2話「ボックスを抱えた女性」
ディラン達が乗船していた宇宙船が宇宙から消えてから、2年の月日が流れた。今だに彼らから連絡はなく、消えた理由が分からない。アリンナは毎日頭を抱えるばかりだった。1日に何度もディラン達の無事を祈りながらオペレーション室にある通信システムから連絡を試みるが繋がることは無い。アリンナは心の中で呟いていた。
アリンナ「ディラン、何処へ行ったの?お願いよ。生きているなら返答して……」
バタバタと廊下を走る音がアリンナのいるオペレーション室に向かっていた。自動ドアの前で駆け足を踏みながらドアが開くのを待っている。その耳障りな音を聞いてアリンナは席を立ち自動ドアへ向かう。
アリンナ「また、あの子ね」
ドアの前で待っている人間が誰なのか予想はついている。ドアの入口に着くと自動ドアは音も無く開かれた。ドアの前で待っていた人間、アリンナの後輩である、オリオーラ・アガメムノンは中くらいのプレゼントボックスを大事そうに両手で抱えていた。オリオーラはアリンナの怒った顔を見て苦笑いしている。
オリオーラ「お、お疲れさまでぇ〜す。アリンナ先輩」
と言いながらアリンナの横を背中を丸めてオペレーション室に入る。しかし、後ろからアリンナに猫の様に首根っこを掴まれた。
アリンナ「ちょい待ち。あなた社員証はどうしたの?」
オリオーラ「あははは(笑)。あるにはあるんですけど……」
笑って誤魔化そうとしているのがバレバレであり、とても言い難くそうにしている。
アリンナ「何?また
前回も彼女はカードを紛失している。今日で2回目だろうとアリンナは思っていたが、オリオーラは首を横に振っている。今度ばかりは違うらしい。目の前にある同僚のデスクの上に抱えていたボックスを静かに置いて、紺色のタイトスカートの右ポケットから真っ二つに折れた社員証を手の平に乗せアリンナに見せた。それを見たアリンナはなんとも言えない表情になり怒る気を無くした。
アリンナ「……総務課に行って作り直して貰いなさい。しばらくはゲスト用の認証カードを渡すわ。絶対紛失、盗難、折り曲げなどしないでね」
オリオーラ「はい!ありがとうございます。では、早速行ってきます!」
割れた社員証を再びポケットに入れ、アリンナから赤色のネックストラップ付きの名札ケースに入ったゲスト用認証カードを受け取るとオリオーラは首から下げた。敬礼し駆け足で総務課へ向かった。
アリンナ「返事だけは良いんだから……やっぱり
アリンナはオリオーラの走る背中を見送った。
オリオーラはディランの妹だ。消息不明の兄とディランと同じ宇宙船に乗船していた友人を見つけて助けたい、その一心で宇宙観測管理機関ザ・アースに入社したのだ。
さっき総務課に行ったばかりのオリオーラが戻って来た。
アリンナ「どうしたの?総務課の場所忘れた?」
オリオーラはちょっとバカにされムッとした。
オリオーラ「先輩、いくらなんでもあたし入社して1年になるんですよ!流石に総務課の場所くらいわかりますよ。ほぼ毎日行ってますから」
アリンナ「毎日!?行き過ぎでしょ。あなた総務課を便利屋さんか何か勘違いしてない?」
オリオーラ「してませんよ。まぁ……色々と相談事は……してるかな」
目が泳いでいる。便利屋さんと思っていることは図星のようだ。オリオーラは同僚の席に置いたままのボックスを両手で抱え自分の席へ移した。そして真剣な目でアリンナに言った。
オリオーラ「先輩。今から言うことに驚かないで下さいね」
勿体ぶるオリオーラに対し平然とした顔でアリンナはボックスに目を向けた。
2話(完)続く⭐︎彡
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