無能と蔑まれた少年の英雄譚~神代の魔王様~

宵闇 暁

第1話 プロローグ1

斉王暦2048年、第六次人魔大戦、戦場 セイラム草原


 「魔術師団、魔術発射用意!」

 「「「「「「術式構築―神炎の裁きジャッチ・ジン」」」」」」

 「発射!」


煌々とした炎弾が多数飛来してくる。聖なる属性を持った砲撃が魔なるものつまり魔族を焦がし力を削ぐ。だが、やられているばかりではないとばかりに、


 「「「「「「術式構築―魔雷杖ガイラ」」」」」」


その後黒く輝く雷が草原を駆け巡り人族の兵を焼き殺していく。元来、魔族の方が魔法適正が高い。それゆえ、この攻防での勝敗は魔族の勝利となる。死者数が魔族の四倍というあまりもの被害に人族の将軍は戸惑った声を上げ、退却を命じる。


 「ひ、引けー!砦に引き、勇者様の到着を待つ。引けー!」


人族の兵たちが各々魔術を放ちながら退却していく。しかし、行く手を阻むように結界が展開される。


 「愚かなる人族の兵よ、貴様らを逃がす気はない。」


奥から、禍々しい装備を身に着けた黒髪黒眼の青年が歩いてくる。魔族たちが跪く。

そう、彼こそが当代最強の魔族、魔王イリスである。


 「暗雲聖雷インドラ


彼が静かに、しかし戦場によく響く凛とした声で唱える。結界内が雷で満たされ兵士たちは足を止める。


 「自らの罪を噛みしめながら逝け。 闇夜に舞う雷獣の牙フェリノ・レ・ダリナ


そして、それは肉体的なダメージだけではなく、精神、つまり魂にもダメージを与える。後数秒あれば彼らは精神崩壊をしていただろう。しかし、その前に彼に向かって飛来する、一つの人影があった。彼は常時発動している索敵サーチでそれを感知し、即座に後方に大きく飛ぶ。


 「すまない、到着が遅れた。私たちが彼の相手をするから君たちは早く退却するんだ。」


そう、言い放った短い金髪に青く澄んだ目をする少女が勇者・レイナである。

そこに付き従うのは、聖女・リーフ、賢者・ルナ、剣聖・アオイ。

人族の兵士が引いていくのに合わせて、イリスも、


 「...両軍を両界の領域線まで引かせろ、これを最後の決戦としようぞ。」


実はイリスはこの戦争に飽き飽きしていた。彼が求めるのは両界の平和。だだそれだけ。だが彼は魔王、魔族の王だ。同胞が殺されるのを黙ってみているわけにはいかない。

両軍が完全に撤退したのを確認してから、少女に向かって、


 「...久しぶりだな、勇者達よ。」

 「ああ、そうだな。再開がこんな場所だなんて思わなかったがな。」


勇者がそう言うと聖女も彼に訴えかける。


 「魔王イリス!あなたはこのようなことをするような方ではなかった!先代の王の意思をつぐのではなかったのですか。」

 「そうだ。だが、人族は魔族を恨み、魔族は人族を恨む。この大きな運命の歯車は私一人では止められなかった。だからこそ今ここにいる。死んでも恨んでくれるなよ、勇者よ。」


彼の前に一振りの赤黒い禍々しい剣が顕現する。


 「『血を飲め 狂え 悪意の星を身に落とせ』・血狂常闇剣ダーインスレイヴ


数多の黒い斬撃が彼らに飛来する。


 「っち!」


勇者と剣聖が聖剣を振ると前方の斬撃は相殺される。しかし、完全には殺しきれずに直撃したかのように見えた。しかし、賢者が間一髪のところで多重結界を挟むことに成功した。


 「『偉大なる精霊王よ 四元の力を 我らを守り給え』・四大精霊結界エクストラ・マジック・ガード!」


それは、この世界の魔術という部類であれば最強格の防御魔術である。それでも幾分かは防ぎきることが出来ない。勇者の右腕、剣聖の脇腹が無くなる。しかし、それは即座に聖女によって癒される。


 「ふむ、いい連携だ。少しは成長しているみたいだな。」


素直に感じたことだった。前回、彼らとの戦闘では、コレを使わずとも圧勝だった。だが、軽いジャブとは言え聖痕を防ぐのは称賛に値するだろう。


 「だが、終わりだ。せめてもの情けだ。苦痛を与えず焼き殺してやろう。

燃える魂ファルガ・フィラ


精神を蝕む炎が彼女らを焼き尽くさんと襲い掛かる。剣聖が相打ちに持っていこうとしたのか炎の隙間を剣圧で拡張し、襲い掛かってくる。


 「剣魔神威!」

 「幻影ファントム


剣が触れた部分から蜃気楼のように揺らいで、空振る。続けざまに反撃を仕掛ける。


 「『原初の光輝 王者の風格 神の祝福を 愚者の牙に』・聖者の光輝アレキサンドライト


フォレストグリーンとバーガンディーがまじりあったような神秘的な光と膨大な魔力を込めた一撃。それは彼女の聖剣の防御を突き破り胸に大きな穴を開ける。


 「...後は任せたぞ、レイナ。」


剣聖の眼から光が無くなり、崩れ落ちたその後、右から勇者が聖剣を金色に輝かせながら接近してくる。


 「よくも、よくもアオイを殺せたな、魔王!!貴様も含め我々は平和な世を作ると誓い合った盟友だろう!」

 「世迷言を。もはやここまで来てなお、平和な世?戯言もいい加減にしろ勇者。剣聖は死に、賢者は魔力枯渇、聖女も虫の息。ここまで来て貴様に何が出来る。さっさと王族の首を並べ人間族は我ら魔族に支配されるべきだ。それしか方ほ「黙れ!」、、、」

 「貴様は私たちがどんな気持ちで鍛錬に励んでいたと思っている!!平和のためだ!人族と魔族が共存出来るように、そう誓って、なのに貴様は裏切った!」

 

彼女は金色の覇気を纏いながら彼女の聖剣・聖龍剣バハムートを構え、距離を詰めてくる。俺も自身の魔剣で撃ち合う。

甲高い剣戟の声が辺りに響く。


 「闇夜に舞う雷獣の牙フェリノ・レ・ダリナァ!!」


それに割り込むように満身創痍の賢者が自身の魂を削るように雷属性でもとりわけ、発動速度、精密性が高い魔術を打ってきた。燃える魂ファルガ・フィラで死んだはずだが、、、なるほど聖女の霊魂譲渡か。っち、揃いも揃って厄介な。


 「《崩壊せよ》」


原初のルーン語を使い、一瞬で解析、そして術式ごと分解することで雷を躱し、勇者を蹴り飛ばしたその瞬間に自身の影を使った咒弾を勇者を放つ。


 「飲まれた影光星ヤリファ・ダ・ステラ


それは正確に心臓へと穿たれ、命を刈り取る。そしてこれで穿たれたものは蘇生不可の呪いがかかる。神の奇跡を起こそうとも無駄なことだ。その神でさえ俺が喰ったのだから。そう思っていたが、、、


 「、、、、、」

 「貴様は魂ごと消滅させたはず、、、何故立てる、勇者。」


そう、彼女は倒れずこちらを凝視していた、だがその目に光は無く、表情も虚ろだ。俺が追撃を仕掛けようとした時、彼女の顔が歪んだ。そこから、少年のようで老婆のようで何とも言えない声が響いた。


 『はは、、、ようやく自由になれたぞ?貴様は、、、、魔王イリスだったか?感謝するぞ。』

 「、、、何者だ貴様は?勇者ではあるまい。」

 『そうか?我はぞ?滅びと救いは表裏一体。救いの勇者はこうして滅びの勇者へと反転したわけだ。』

 「貴様は災いということだな?」

 『災いの定義は貴様の勝手だろう?我は秩序を守るのみ。』


くくく、、、といった含み笑いを漏らしながら禍々しくなった剣をこちらに向ける。ならばこちらも相応の答えを見せようではないか。


 「『討て 穿て 裁て 全てを捨て 頂点に立ちし 神狼の牙を 我が手に』」


神秘が、秩序を喰らう秩序が俺の手の中に集まり、剣の形を取る。


 「顕現せよ、孤島の神狼ヴァナルガンドよ」


俺の手には淡い水色を纏う剣があった。これは、魔剣。人間の使う聖剣に対抗して造られた七十二の剣のことだ。それぞれに適性があり、この剣、孤島の神狼ヴァナルガンドに選ばれたものが魔王になる資格を得る。


 「さらばだ、狂った勇者よ。」

 『ほざけ、ガキが。』


二つの剣閃がぶつかり、世界が揺れる。

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