序章 第5話〈見えない主〉
僕は箱音弧さんに促され、洋館に入る。
生憎。僕は、洋館という場所に初めて訪れました。
なので、中に入った印象は漫画やゲームの様だと思いました。
箱音弧さんは、そんな僕の前をゆったりとしたペース歩いています。
まるで、僕の驚きや緊張をわかっている様に。
そして、僕は一つだけ館におかしな点を見つけました。それは、明かりです。
入る前は、霧のせいだと思っていましたが、やはりこの洋館。少し暗いです。
それも、その光は箱音弧さんが近寄れば近寄るほど、その光を失っていき、
箱音弧さんが離れると元の明るさへと戻っていきます。
そんな事象に目を惹かれる内に、箱音弧さんは目的の部屋へ辿り着きました。
部屋の扉にはゲストルームと書かれています。扉を開き、
「御入り下さい」と、僕を部屋の中へ促す。そして、
「どうぞ、お掛けになって下さい。」と、僕に席に着くよう言う。
ゲストルーム内は、ガラスのローテーブルと、それを挟み向かい合う様に置かれる、
ゲストの為の3人用ソファー。向かいには箱音弧さんの席である、1人様ソファー。
箱音弧さんは、僕が座ったのを確認した後、自身の席に着く。
そして、そのまま口を開く。
「では、改めて。今日は何をお聞きに?」
「この街について。この街の人間について。もしくは、あなた自身について。」
そして、僕は箱音弧さんにそのどれとも違うものを質問する。
「あなたは、何者ですか?」
彼女は。箱音弧 麻衣は小さく、「やはり、あなたもそう言うのですね」と言ったあと。
「私について、ですか。そうですね。時間もありますし少し、昔話をしましょう。」
「とある普通の家庭に生まれた赤児は、めでたい事に1歳の誕生日を迎えた。」
「しかし、その誕生日は祝われる事は無かった。何故だと思います?」と、
箱音弧さんは僕に問いかける。僕は、少し考えた後に。
「忙しいかったとかですかね。何か医療や警察。普段から、あまり家に帰れない職業で、」
「その日も。仕事で家に帰れず祝えなかったとか。」
普通の家庭にならこんな理由だろうと思い答えた。しかし、彼女は。
「いいえ。違います。」と言った。僕は、
「では、子供をあまり好いていなかったとか?だから、誕生日も祝わなかった。」
そして、この回答に対しても。
「いいえ、違います。赤児の親はたいそう子供が好きでした。」と、言う。
そして、また僕は考え直す。ただ、それから僕の中に新たな可能性は、生まれない。
僕が、回答に詰まったところで箱音弧さんは、
「正解は、とても簡単です。誰でもおきえる自然現象。赤児の親は、忘れたんです。」
「自身の子供の存在を。」
箱音弧さんが言った答えを、僕は信じられませんでした。
幾ら忙しいといえど、子供の存在を忘れるなくてありえない。
ましてや、忙しくもなく、子供好いていれば尚更です。
これは、きっと僕だけじゃない。誰もがそう思うでしょう。
そして、箱音弧さんは話を続ける。
「赤児の親は、その日。誕生日の為に料理をしていた。」
「それはそれは楽しそうに。その場の空気は、和気藹々とした幸せに満ちていた。」
「しかし、そんな楽しい空気が引き金となった。」
「赤児の親は、一瞬。ほんの数秒。いや、もしかしたら、1秒にもみたいかもしれない時間」
「2人の世界へ入ってしまった。赤児を視界の。意識の外へ、置いてしまった。」
「その結果。赤児は存在そのものを、その日丸一日忘れられてしまった。」
それを告げられた瞬間。僕の中で点と点が繋がって行く。
「それは、少女が物心がつき。保育園通い出した頃となっても変わらなかった。」
「家でも定期的に忘れられ。保育園では1週間その存在を忘れられた事もあった。」
「そして、最終的に。少女はとある施設に入れられる事になった。」
「少女の親も最愛の子供との別れを惜しんだが、それさえもすぐに忘れてしまった。」
僕は全てを理解しました。
この洋館の場所を覚えている者がいなかったり。
この洋館そのものが霧によって隠されていたり。
それは、この人がこの洋館にいるから。
世界そのものから与えられて、彼女の特異は彼女が住うこの洋館そのものや、
周りの森にまで影響を及ぼした。その結果、洋館の明かりは彼女を隠す様に消え。
洋館に訪れた者もその場所を忘れ。挙句には、森そのものが彼女を隠す。
彼女。箱音弧 麻衣は見えない館の、見えない主なのだ。
「さて、私の話はここまでにして。ここに来た理由は、もっと別のことでしょう。」
「さぁ。なんでもお聞きください。」
そうして、箱音弧さんは自分の話を終わらせた。
僕も、この話を続けようとは思わなかった。
そして、僕は箱音弧さんに質問をする。
「この街の人。あなたや、昨日この洋館について教えてくれた新しい友達。」
「そして、一方的に確認した。他の住人。あなた達は、何者なんですか?」
「あなた達は、その存在自体が街の外では考えられない。」
「しかし、皆一様に互いを認めている様な空気を漂わせている。」
「一体、街の住人はそれぞれ何を持っているんですか?」
僕の恐れが混じる質問に、目の前の女性は淡々と答える。
「では、順番にお答えしましょう。」
「まず、私を含めたこの街の住人が何者か、と言う質問の答えですが」
「真実はわかりません。ただ、一つだけ言える事は、この街の人間は皆」
「"探索者"だと言う事です。」
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