第6話 再起 初代のライオン

いつも通りのラボ、俄雨が降る薄暗い午後のこと。

あおいは、飛蝗ばった怪人となった倫悟りんごくんに名前を託し、疾駆しっくセイバーとしての戦いから身を引いたね」

「それがどうかしたか?今更そんな話をしたって仕方ないだろ……」

何か意図があるとしか思えない慈亞じあの発言に、あおいは思わずむっとして返す。

「いやいや、未練とかないのかなーって思ってさ」

「あの時言っただろ、力のない俺なんかよりも、皆導かいどうくんの方が適任だ」

その言葉を聞いて呆れたように立ち上がる慈亞の手には、黒い仮面のようなものが握られていた。

「ふゥ〜ン、じゃあコイツは処分だな!私の持てる全技術を詰め込んだんだがねぇ〜」

「全技術って……その仮面がか?」

何が何だか理解できない様子の葵に、宰苑は軽く説明する。

「私が獅子しし怪人のデータを元に作成したパワードスーツのキーとなるアイテム、と言えばわかりやすいかな?これを使えば怪人に匹敵!いや、それすらも超える力を手にすることができる」

「それってつまり……!」

あまりにも予想外な展開に、葵の顔が綻んだ。


***


倫悟りんごはというと、放課後の学校でたけしに絡まれていた。

「マジで頼みますよ!『マゼンタモンスターズ』の名誉顧問になってくださいよ!」

「まーたそんな仰々しい名前使っちゃって〜、君たち三人だけでしょ?」

「それはそうなんすけどガチでリスペクトしてるんで、どうかお願いしますって!」

彼らが学校に来るようになったのは嬉しいが、毎日のようにスカウトしに来るので少し疲れているのが現状だ。いつも通りそんなやりとりをしていると、宰苑からメッセージが届いた。

果音かいん区 天従世てんじゅうせい商事に蜘蛛くも怪人」

果音地区といえば、人通りも多くビルも密集したオフィス街だ。これ以上被害を拡げるわけにはいかない。

「あ、そういえば用事があったから帰るね!」ベタな演技で押し通し、現場まで滑る路面を飛ばした。


***


「こんなクソみてぇな会社、俺がぶっ壊してやる!」

そう叫びながら縦横無尽にビルの壁を這い回る蜘蛛怪人の体には、スーツのような布の残骸がまとわりついている。この会社の社員だったのだろうか。

「変身!」倫悟は疾駆セイバーに姿を変えると、未遂に終わらせるべく蜘蛛の背中に跨った。

「お前もしや……疾駆セイバーか!」

蜘蛛怪人はそう叫ぶと、吐き出した糸で大きくスイングして疾駆セイバーを振り落とした。地面に叩きつけられた倫悟は、初めて変身した時に戦ったものより格段に強いことを瞬間的に悟る。

「ヒーロー気取りの同族殺しが!死ねぇぇっ!」

糸で勢いをつけた蹴りが疾駆セイバーを吹き飛ばし、ビルの窓ガラスを突き破った。

「これがトドメだ!」蜘蛛怪人が拳を振り上げる。

このままだと本当に死ぬ。そう思った瞬間、どこからか駆けてきたバイクが蜘蛛怪人を撥ね飛ばした。

「どいつもこいつも俺の邪魔しやがって!今度は何なんだよ!」

「もしかして、葉刈さん……!」


「俺は疾駆セイバー、二人目の……いや、最初の!『疾駆セイバー』だ」

コートを靡かせてバイクから降りた葉刈は、システムヘルメットを脱いで答えた。

「やっと言えるぜ……変ッ身!」

仮面のようなものを懐から投げると、葉刈の顔に張り付いて固定される。

バイク後部から光の飛沫しぶきが噴き出し葉刈の体に降り注いだ刹那、その姿は黄金に輝く鎧を纏ったライオンの戦士になっていた。

「怪人じゃない、機械的な見た目…もしかして宰苑さんが!」

「あぁ、君や獅子怪人のデータを解析して、あいつが拵えてくれたパワードスーツだ」たてがみを模した硬質の頭部を撫であげると、夕陽を反射して優美に輝く。

予期せぬ援軍に安心したのか、その場で倫悟は気絶してしまった。


***


「よく聞け!疾風かぜを駆けて全てを救う!俺たちが…疾駆セイバーだ!」


葉刈は高らかに叫び、ライオンに由来する走力で接近し、鋭利な爪のついた拳で殴打する。圧倒的な打撃力の前に蜘蛛怪人はなす術もなくラッシュ攻撃の餌食となった。

勝ち目がないことを確信したのか、ビルの壁を這って逃げようとする蜘蛛怪人。

「逃がすか!」

葉刈が重力にも抗うほどの脚力でビルの壁を駆け上がると、蜘蛛怪人は震えた声で問う。

「なんなんだ…なんなんだよお前らァ!!」

「何回も言わせんじゃねえ!俺たちは疾駆セイバー、平和を愛するだけの人間だ!!」

追いついた葉刈は蜘蛛の首根を掴み、ビルの壁が欠けるほどの力で身を投げ、急降下する。

空中でも絶え間なく頭部を殴打し続け、パイルドライバーで地面に叩きつける。


例に漏れず蜘蛛怪人も、恨み節を吐きながらみるみるうちに溶けてアスファルトに消えた。


***


「いやぁ〜驚きっすね!まさか葉刈さんが疾駆セイバーになっちゃうなんて!」

「あはは…」大興奮の謙飛けんとに、最初の疾駆セイバーは自分なのだとでも言いたげな様子だ。

「少しは葵に恩返しできたかな?」

「バカ言うな、いつもお前には世話んなってばっかりだろうが」

そんな微笑ましいやり取りに、倫悟も思わず笑みをこぼした。

「葉刈さんと宰苑さん、助けて下さって本当にありがとうございました」

「俺だってあの時皆導くんに助けられたからな、やっと借りを返せただけだよ」

「君が獅子怪人の歯を掻っ払ってこなかったら完成させられなかったからねぇ、礼を言うのは私の方さ」

「でもでも、二人とも『疾駆セイバー』って名前じゃどっちがどっちか分からなくなっちゃいません?」

いつも軽骨きょうこつな謙飛にしては鋭い指摘だ。

「では『疾駆セイバー』の後に続く個体名を付けるとしようか」

斯くして宰苑の命名により、二人の疾駆セイバーの名前が決まった。

怪人でありながら人類のために闘う飛蝗の戦士「ソートル」と、スーツを纏って己の護るべきもののために闘う獅子の戦士「ヘリアス」。彼らは、戦い続ける覚悟をより強固なものとしたのだった。

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