退廃的焼きそば

白川津 中々

◾️

幼稚園の頃は仮面ライダーで、小学生の頃は社長で、中学生の頃は声優で、高校生の頃はユーチューバーで、夢はころころと変わっていき、今は正社員である。


どんどん夢のハードルは下がっているけど、なれる気がしねぇなぁ。


PCモニタに出力されている履歴書。志望動機の欄は空白。動機もくそもない。安定して金がほしいだけだ。そこを建前で塗りつぶすのが、酷く気怠い。


普通の生活ってのは、難しいもんだね。


当たり前に学校へ行って当たり前に高校を出て、当たり前に働けると思っていたらそんな事はなかった。就職面接の結果はすべて落選。それでも金を稼がねばいけないから、バイト、バイト、バイト。気がつけば三十手前。収入や世間体を考えると定職に就きたいが、今更人生の軌道修正なんてできるわけもなく、する気もなく、それでいて、ただ無気力に、今より楽な生活をしたいと望んでいる。仮面ライダーも社長も声優もユーチューバーも同じ。当時の俺は、彼らを見て楽そうだから、なりたいと思っていた。


みんな、頑張ってるのになぁ……


仮面ライダーも社長も声優もユーチューバーも楽しいばかりじゃないし楽なわけでもない。それを知り、「なれない」と諦め、俺は徐々に人生をくだっていった。結果、無気力無力な底辺生活が続いている。それで満足できれば幸せになれそうだが、どうしてだか、変わりたいと思ってしまう自分もいる。何もできない、何もやらないくせに。


……昼か。


結局履歴書は埋まらず、焼きそばを作ってビールを飲んだ。退廃的な味が身に染みる。


悪くない。焼きそば屋でも始めるかな。


ありきたりな焼きそばを食べながらそんな妄想をする。バイト生活は、まだまだ続きそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

退廃的焼きそば 白川津 中々 @taka1212384

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ