第11話「『閃光の魂』の兵士たち、上司を心配する」

 ──そのころバルガス・カイト直属部隊ちょくぞくぶたい閃光の魂フラッシュ・スピリット』の兵士たちは──




「うまい!」

「ああ、うまい!」

「まさか戦場で焼き肉が食えるとはな!!」


 バルガス・カイトの直属部隊『閃光の魂フラッシュ・スピリット』の兵士たちは、き火を囲んで盛り上がっていた。

 彼らの目の前では魔物の肉が、いい色に焼けている。


 魔物食まものしょくへの忌避感きひかんは、すでにない。

 目の前の肉は、バルガス・カイトが浄化じょうかしてくれたものだ。しかも、バルガス・カイト自身も魔物の肉を口にしている。『閃光の魂』たちも毎日魔物食を口にしているが、身体に異常はない。

 逆に食事が豪華ごうかになったおかげで、心も身体も元気になっている。


 バルガス・カイトの浄化能力じょうかのうりょくはすさまじい。

 十数体の魔物をまとめて浄化し、食用にしてしまう。

 その姿はいにしえの聖者せいじゃのようだった。


「……聖者さま、か」

「……バルガス・カイトさまは負傷された後、変わられたのだな」


「変わられたのだよなぁ。本当に同一人物なのかなぁ」



「「「……し────っ!!」」」



 疑念ぎねんを口にした兵士を、周囲の兵士たちがたしなめる。


「バルガス・カイトさまは我らの主君だ!」

「疑念を持つべきではない!!」


「そうだ! 今の・・バルガス・カイトさまはとても優しい!!」



「「「……………………」」」



 同じ兵士の言葉に、今度は沈黙ちんもくがおとずれる。


「……バルガス・カイトさまと、はじめて一緒に戦ったときのことを覚えているか?」

「……魔将軍ましょうぐん占拠せんきょするとりで攻略戦こうりゃくせんだったな」

「……急いで砦を攻略するために、食料しょくりょうを捨てて突撃とつげきしたのだったな」

「……バルガス・カイトさまの命令でな」


「バルガス・カイトさまは『気力があれば、食わずとも戦える』とおっしゃっていたな」



「「「……………………」」」



「だが! バルガス・カイトさまは猛将もうしょうだった!」

「常に我らの先頭に立って戦ってくださった!」

「あの方の剣技けんぎを見ていると、敵へのおそれなどは吹き飛んだものだ!」

「あの方は強敵を引き受けてくださった!! まさに無双むそう猛将もうしょうだった!」


「とてつもなく強い方だった。その反面、傷ついた兵士をかえりみることもなかったな……」



「「「……………………お前さぁ」」」



「じゃあ聞くが、お前らは今のバルガスさまに違和感いわかんをおぼえないのか?」


「……そりゃ少しはあるけどさ」

「……大怪我をされたんだから、性格が変わることもあるだろう?」

「……なんでいちいち指摘してきするんだ?」


「そう。それだよ」

「なんだよ?」

「いちいち指摘してきしないように、協定きょうていむすぼうじゃないか」

「協定だって?」

「よく聞け。仮に今のバルガス・カイトさまが別人だとする。本物はどこかで傷をいやしているのかもしれない」

「……ない話ではないな」

「勇者姫さまたちは、それをかくそうとしている。おそらくは、兵士の士気を保つために」

「ああ、わかる。剣聖けんせいがいないと知ったら、王国軍は動揺どうようするだろうからな」

「そんな勇者姫さまたちに、俺たちが、今のバルガス・カイトさまに疑念を抱いていることを気づかれたら……どうなると思う?」

「どうなるんだ?」

「そのことは本物のバルガス・カイトさまにも伝わるだろう。そうなったら本物が、傷がえるまで大人しくしていると思うか?」

「いや……間違いなく、傷をおして前線に出てくるだろうな」

「そうだ。確実に状況は変わる」


 ──浄化の能力を持つ、今のバルガス・カイトはどこかに行ってしまい。

 ──食事に気をつかってもらうことはなくなり……。

 ──今の常識的じょうしきてきな行軍速度は、以前のような殺人的な行軍速度になる。


「「「………………」」」


「な?」


 指摘してきした兵士は気を良くしたように、まわりを見た。


「だから、俺たちは黙っているべきなんだよ」

「協定を結ぶってのはそういう意味か?」

「そういうことだ」


 兵士はうなずいた。


「特に副隊長には絶対に知られちゃいけねぇ」

「ああ。マークス副隊長はバルガス・カイトさまを崇拝すうはいしているからな」

「疑念を持ったら……間違いなく今のカイトさまを……」



小官しょうかんがどうかしたか?」

「「「────!?」」」


 焚き火をかこんでいた兵士たちが、振り返る。

 そこには灰色のヒゲの美丈夫びじょうぶ、マークス・ライブニッヒが立っていた。


偉大いだいなるバルガス・カイトさまの話をしていたようだが? あの方がどうかしたのか?」


「はっ! バルガス・カイトさまが浄化された魔物食の話をしておりました!!」

「ははっ! バルガス・カイトさまの能力に感服しておりました!!」

「はっ、ははっ! 傷がえたばかりなのに前線にたたれるバルガス・カイトさまを、皆でたたえておりました!!」


「うむうむ。ならばよし!!」


 マークス・ライブニッヒは長いヒゲをなでながら、うなずいた。


「バルガス・カイトさまは偉大! 剛強無比ごうきょうむひ! 最強無双さいきょうむそうなのだからな。今は剣が使えなくとも、いずれは以前のような剣技を見せてくださるだろう!! その時のために、我らも力をつけておかなければならぬ。今日はバルガス・カイトさまの偉大さをたたえながら、存分に飲み食いするがいい!!」

「「「はい! マークス副隊長!!」」」


 直立不動ちょくりつふどうで答える『閃光の魂』の兵士たち。

 それを見たマークス・ライブニッヒは、満足そうな表情のまま、立ち去った。


 その背中を見送った兵士たちは──


「……」

「……やばいな」

「……マークス副隊長にとってバルガス・カイトさまは、神のごとき存在だからな」

「……副隊長はバルガス・カイトさまの側にいるために、将軍になるのを断ったくらいだからな」


 兵士たちは顔を見合わせ、小声で話し合う。


 マークスにとって剣聖バルガス・カイトは信仰しんこうの対象だ。

 彼の前で『今のバルガス・カイトは別人かもしれない』などと口にするわけにはいかない。

 その言葉を耳にした瞬間、マークス・ライブニッヒは怒りに我を忘れるだろう。

 疑いを払拭ふっしょくするためにバルガス・カイトにるに違いない。


 マークスの武器は大剣だ。

 彼の攻撃は『オーガ』を吹き飛ばし、『ドラゴン』のあしを叩きると言われている。

 それが、今のバルガス・カイトに向けられたら──


「……バルガスさまは、オレらが守ろう」

「……ああ。俺たちはバルガスさまの部下なんだからな!」

「……今の・・バルガスさま・・・・・・は俺たちのことを考えてくださる! あの人を失うわけにはいかねぇ!」


「おいおい『今の・・』はないだろ? バルガスさまはひとりしかいないんだぜ。誤解されるようなことを言うなよな!」


「「「言い出したのはてめえだろうが!!」」」


 こうして、カイトの知らないところで『閃光の魂フラッシュ・スピリット』の兵士たちによる、『バルガスさまにボロが出ないように守ろう同盟どうめい』が結成けっせいされたのだった。

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