第16話「謎の黄金騎士、登場する」

 粉塵ふんじんが天高くい上がっていた。


 ほのおも、爆風ばくふうもなかった。

 当然だ。じんく前に、魔術的な調査は済ませてある。

 トラップがないことはメリダ自身が確認しているのだ。


 なのに、どうしてこんなことが起こるのだろう。

 地面には穴が空き、空中には噴煙ふんえんのような土煙つちけむりがあがっている。

 まるで、巨大な力を地面にたたきつけたかのように。


 その現象はカイトがいた場所で発生していた。

 あの威力いりょくだ。その場にいた者は無事では済まない。

 カイトがどうなったのかも……わからない。


「……カイトさま。カイトさまぁあああ────っ!!」


 メリダは絶叫ぜっきょうした。


 カイト・キリサメは浄化の能力を持つだけの異世界人だ。

 彼にこの世界を救う義務はない。

 彼はむりやり召喚しょうかんされて、剣聖のだまにされただけなのだから。


 それでもカイトは一緒に来てくれた。

 士気を上げるために、魔物食という文化を生み出してくれた。

 戦いの意味を理解して、後ろでメリダたちを見守ってくれていたのだ。


「……この失態しったいは、わたしの命でつぐないます」


 メリダは必死に走り続ける。

 カイトのいた場所の地面は吹き飛んでいる。

 それでも、走らずにはいられない。


 この有様だ。カイトは生きてはいないだろう。

 それでも、遺体いたいを確認しないわけにはいかない。

 それがメリダの役目なのだから。


 その後でメリダは魔将軍パナケラスと戦う。

 勝てなければ死ぬ。それでいい。

 イングリッドにカイトの死を伝えるのは、他の者の役目でいい。


「カイトさま!! どうか、返事をしてください。カイトさま! カイトさま────っ!!」


 さけびながらメリダが、カイトのいた場所にたどりついたとき──



「………………トォ!!」



 なんの前触まえぶれもなく、粉塵ふんじんの向こうから黄金の騎士きしが姿を現した。


「…………え」


 メリダは思わず目を見開く。


 騎士がまとっているのは、光り輝く黄金のよろいだ。

 粉塵ふんじんの中にありながら、よろいには汚れひとつない。

 鎧は騎士の全身をくまなくおおい、内部から光を放っている。

 中の人間の顔はわからない。

 黄金のかぶとと、深く下ろした面甲めんとうが隠しているからだ。


 手には巨大な突撃槍ランス

 その威力いりょくを示すかのように、小刻みにふるえている。

 触れたら即座に吹き飛ばされそうだ。


 騎士がまたがっているのは、金色のたてがみを持つ竜だ。

 大きさは、馬よりもひとまわり大きいくらい。

 背中には2枚の羽がある。


 竜の碧玉サファイア色の目が、メリダを見下ろしている。

 主人に近づくものすべて拒絶きょぜつするような目で。

 その圧力に、メリダは思わず後ずさる。


「……あ、あなたは!? いえ、カイトさまは!?」

「……バルガス・カイトは……私が助けた」


 かぶとの向こうで、騎士の声がした。

 少しくぐもった、年齢不詳ねんれいふしょうの声だった。


「彼は私が助けて、安全な場所に移動させた」

「ありがとうございます! それで、カイトさまはどこに……?」

「安全な場所だ」

「は、はい。そこは一体……?」

「安全な場所」

「…………」

「ここからは少し離れている。人のあしでは時間がかかる。だが、安全な場所であることは間違いない。私が保証する。絶対大丈夫だ」

「…………は、はい」


 早口だった。

 教えてくれる気は、なさそうだった。


「そ、それで、あなたは──」

「『神竜騎士ドラグーン・ナイト』。魔王軍の敵だ」


 騎士の答えは短かった。


「邪悪な魔力を感知して覚醒めざめた。私はすべての邪悪を消し去るもの。邪悪なわなを仕掛けた魔将軍を倒し、平穏へいおんをとりもどすことを…………トォ!!」


 言葉を途中で断ち切って、『神竜騎士ドラグーン・ナイト』は走り出す。

 疾風しっぷうがメリダの髪を巻き上げる。


『神竜騎士』は魔王軍に向かって突進していく。

 聞こえるのは竜のいななきだけ。


 その背中に呼びかけようとして、メリダはくちびるをかみしめる。


 名前を呼んではいけない。

 黄金のよろいの中に誰がいるのか、メリダにはわかる。

 というか、他に考えられない。


 それでも、その名前を呼ぶわけにはいかない。

 メリダはカイト・キリサメの忠実な臣下しんかだ。

 彼がかくしたいと思っていることを明かすわけにはいかない。


 おそらく彼の能力は、命の危機にひんしたときに発動するものなのだろう。

 その状況を招いたのはメリダのミスだ。

 彼女は誰よりもカイトの近くで、彼を守るべきだった。


 なのに『神竜騎士ドラグーン・ナイト』は彼女を責めなかった。

 それどころか、兵士たちを守るために敵に向かって行った。

 そんな彼になにを言えるだろう。

 メリダにできるのは、彼の意思に従うことだけだ。


「『閃光の魂フラッシュ・スピリット』の皆さん!! カイトさまはご無事です!!」


 だから彼女は拡声魔術かくせいまじゅつを全開にして、叫んだ。


「そこにいらっしゃるなぞの『神竜騎士ドラグーン・ナイト』がカイトさまを助けてくださいました!! 『神竜騎士』は邪悪をほろぼす正義の騎士です!! その方とともに、魔王軍を打ち破りましょう!!」


 メリダは天に向かってこぶしを突き上げる。

 身体が熱い。

 心が、き立っている。

 こんな気持ちになったのは初めてだ。


「そして! 卑怯ひきょうわなでカイトさまを殺そうとした魔将軍パナケラスに、正義の鉄槌てっついを!! カイトさまのために邪悪をほろぼすのです!!」

「「「うぉおおおおおおおおおっ!!」」」


閃光の魂フラッシュ・スピリット』の戦士たちが雄叫おたけびをあげる。



「俺たちのカイトさまはご無事だ!!」

なぞの『神竜騎士ドラグーン・ナイト』が、カイトさまを助けてくださったそうだ!!」

「謎の騎士か!! 納得だ!!」

「ああ! 正体はまったくわからないな!!」

「わかるものか! 謎の『神竜騎士ドラグーン・ナイト』なんだからな!!」



 一瞬いっしゅんで話を合わせた『閃光の魂』たちは、それぞれの武器を握りしめた。



「許せねぇのは……魔王軍と魔将軍だ」

「ああ。卑怯ひきょうわな仕掛しかけて、俺たちのカイトさまを殺そうとしやがった」

「ぶち殺してやる!」

「いや、殺すだけじゃあきたらねぇ!!」



「「「…………食ってやる」」」



 戦士たちの眼光が、魔軍の兵士たちを射貫いぬいた。

 その形相ぎょうそうに、『ジャイアント・ウルフ』と『オークメイジ』がたじろぐ。

 まさか王国の兵士たちが、自分たちを食料として見てくるとは思わなかったのだろう。



「「「われら『閃光の魂フラッシュ・スピリット』は、これより魔物の味を確認する!!」」」



『ギィィィ!?』

『ひぃぃぃぃぃっ!?』

『グガァアアアアアッ!?』


『食わせろ』『食ってやる』『食い尽くしてやる』の言葉を聞いて、魔物たちの身体がふるえ出す。

 そして魔軍の動きが止まった瞬間──



神竜騎士ドラグーン・ナイト』が敵軍に突入したのだった。

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