5話「急ぎの頼み事」

事務員と研究所の人々は驚き皆口々に話し始めた。事務員が頭を下げる。


事務員「所長の娘さんとはつゆ知らず、先ほどは無礼極まりない発言をし申し訳ありません」


アリンナ「いえ。アポ無し来る私達が悪いので」


オリオーラ「先輩。本当に悪いと思っているんですか」


オリオーラは疑いの目でアリンナの顔をじっと見つめる。アリンナは目を合わさないようにそっぽを向く。


事務員「それではアリンナ様、わたくし事務室持ち場に戻ります。お帰りの際お車をご用意致しますので、事務室までご連絡下さい」


アリンナ「お気遣いありがとうございます。その時はよろしくお願い致します」


事務員は一礼し、研究所を出た。入れ替わりに2階の所長室から螺旋階段の手摺りを掴みながら白髪の丸メガネを掛け白衣の前ボタンが留めれないほどお腹の膨れた少しぽっちゃりしたフォーマルハウト所長がゆっくり研究室1階まで降りて来た。


フォーマルハウト「一体何の騒ぎだね。静かにしてくれないか?今朝のミーティングで海で発見されたばかりの謎の生命体を研究したいと言ったばかりだろう」


アリンナはフォーマルハウトの目の前へ駆け寄り、謝罪する。


アリンナ「お父様、ごめんなさい。私がアポ無しで訪ねたばかりに皆さんに迷惑をかけてしまったの」


オリオーラは隣にいる、レベルスに小声で話しかけた。


オリオーラ「あの、アリンナ先輩って二重人格ですか?」


レベルス「え?違うけど。自分の置かれている立場と周囲の状況を瞬時に理解して大人として振る舞っているだけだよ。ってか君は誰?」


オリオーラは一度咳払いし胸に手を当てて誇らしげに。


オリオーラ「あたしは先輩の右腕と呼ばれたい優秀な––––」


一方アリンナは、謝罪のあとフォーマルハウトと世間話をしていた。研究に没頭して1週間研究所に泊まり込みでろくに家に帰らず、愛娘に会えなかったが今日久しぶりに話せたことで機嫌を取り戻した。そんな娘にデレデレなフォーマルハウトを連れてオリオーラ達の所へ戻って来たアリンナはタイミングよく会話に割り込み、表情を変えず一言呟く。


アリンナ「ポンコツ後輩よ」


オリオーラはポカンと口を開けたままショックを受け一瞬凍りつく。そして眉が下がり悲しい顔でアリンナに訴える。


オリオーラ「先輩……あたしの事そんな風に思っていたんですか!?」


ころころ表情の豊かなオリオーラに対し、全く表情を変えないアリンナはこれまた冷たい言葉を投げる。


アリンナ「残念だけど、否定はしないわね。それよりも––––」


アリンナはフォーマルハウトに急ぎで調べて欲しい事がある。その為に今日ここへ来訪したと。調べ物とはオリオーラが家の庭で拾った【タマゴの化石】の事だ。経緯をオリオーラはフォーマルハウトにも話した。アリンナの言葉より本人から話す方が説得力あるからだ。

空いている机の上に実物を見せる。するとフォーマルハウトは「とても興味深い」と言いたぷたぷの二重顎に手を当てた。


フォーマルハウト「これをいつまでに調べて欲しいんだい?」


アリンナは右手で3本の指を立てる。


アリンナ「3ヵ月」


レベルス「3ヶ月だって!?それは無茶だよ!!」


他の研究員達もレベルスの言葉に頷いている。アリンナは挑発するように次の言葉を放つ。


アリンナ「世界一優秀な研究者達が揃っているのに宇宙から来たかも知れない代物に怖気ついたのかしら?」


普通そこまで言われてしまったら逆キレするか、呆れるか、諦めるかのどれかだろう。しかし研究者彼らは研究したい気持ちは大きく揺れ動いて依頼を受けるか躊躇っている。あまりにも期間が短すぎるのでもうし少し日程を貰いたいところだ。

フォーマルハウトも悩んでいた愛娘の依頼は快く受け入れたい。しかし所長としての立場を考えると研究者達の体力も考慮しなければならないのだ。

数人の研究者の内1人の男性が手を挙げてアリンナに交渉した。彼は研究室のリーダー、ハードソン・リンウェルトンで次期副所長になるだろうと皆に言われている。


ハードソン「アリンナ様せめて、あと3ヶ月だけでも伸ばして頂けませんか?半年あれば細かい情報、あなたが望む情報も出てくるかも知れません。どうかお願いします」


研究員達に頭を下げられ、アリンナは根負けし承諾するのだった。


5話(完)続く⭐︎彡

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