無双剣聖の影武者になった陰キャですが、各国最強の七剣たちは俺の方がいいみたいです -陰キャの英雄、やたら人望を集める-

千月さかき

第1話「剣聖(偽物)、人望を集める」

 俺が手にした突撃槍ランスが、魔族の身体を貫いた。

 魔族は悲鳴を上げて倒れる。

 地面に落ちた身体が、砕けていく。 

 ……はぁ。

 なんとか勝てた。死ぬかと思った……。


 ここは異世界の戦場だ。まわりには魔物の死体が倒れてる。

 もちろん、俺がすべてを倒したわけじゃない。

 王国軍の兵士たちも一緒に戦ってくれてた。


 俺は今、黄金の鎧を着て、黄金の竜にまたがってる。

 手にしているのは長さ1メートル半の突撃槍ランスだ。


 本当は戦うつもりなんかなかった。

 なのに……敵の別働隊がいることに気づいたのが悪かった。

 うっかり様子を見にいったら戦いになって……こうなっちゃったんだ。


 しょうがないよな。

 別働隊が王国軍の背後に回ろうとしてたんだから。

 放置したら味方が総崩そうくずれになってたかもしれないし。


 とにかく、さっさとこの場を離れよう。

 王国軍が近くにいるからな。騒ぎにならないうちに……。


「黄金の『神竜騎士ドラグーン・ナイト』が魔王軍の将軍を討ち果たしたぞ!!」

「ひぃっ!?」


 変な声が出た。

 王国軍の兵士が叫び声をあげたからだ。


 振り返ると、ミスラフィル王国の兵士たちは、じっとこっちを見ていた。

 勇者に率いられた精鋭たちだ。

 彼らは魔王軍の敵だから、当然ながら、俺の味方でもある。

 優秀で心強い戦力なんだけど……たまにテンションが高すぎてついていけないことがあるから……。


「うぉおおおおおおおおおおおっ!!」

「勇者と『神竜騎士』がいれば、魔王軍などおそるるに足らず!!」

「ミスラフィル王国万歳!! 黄金の『神竜騎士』万歳!!」

「我らの王国と、黄金の騎士に栄光を────っ!!」


 ほらやっぱりこうなった!

 やめて! 本当に勘弁かんべんして!

 魔物の返り血を浴びたまま駆け寄って来るなって! 怖いから!

 さりげなく立ち去ろうとしてるのに、なんで集まってくるの!?

『謎の黄金騎士』のことなんかほっといていいから!


「ありがとうございました。『神竜騎士ドラグーン・ナイト』さま!」

「まさか魔将軍が、王国軍本隊の背後を突こうとしていたなんて……」

「『神竜騎士ドラグーン・ナイト』さまがいなければ、王国軍は大きな被害を受けていたことでしょう!」

「王国を代表して感謝いたします!!」


 兵士たちはどんどん近づいてくる。

 彼らは王国軍の精鋭せいえいだ。王国が誇る剣聖の剣聖の、直属部隊ちょくぞくぶたいでもある。

 あんまり近寄ると……俺の正体がバレるかもしれない。

 逃げていいかな!?


 でも、彼らの無事は確認したい。

 剣聖の直属部隊の兵士たち……怪我をしてないかな。心配だな。

 ……ちょっとだけ様子を見ておこう。

 正体がバレないように距離きょりをおいて……。


 俺は黄金竜の背中をなでた。

 黄金竜は俺を乗せたまま、ゆっくりと歩き出す。

 王国兵の姿がはっきりと見えてくる。


 兵士たちのよろいは血まみれだ。

 魔物の返り血だと思うけど……大丈夫かな。


「…………王国の兵士たちよ」


 俺は兵たちから距離を取ったまま、呼びかけた。


勇敢ゆうかんな兵士たちに、聞きたいことが、ある」

「「「はい! 『神竜騎士ドラグーン・ナイト』さま!!」」」

「……………………無事か?」

「「「問題ありません」」」

「……そうか」

「「「はい!!」」」

「…………怪我人は?」


「大丈夫です!」

「怪我をした者はおりますが、かすり傷です!」

「ご心配いただき、ありがとうございます!!」


 兵士たちは手を振って元気なところをアピールしてる。

 よかった。

 動けない者はいないし、苦しそうにしている者もいないようだ。


「無事でなにより」


 俺は黄金竜の手綱たづなを引いた。


「『神竜騎士』の役目は、終わった。それでは」


「お待ちください!!」

「『神竜騎士』さまには今回も助けられております!」

「お礼をどうすれば……」


「……自分は、通りかかっただけ」


 嘘は言っていない。

 俺はうっかり魔王軍と戦ってしまっただけだからな。

 お礼とか言われても困る。


 それに、大勢の人に囲まれてお礼を言われたりするのは……無理だと思う。

 陰キャの俺にとっては拷問ごうもんだ。そんなの。

 だから──


「すべては……君たちの手柄てがらだ」


 俺はかぶとで顔を隠したまま、兵士たちに答えた。

 面倒を押しつけるみたいで気が引けるけど……ほんとごめん。


「ありがとうございました。『神竜騎士ドラグーン・ナイト』さま」


 部隊の中から、水色の髪の少女が進み出てくる。

 彼女は髪と同じ色のローブを着て、手には杖を持っている。

 王国軍の精鋭の、魔術師だ。


「このメリダ・カイントスは、決してご恩を忘れません。あなたさまの功績こうせきは王国にいるすべての方々にお伝えします」

「……ああ」

「もちろん、後方の本陣にいらっしゃる剣聖さまにも」

「…………うん。そうしてくれると、助かる」

「剣聖さまはまちがいなく本陣ほんじんにいらっしゃいます。ですから、直接お礼を申し上げることはできません。けれど、剣聖さまも『神竜騎士』さまには感謝していらっしゃると思います」

「……そうか」


 俺は兜で顔を隠したまま、うなずいた。


「ここにいない剣聖……本陣にいる剣聖に、よろしく」

「はい。間違いなく本陣にいらっしゃる剣聖さまにお伝えします」

「それではこれで……トォ!」


 俺は黄金竜の手綱を引く。

 黄金竜は俺を乗せたまま、高速で走り出す。

 俺が、戻るべき場所へ。


「……どうしてこんなことに」


 なんで陰キャの俺が、黄金に輝くよろいをまとって魔王軍と戦ってるんだろう。

 どうして、戦場で注目を集めているんだ……誰か教えてくれ。

 俺は、戦わなくてもいいはずだったのに。


「すべては……俺が召喚しょうかんされたときにはじまったんだよな」


 数ヶ月前、俺は異世界のミスラフィル王国へ召喚しょうかんされた。

 そこで勇者姫イングリッドと、魔術師メリダに出会った。

 それがすべての始まりだった。


 俺は黄金竜にまたがりながら、その日のことを思い出していたのだった。




 俺がこの世界に召喚されたのは、数ヶ月前。

 その日は久しぶりの休日だった。

 夜までじっくりとネット対戦をするのを、ずっと楽しみにしていたんだ。


 俺が好きなのはチーム制の対戦ゲーム。

 テキストチャットで仲間と連携を取りながら、敵のチームと戦うものだ。

 複雑なゲームだけど、楽しかった。

 戦闘エリアごとに戦い方を変えなきゃいけないし、敵に動きに対応する必要もある。最初に決めた戦術が変わるのなんてしょっちゅうだ。敵に裏をかかれて全滅したりもする。味方が予想外の動きをして、チーム全員がピンチになることだってある。


 あと……話ができる仲間を見つけるのは、すごく苦労した。

 テキストのチャットが使えたからなんとかなった。

 声でやりとりしなきゃいけないゲームだったら、途中でやめていたと思う。


 ゲームは楽しいだけじゃない。トラブルもある。

 ガラの悪い対戦相手もいるし、プレイの後でののしられることもある。

『ひどすぎる』『人の心がないのか』『いい加減にしろ』とか。


 そんなときは席を立って、コーヒーを淹れに行くことにしてる。

 反論はしない。

 俺が口下手なのはわかってるし。

 チームの仲間が楽しそうなのに、水を差すわけにはいかないし。

 しょうがないよな……色々な人がいるし、勝ち方にも色々あるんだから。


 そんなわけで、その日も朝からゲームにログインして、対戦の準備をしていた。

 前回のバトルの動画を見直したり。

 効率のいい戦い方を考えたり。

 武器を変えたらどうなるか、脳内でシミュレーションしていたとき──



 周囲が光に包まれて、俺は異世界に召喚しょうかんされていたのだった。

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