第38話、エングン

「砂嵐で、援軍が送れません」

 王都”サーハリ“で、国の重鎮たちが会議をしている。


「この砂嵐の時期でなければ、すぐに送れるのですが」


「どうにかならんのかっ」

 

「必死に送っています、でも……」


「この時期だからだよ」

「優秀な指揮官がいるようだね」

 アールヴの艦が“砂嵐”で動けないのをよく知っている。

 男性の声が会議室に響く。

 騒がしかった会議室が静まりかえった。


「ファテュマ王……」

 振り向くと、王族用の戦衣装を着た,四十代男性が立っていた。

 180センチくらいの高身長。

 深紅のターバンは、王にしか着けることは出来ない。


「ふふ、砂嵐の中でも航行できる艦があったよね」


「まさか、王自ら行かれるのですか?」


「私が乗らないと”コノハナサクヤ“を動かせんだろう?」

 王の座乗艦だ。


「それは……」

 一瞬反対の声が上がったが、

「……ご武運を……」

 国の重鎮たちが、一斉に頭を下げた。




 月明かりのきれいな夜だ。

 ヤマタ河に月が白く映っている。

 水面の月を乱すように、巨大な船のシルエットが浮かび上がった。

 その影は二つ。


 今、王都”サーハリ“にある王専用ドックから、


 コノハナサクヤ級戦艦 ネームシップ、”コノハナサクヤ“

 

 コノハナサクヤ級戦艦 姉妹艦、”イワナガ”


 が出港した。

 

 白に近い茶色。

 流線型の美しい艦体。

 前後に、八十八ミリ砲、二連装の回転砲台。

 艦前部にある、平型艦橋。

 

 この艦は、“アマテラス”を戦艦にしたものだ。


 二本マストに


 月明かりの下、水面に白い波を残しながら、二艦は滑らかに進む。

 


「載せれるものは全て載せろおお」

「焼夷爆弾もだあ」

「特に、“アマテラス”の砲弾や、部品は向こうにはないぞお」

 野太い声が周りに響く。

 整備士の格好をしたドワーフの男性が、大声で指示を出していた。


「来てくれたんだ、ドワイト」

 イナバが答えた。


「ああ、戦闘があるんだってなっ」

「シル(シルファヒン)嬢ちゃんに頼まれたんだよっ」

 ドワイトは、シルルート王国の、優秀な整備士チームのリーダーだ。

 潜砂艦“アマテラス”や飛行艇“ホウセンカ”、“イザナギ”の開発に関わっていた。


「ありがと~」

 ハーフエルフの侍女服の女性、メルル―テが礼を言う。


 場所は、レンマ王国“カティサーク工廠”のドック。

 飛行艇空母、“キサラギ”の出港準備が、大急ぎで行われていた。


 “アールヴ”からの救援要請と、クルックと、飛行艇“ヨモツヒラサカ”(現、“イザナギ”)の回収のためである。


 飛行艇空母“キサラギ”は、艦橋横に一枚、艦体横に計六枚(左右三枚づつ)の”可動式装甲板“がつけられていた。


 飛空艇空母“キサラギ”の“臨戦装備”である。


「飛空艇空母“キサラギ”、“アールヴ”の都市、“モント”に向けて出港~」

「全速前進~」

 メルル―テ大佐が、艦長席から言った。

 

 後部にある、四機の魔術式ジェットを全開。


 飛行艇空母“キサラギ”は一路、“アールヴ”を目指す。

 


カカン


「むっ、“イザナギ”被弾、交代頼む」

 機体に、バリスタの矢がつき刺さった。


「わかった、すぐ行く」

 イオリの声が無線から聞こえた。


 国境の都市“モント’に、じわじわとモンジョの艦隊が、近づいてきていた。

 モンジョの艦隊は、艦に多数のバリスタを設置している。

 だんだんバリスタの射手が慣れてきたのか、飛行艇に矢が当たるようになってきた。


「クルック、交代だ」


「すまん、あとは任せた」


 被弾した”イザナギ“が港の基地に帰る。



「何故、強引に前に出てこない」

 サザル防衛指令官だ。


 イズモ級、戦艦”クシナダ“の作戦会議室である。


「おかしいですね」

「あと少しで、モンジョの艦の大砲の射程距離に入るのに」

 第一防壁に弾が届く。

 参謀がいぶかしんだ。


 何かを、待っているのか?

 サザル防衛司令官は、腕を組んで深く考え込んだ。


 モンジョの艦隊が、待っているものはすぐ近くまで来ていた。



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