでもある。問題はないぞ。」
「駄目駄目!どれだけあってもお金は大事にしなくちゃ。いやー、ごめんね。段取り悪くて。僕、教えるの上手くないみたいだ。」
「…いや、これ程親身に教えてもらって文句などない。」
慌ただしく動くクロと一緒に街へと戻ることになった。
「うーんこれとかどうかな?」
「む、良いデザインだな。」
「でしょ?僕もカッコイイなと思ったんだ!」
これならやる気もあがりそうだと思い、斧を手に取ったが値札を確認して品を戻した。
「あれ?やめるの?」
「あぁ。少し高いと思ってな。」
「良いよ別に。やっぱり武器のデザインは大事だしさ!」
「だが払うのはお前だろう?流石にあの値段は…」
「いいから!いいから!買ってくるね!ここで待ってて!」
バタバタとレジへ向かったクロを見送った。
彼の背が視界から外れたかどうかのタイミングで、話し声が聞こえた。他者へ聞こえさせるように、大きな声で。
「へー、流石S級ギルド所属のリーダー様だ。」
「金持ち自慢もお手の物ってか?」
声の元を見てみると他のギルドに入っている男達だった。予想するにクロが妬ましくて仕方がないのだろう。
ギルドは所属するパーティの活躍によって統括局からランク付けされる。上からS、A、飛ばしてDランクと位置する。
その中でもトップクラスのSは認定されるギルド数が限定されており、新たなギルドがS認定されると自ずと他のギルドが落ちることになる。
「うわーーーーん!ママーーーー!」
「どうしたんだいボク。迷子かな。」
迷子と思われる少年に、クロは買った斧を置いて、膝を屈め声をかける。
「よーしよし。そうだ!この飴をあげよう。」
「ううっ、ぐすっ。ママは知らないおじさんから食べ物貰っちゃだめって。」
「そ、そっか、そっか。ごめんね。じゃあおじさんと一緒にママを探そうか?」
「ううっ、ぐすっ。ママは知らないおじさんについて行っちゃだめって。」
「うーーーん、そっか。どうしようか…。」
別に周囲の人は気にもとめていなかったんだ。クロだって素通りしても良いはず。それなのに、彼はそこを動こうとせず、必死に少年の母親を探そうとしていた。
「あっ!そうだ!すいませーーーーーん!!ママはいませんかーーーー!」
立ち上がったクロは叫ぶ。何度か叫ぶが特に応答は無く、道行く人は無反応か白けた顔を見せるばかりだった。
「はっ!恥ずかしいやつだな!」
「いかにもケツの青いガキだ!」
クロを妬んでいると思われる男2人が冷やかすように言う。何もせず、そこに突っ立っているまま。
「………。俺は彼を恥ずかしいやつだと言って、何もしない奴の方が恥ずかしい人間だと思うがな。」
「あ?なんだお前?」
「彼の仲間だ。」
「こいつ、知ってるぜ。例の家の出来損ないだよ。」
「あー、兄貴と違って木偶の坊だってやつか。」
「……確かに今まではそうだったかもしれん。だが、俺は変わる。変われる。仲間がいるからな。」
それだけを告げてクロの元に向かうことにした。最後の捨て台詞は、きっと彼らが寝て起きて朝になったら忘れられるだろう。
だが、言葉にすることは大切だ。手に掴めない靄が、実現可能な目標へとなるのだから。
「すいませーーーーん!!ママは、」
「誰の母親か言ったほうが良いんじゃないか?」
「セイジ!確かにそうだね。すいませーーーん!えっと、君の名前なんて言うんだっけ?」
「今聞くのか…」
あいも変わらず段取りが悪いクロ。というか、そろそろ警備兵にでも伝えた方が良いんじゃないかと伝えようとした矢先に母親らしき人が来た。
「あっ!ママーーー!」
「ママ!良かった!」
「言っておくが彼女は貴様の母ではないぞ…?」
我が子と合流した母親は子供を抱えて、目一杯クロに礼をしていた。
「ほんっとうに、ありがとうございます。はぁ、よかったぁ。」
「ありがとう!おじさん!またね!」
「いえいえ、じゃあね!」
結局少年は最後までクロをおじさんと呼び続けていたが、当人は気にもとめていないらしい。
それよりも、母親と再会できたことに安堵していた。
「おいおい待てよ、クロ。」
「………貴様、鬱陶しいぞ。」
「あ?」
またもや声をかけてきたのは、先程の二人組だった。思わず、刺々しい言葉を投げかけてしまった。
それを発端に、空気がピリピリと緊張感を持ち始める。クロは張り詰めた空気を感じ取り、場を収めようと声をあげた。
「まぁまぁセイジ。えっと、初めまして。何か御用ですか。」
「別に用ってほどじゃねぇ。ただ御宅のギルドは随分余裕そうだと思ってなぁ。」
「あはは。仲間のお陰ですよ。」
クロは攻撃的な相手に対して柔らかな表情で他人行儀に答えた。
「仲間のお陰ぇ?バカ言っちゃいけねぇ。お前の仲間ってのは、そこの出来損ないなんだろ?そいつが一体なんの役に立つんだぁ?」
「……………。貴方は換気扇の掃除は好きですか。」
「あ?」
「僕は嫌いです。というか、やることなんて忘れちゃいます。でも彼は忘れずに嫌がらずにいつもやってくれます。」
「掃除ねぇ。結局雑用だろ?それじゃ、お前らは換気扇掃除してもらったからS級になったってのか?」
「それは違います。」
「それじゃ、出来損ないに変わりはねぇ。ろくに戦えもしないんだろ。」
「それも部分的に違います。確かに今の彼はろくに戦えません。それでも、強くなろうとしています。他者を貶める貴方とは違います。これ以上、僕の仲間を馬鹿にしないで下さい。」
「熱くなって馬鹿みてぇだ!」
「お友達ごっこでもやってるんだなガキども!」
嘲笑しながら二人組は去っていった。だがそんなことはどうでもよかった。それよりも、自分をあんなにかってくれたことが嬉しかった。
「…クロ。ありがとう。」
「礼なんていらないよ。」
砕けた口調に戻るクロ。少し剣呑だった先の表情から頬を緩めた顔に戻っていた。ように思えた。
日はすっかり暮れて、彼の表情ははっきりとは分からなかった。
「……。セイジ、僕は信じています。」
「信じる?俺をか?」
「うん。君がいつかスライムは勿論、ドラゴンさえも討伐出来るほど強くなることをね。」
「ドラゴンか。少し気は重いな。」
「だが期待には応えよう。必ず。」
歩く速度を落として、彼の後ろに立つ。ペースを落とした自分に気付いたクロは振り返る。
「クロ、今日はありがとう。」
顔の見えない暗闇の中で感謝を満たした表情でそう告げるのだった。
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