第13話【お邪魔しま~す ー後編ー 】

 初めてプレイしたUMOを存分に楽しんだ銀仁朗が「わし、UMO好きやわ」と満足そうに笑顔で呟いた。

 それを聞いた麻美が「持って来てよかった~」と言い、銀仁朗に笑顔を返す。

「麻美、ありがと。小学校の修学旅行ぶりにやったけど、楽しかったね」

「ね~。でもまさか銀ちゃんにも負けるとは……無念」


 玲は、頭を抱え悔しがる麻美の背中を優しく撫で「よしよし、次は頑張ろうねー」と言って慰めた。その時、不意に麻美の背後に置いてあった荷物に足が当たってしまった。


「あ、ごめん蹴っちゃった」

「全然大丈夫だよ~」

「てか、この大きな荷物は何? 来たときから気になってたんだけど」

「ふふふ、気になっちゃいましたか。では諸君、今日のメーンイベントと行こうか~」


「お、なんや。UMOよりオモロいもんがまだあんのかいな」

「銀ちゃんが楽しめそうなおもちゃを探してたら、兄ちゃんが昔遊んでたコレを見つけたんだ~」

「まさか、勝手に持ってきたの?」


「ちゃんと許可は得てるよ~。もうやらないから、気に入ったらあげてもいいって言ってたし」

「なんやなんや。勿体ぶらずに早よ開けぇな」

「はいは~い。では……ご開帳〜」


 大きな袋から出てきたのは、玲にも見覚えのあるパッケージだった。

「あ、これは『野球ボード』だね! おもちゃ屋さんで見たことある」

「そそ。これなら銀ちゃんも遊べそうでしょ!」

「確かにいいかも」


「野球ボード、言うたか? 野球なら大川のおっちゃんとやったことあるけど、野球ボードいうんは初めてやな」

 聞きなれない名前が出てきたので、麻美が質問する。

「玲、大川のおっちゃんって誰?」

「銀ちゃんの飼育員してた人だよ。銀ちゃんに言葉教えた人でもあるんだ」


「おぉ。大川のおっちゃんさんのおかげで、今この尊き時間を過ごせているという訳ですな。大川のおっちゃんさん、感謝永遠に……」

 空を見上げて手を合わせる麻美に、銀仁朗がツッコむ。

「なんか往生したみたいな言い方しとるけど、まだご健在やで。今は淡路島にあるウェールズの丘いう所でコアラの飼育員やっとるはずや」


「そこで、銀ちゃん第二号を養成してるかもだね~」

「どやろな」

「んじゃ、雑談はこのくらいにして、野球ボードやっていきましょうか~」

「私もやったことないので、麻美先生ご教示お願い致します」

「ふむ、よかろう。ではまずお手本として、うちと玲でやってみるから、銀ちゃんはちょっと見ててね~」

「はいよ」

「始めに、じゃんけんして勝った人が、先に打つ人やるか、投げる人やるか決めま~す」


 二人は「じゃんけんポン」という掛け声と共に手を出した。

「あ、うちの勝ちだから、先に打つ方やろうかな~」

「おっけー」

「では、投げる人——って何て言うんだっけ?」

「ピッチャーじゃない?」


「そう、それ! 玲がピッチャーね。ここの溝にボールをセットして、ここのレバーを引いて離すと、ほらこの通りボールが投げられま~す」

「なるほど。レバーの引く力を調整したら早いボールと遅いボールが投げ分けられるって書いてある」


「打たれないようにするには、駆け引きが重要だからね~」

「投げ方はよう分かったから、次は打つ方の説明よろしゅう」

「りょ。で、打つ人は……何だっけ?」

「えっと……バットマン?」


「それ、黒いスーパーマンみたいなやつじゃね?」

「ちょっとお調べ致しますね~。少々お待ち下さい……あ、惜しい。バッターだった」

「聞いたことある!」

 とても初歩的なところで壁にぶち当たる二人を見て、銀仁朗はこめかみを掻いた。

「なんや二人とも、全然野球の知識ないやないか」


「実は野球やっこと一度もないんだよね~。兄ちゃんが小学生の頃にやってたのをちょっと見てたくらいで、あんまり興味なかったし」

「うちのお父さんは、休みの日はいつもテレビで野球観てるけど、私もあまり興味持って見たことない」


「大川のおっちゃんも、野球は女子より男子に人気なスポーツやとは言うてたな」

「そそ、だからルールとか聞かれても分からんのですよ~。あはは~」

 開き直った麻美に、同意を示すように玲も前向きな発言をする。

「まぁ、なんとなく楽しく遊べたらいいんじゃないかな」


「玲の言う通り! で、何してたっけ? あぁ、打ち方の説明の続きだね。打つ方は、こっちのレバーを引いて放すとバットが振れま~す。投げたボールにタイミング良く当てられたらオッケーです」

「単純だけど、意外と難しそう」

「なんとかなるっしょ! んじゃルール説明も終わったし、いざ第一回戦、やってみよ~う♪」

「そうだね、やるからには負けないよ」

「臨むところだ!」



 最後のバッターをアウトに抑えた麻美が、腰に手を当て勝ち誇った。

「へっへーん。楽勝だったな~」

 麻美は勝利を喜びながらも、内心ではUMOのリベンジを果たせたことに安堵していた。

「全然当たらなかったよぉ。そしてめっちゃ打たれたよぉ。銀ちゃん、私の仇を討ってきて!」


「りょーかいや。頭の中での練習はバッチシできてあんでー」

「初心者とはいえ、うちは手加減しまへんで~。いざ尋常に勝負だ!」

「わし、先打たせてもろてえぇか?」

「もちろん。じゃあ、うちがピッチャーで始めるよ~」


「よっしゃ、こーい!」

「ピッチャー、第一球……投げた!」

「おりゃぁぁぁぁ」

 銀仁朗の気合とは裏腹に、バットは見事に空を切る。


「空振りで1ストラーイク」

「よ、よし。次は当てるで!」

「第二球、投げまーす」

「そりゃ! おっ、当たった!」

「でもファールだから、2ストライクだね。これで追い込んだよ〜」


「大丈夫や、今のでコツ掴んだわ」

「ふっふっふ。絶対抑えてやんよ」

「その自信、わしのバットでへし折ったる!」

 そして迎えた三投目……その事件は起きたのだった——。

「第三球……投げました!」

「うぉりゃー! って……はぁ⁈」


 銀仁朗のバットは、再び空を切った……が、ボールはどこにも見当たらない。

「よっしゃー! 空振り三振‼」

「ちょちょちょ、ちょ待てよ! おかしいやん! 玉消えてもたがな」

「そだね~、消えたね~」

「なんでやねん!」

 麻美はドヤ顔を決めながら楽し気に言い放った。

「必殺の……だよ!」


「いや、玉消えるとか聞いてへんがな」

「うん、言ってないもん」

「卑怯や……この娘、むっちゃ卑怯や!」

「勝つ為には何でもやるぜ、うちは。これが本当のじゃい!」


 玲は、慈悲深い仏の様な顔をしながら麻美をいさめる。

「麻美さん、素人相手に大人気ないですわよ」

「ゔっ、玲様……。そんな顔で私を見ないでぇ~」

「とりあえず、さっきのやり方をきちんと我々にも教えてもらえますか?」

「はっ、はい喜んでぇ~」

「ゲームはフェアでなくっちゃね」



 銀仁朗の第一打席は、麻美の小細工による波乱の幕切れとなったが、その後は思いのほか白熱した戦いが繰り広げられた。

「銀ちゃんやるねぇ~。初めてなのにホームランまで打っちゃうし!」

「でも、結果はわしの負けや。悔しいのぉ」

「その気持ち、よ~く分かるよ。うちも、兄ちゃんにずっとコテンパンにされてきたからね~」


「もっかいやろ! 今度は玲とわしでやろや」

「最下位決定戦だね~」

 少々嫌味な言い方をされ、玲が剣呑な目つきをする。

「麻美、うちら初心者なんだから、そんな言い方しないで」

「ごめんごめん。でも銀ちゃん、野球ボード気に入ってくれたみたいで良かった~」


「わし、野球ボード好っきゃ」

「ならあげるよ。兄ちゃんからは許可貰ってるし!」

「ホンマか! 嬉しいなぁ。ありがとう麻美。お礼に、ユーカリたんまり持って帰ってな」

「だからいらねーって」

 麻美がそう言うと、部屋の中は笑い声に包まれた。


 

「お邪魔しました~」

 玄関から麻美の挨拶が聞こえてきたので、英莉子はソファから立ち上がり、見送りに向かった。

「あら、麻美ちゃん。もう帰るの?」

「銀ちゃん、遊び疲れたみたいで寝ちゃいましたし」

「そう。相手してくれてありがとね。またいつでもいらして」


 麻美は丁寧にお辞儀をし、上体を起こそうとした時、英莉子の後ろに隠れている桜の存在に気がついた。

「ありがとうございます。あ、桜ちゃんだ~! ヤッホ~。ずいぶん大きくなったね~。玲に少し似てきた?」

「麻美ちゃん……うちも一緒に遊びたかったなぁ。今度来たときは、桜も一緒に遊んでいい?」

 まだ、あどけなさが残る少女からの可愛い懇願こんがんに、麻美の変なスイッチが入った。


「大原家……何て尊いの! 銀ちゃんも、桜ちゃんも可愛いが過ぎるんすけどぉ~‼」

「麻美、落ち着いて。鼻息が荒くなってるよ!」

「おっと、いけねぇ……」

「ふふっ。今日は本当に来てくれてありがとね。銀ちゃんもすっごく喜んでた。野球ボードのお礼、お兄さんに言っておいてね」

「わかった。伝えとく」


「そだ! 持って帰る?」

「何を?」

「ユーカリ」

「いらんわ」

「だよねー」

 再び二人は仲良く笑い合うと、麻美は玲の家を後にした。

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