第24話、エンカイ
潜砂艦”アマテラス’は、アジトである“アマノイワド”に入港した。
翌日、イオリや、ファラクの紹介を兼ねた宴会が開かれる。
風通しの良い建物に、低めのテーブル。
座って、食事をするようだ。
ちなみに土足厳禁だ。
大広間に並べられた、テーブルの上に沢山の大皿が並ぶ。
ざわざわと人が集まりだした。
思い思いの席に座る。
「それでは、新たに入ったものの歓迎会を始めたいと思う」
エルザードが立ち上がって言った。
左右には、双子が座る。
「レンマ王国空軍から来た、イオリ・ミナト少尉だ」
「飛行艇”イザナミ“の操縦者兼、船主だ」
イオリが立ち上がって礼をする。
拍手が起こった。
「次は、アールヴ海軍の、ファラク中尉だ」
「“イザナミ”の船巫女になる」
ファラクが同じように立ち上がって礼をした。
拍手が起こる。
「久しぶりの帰港だ」
「飲んで、食べて、思う存分楽しんでほしい」
「オオオオオ」
「これは、生の魚?」
ウロコの硬そうな魚の造りが、大皿に盛りつけられている。
「砂漠魚の一種よ~」
「砂の中を魚のように泳いで生活してるわ~」
隣に座ったファラクが答えた。
淡白な白身だ。
砂漠の中を泳いでいるせいか、身が締まって美味しい。(←フグ?)
醤油をつけて食べる。
「意外と野菜が多いんだな」
イオリの前に並んだサラダを見ながら言った。
「そうよ~。オアシスの周りや、ヤマタ河の周りは、畑や田んぼが沢山あるわ~」
「特に、ヤマタイ湖の周辺は、お米がたくさん取れる水田地帯よ~」
「少し離れると砂漠になるけどね~」
ファラクが答える。
「ふ~ん」
「おひさしぶりね、イオリ」
声をかけられた。
横を見ると、白衣を着た二十代半ばの女性がいる。
白衣の下は、ナイスバディである。
鼻眼鏡を着けていた。
「あ、マクレガー女史」
「知り合い~」
「うん、一応、色んなことを教えてくれた師匠かな、カティサーク工廠の開発主任だった」
「でも、三年くらい前から、どこに行ったか分からなくなったんだ」
「じゃあ」
イオリが、視線を向ける。
「そうだ。 “アマテラス”の開発のために、ずっと砂漠でいたよ」
「しかし、出来たんだな“イザナミ”」
「はい」
「また飛んでるところを見せておくれよ」
日本酒をお猪口で
「あ、いた、マリア主任」
金髪、青い目の男性が声をかけてきた。
“イザナミ”の受け取りの時にサインしていた人だ。
「あ、ちなみに、私は“マリア・マクレガー”だ」
「この前の、請求書はなんですか、滅茶苦茶じゃないですか」
「予算は、とっくにオーバーしてますよっ」
「こんなところでやめようじゃないか」
「こんなところでないと、全力で逃げるでしょう」
そこで男性が、びっくりしているイオリとファラクに気付いた。
「あっと、主計課に配属されている、“アル・サーベイ”です」
「中央から、派遣された『評価官』でもあります」
“アマテラス”や“イザナミ”がどんなものかを評価するのだ。
「予算や消耗品は、アルに話しとけば何とかなるぞ~」
マリアが、お銚子を振る。
空だ。
中を覗き込んだ。
「あんまり、無茶は通りませんよ」
「“イザナミ”で必要なものがあれば言って下さい」
アルは、そっとお酒の入った銚子をマリアに渡す。
「ありがと」
にぎやかに、宴会が続いた。
◆
砂漠の夜、辺りは月の青い光に染まっている。
飛行艇、“ヨモツヒラサカ‘は、砂地に着陸していた。
開いた左右の可変翼の下に、一つずつテントが張られている。
クルックと、上官である”カスマール“のものだ。
二人は、砂漠まで逃げて来ていた。
「ぐうううう」
クルックは悪夢を見ている。
背景は真っ暗だ。
クルックの前にみすぼらしい格好をした人たちが、黙ってこちらを見ていた。
この人たちが奴隷だということを、クルックは知っている。
5年前、”エンバー家“の奴隷売買がばれそうになった時、すべて完全に処分されたということも。
一人の女性から目が離せない。
誰も何も言わなかったが、彼女が自分|母親だということは気づいていた。
「やめろっ、見るなっ、僕をそんな目で見ないでっ」
クルックは、いつの間にか小さな子供になって、地面にうずくまっていた。
黒い背景に、巨大な一つ目が浮かび上がり、パチパチと
”ヨモツヒラサカ“の魔紋の侵食は、少しづつ進んでいる。
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