秋の午後、クラスメートたちの声が賑やかに響く教室。藤原悠真は友達と笑い合っている。いつも通り、平和で穏やかな日常だ。

隣の席に座る桜井美咲は、どこか遠くを見つめるような目をしている。その冷静で落ち着いた雰囲気から、クラスの中でも一歩引いた存在として認識されている。

美咲は悠真のことを、友達だと考えているだろうか。いや、違う。彼女の中では悠真は特別な存在だと気づいているのは、他でもない美咲自身だった。

「悠真、最近どうしてるの？」

美咲がぽつりとつぶやいた。その声に、悠真は少し驚きながらも答える。

「うーん、特に変わりはないよ。なんで急に？」

悠真は気楽に笑いながら、特に深く考えずに答える。

その時、美咲の目がほんの少しだけ細くなるのを、悠真は気づいていなかった。ただ、美咲が彼に話しかけることが少ないということを、彼は知らなかった。

「何でもないの。ちょっと、気になっただけ。」

美咲はそう言って、また視線を外した。しかし、その背中に隠された思いは、悠真には見えない。

放課後、美咲は悠真に声をかけた。

「悠真、放課後、ちょっと寄り道しない？」

悠真は少し驚きながらも、「うん、いいよ」と答える。実際、美咲に誘われること自体が珍しいので、無意識に嬉しさがこみ上げてくる。

放課後、二人は美咲の家へ向かう。美咲の家は静かな住宅街にある、落ち着いた雰囲気の家だ。

「ここで少しだけ、休んでいって。」

美咲は悠真をリビングへ案内した。悠真はくつろいだ様子でソファに座る。

「うん、ありがとう。」

悠真は何も気にせず、リラックスして座った。その無防備な姿に、美咲は少しだけ心がときめく。

美咲は悠真の隣に座り、無言で彼を見つめる。悠真はそのことに気づかない。無邪気にテレビをつけて、何気ない会話を交わすだけ。

「悠真、実は、ちょっと聞きたいことがあるんだけど…」

美咲が静かに口を開く。その言葉に、悠真は興味を持って顔を向けた。

「ん？何？」

悠真は真剣に美咲を見つめる。

美咲は少しの間、迷ったように口を開いたが、すぐに目を逸らす。

「最近、誰かと仲良くしてる？」

その言葉は、他のクラスメートについて尋ねるのと違って、どこか不安を含んでいた。

悠真はその質問に無意識に答えた。「うーん、特に誰かとは…まぁ、普通にみんなと話すくらいかな。」

美咲はそれを聞いて、ほっとしたような、少し寂しそうな表情を浮かべた。それでも、心の中では次第に自分の想いを押し殺すのが辛くなっていた。

「悠真は…私と一緒にいるの、嫌じゃない？」

美咲がその言葉を呟いた。悠真はその意味を深く考えずに、ただ無邪気に首をかしげる。

「え？嫌じゃないよ。なんで？」

悠真は答えたが、その返答には無自覚な鈍感さが溢れていた。

美咲は一瞬だけ息を飲み、そして顔を赤くして笑った。

「よかった…。なら、これからも、ずっと一緒にいてね。」

悠真はその言葉を素直に受け入れ、「うん、もちろん」と答える。美咲の顔が少し明るくなる。

しかし、心の中で美咲は微笑みながらも、彼女の想いを知らない悠真に少しだけ苛立ちを感じていた。彼の鈍感さは、時に彼女を切なくさせるが、それでも彼が自分を必要としてくれる日が来ることを信じていた。

「悠真、あなたは私だけのもの。」

美咲は心の中で静かに誓った。彼女の愛は、時に強く、そして深く沈んでいった。