第37話彼女次第の結果

 


「ミラーシェのおかげで炊き出しは順調そうだし、こちらはお任せして、ケネディと話してきても大丈夫かしら?」


「勿論ですよ! どうぞどうぞ!」


 このままお手伝いをしても現場が荒れそうだし、私は退散した方がいいでしょう。

 折角だからとガーナおばさんが渡してくれた炊き出しの料理を手に、孤児院に入る。振り向いた先で見たミラーシェは、ガーナおばさんに叱られながらも、慣れない手つきで、子供達に食事を配っていた。



「あら、もうこんな時間ね」


 ケネディと話し、子供達とも沢山遊んでいると、いつの間にか日が落ちてきた。

 そろそろ帰らなきゃ。仕事でいつも遅い帰宅だから、休日くらい早く帰って、出来たての料理を提供するためにいつも私の帰りを待っている家の料理人を、休ませてあげたい。


「フィオナ様、ミラーシェをこのまま放置していいんですか?」


 アルヴィンは孤児院に滞在中ずっとミラーシェを警戒していて、炊き出しに毒が入っていないかも確認していた。警戒する気持ちは分かる。ミラーシェはカルディアリアム伯爵家を滅茶苦茶にした一人で、家を追い出した私を恨んでいるでしょうからね。


「別にいいわよ。家を追い出した後どう生きるかは、私には関係無いし」


 私に関係のないところで、好きに生きればいいわ。


「ほら、ミラーシェ! ちゃんとフィオナ様に謝りな!」

「痛いわ! 分かったわよ! フィオナさ……ま、本当に、申し訳ありませんでした……」


 帰り間際、アルヴィンによって私との確執を知ったガーナおばさんを背後に、どう見ても嫌々、渋々、私に謝罪するミラーシェ。


「もっと心を込めて謝罪しな!」

「し、しているわよ!」

「誠心誠意、心を込めて謝るんだよ! フィオナ様、ミラーシェが本当にすみませんでした!」


 ガーナおばさんに首根っこを引っ張られ、無理矢理、謝罪に連れて来られたミラーシェは、負の感情を隠す素振りも無かった。そんな心のこもっていない謝罪されるくらいなら、何もしない方がマシなんだけど。


「もう結構よ、許す気はないから」


 私は許さないし、二度とカルディアリアム伯爵邸の敷居を跨がせるつもりはない。そしてそれは、ガーナおばさんと共にミラーシェを受け入れたケネディも、同じだった。


「もう孤児院には来ないで下さい」


 ガーナおばさんと同様、ミラーシェの正体を知ったケネディは、ミラーシェを拒絶した。

 直接的ではないにしろ、リンシン孤児院はローレイの友人達によって危機的な状況に追い込まれ、苦しんだ。その関係者であるミラーシェを許すことが、ケネディには出来なかったのだ。

 全ては好き勝手生きていた故の自業自得。


「…………っ、分かったわよ」


 ケネディに『もう来ないで』と言われたミラーシェは、家から追い出された時よりも、悲しんでいるように見えた。


「ミラーシェ、また何かおかしな真似をしたら、今度こそただではすませないからな」


「しないわよ! 一度地獄を見て、やっとマシな生活が出来るようになったのよ!? もう地獄に落ちるのは御免よ!」


「大丈夫よアルヴィン、例えミラーシェが何かしても、私の敵じゃないもの」


「ちょっと……!」


「それに、ミラーシェにはガーナおばさんがついているんだから、大丈夫よ」


 ミラーシェの正体を知っても、ガーナおばさんは、彼女を見捨てなかった。

 叱咤して、彼女と一緒に頭を下げて、謝罪した。そんなガーナおばさんを、ミラーシェが泣きそうな顔で見ていたのを、私は知ってる。


「さようならミラーシェ、お元気で」


 もう二度と会うことはないでしょうけど。


「……っ、フィオナ、様!」


 馬車に乗り込む私に向かい、ミラーシェは捨て台詞のように、大きな声で叫んだ。


「使ってしまったお金は、少しずつでも、必ず返すわ! それで、また這い上がってみせますから!」


「そう、期待しているわ」


 私を虐めて家を乗っ取った憎い相手。

 きっと、以前までのミラーシェのままなら、ガーナおばさんにも見放されていたかもしれない。でも、不器用でも一生懸命に取り組んでいたミラーシェを見てきたから、見捨てれなかったんだと思う。


 だからこれは、彼女次第の結果なのだ。



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