第32話 なんてやり手……

「………………」


 朝、目覚めた私は上体を起こしながらボォーとしていた。

 かれこれベッドの中でこうしているだろうか。恐らく1分以上は。


「……凄かったなぁ……唇とか胸とか……」

 

 原因……という言い方はあれだけど、間違いなく昨日のエリカさんの件が発端だ。


 風呂の中、一糸まとわぬ姿になったエリカさんの胸を揉んだり柔らかい唇を味わったり。

 それはもう、どの百合漫画よりもかなりエッチな事をしたもんだ。


 一応、それ以上は進展していない。


 エリカさんが「今日はここまでね……」って終わらせて、それから一緒に風呂を堪能したのだ。

 そういった本人の顔が、何ともご満悦だったのを今でも覚えている。


「……私が……エリカさんと……」


 何というかその……気持ちよかったというか……素晴らしかったというか……。


 私が超美人のエリカさんとそんな事をしたという事実が、凄く興奮すると言いますか……。

 それにエリカさん、胸とか身体とかが柔らかくて今でも感触の余韻が……。


 ……ていうかエリカさんの「今日はここまで」って、もしかしてこういう事が続くという事なのか?

 

 それはまだ心の準備が……。

 でもエリカさんからグイグイやられたら、抵抗できる気がしないなぁ……。

 

 そもそもエリカさんって割と肉食系? 

 あんな清楚な見た目で肉食とか私得……いやいや何言ってんの自分は……!


「……そういえば、そろそろ倉庫行かなきゃ……」


 とりあえずその件は後回しにしよう。


 実は入浴を終了させた後、エリカさんに「明日シェリーから話があるから、ディオネスの倉庫に来て。あと朝食は食べないでね」と言われたのだ。


 シェリー君から云々はディオネス絡みなんだろうけど、朝食抜きはよく分からない。 

 どっかに食べに行くのかな?


 あれこれ考えても仕方がないので、急いで聖女用の服を着用。

 それと、せっかくメイク用品が置いてあるからやってみようかな。


 元の世界ではメイクなんてまともにやった事がなく、いつもスッピンのまま外出したりしていた。


 その事をメイクをやって下さったメイドさんに零したところ、「やった事ないのでしたら、ぜひとも参考にして下さい」とメイクの仕方を記したメモを書き置きしてくれたのだ。

 早速、それを参考にやってみる事に。


 ……ん、まぁこんな感じかな。


 数分で軽く仕上げたところ、鏡にはやや別人の私自身が映っていた。

 変なところは……ないよね、多分。


 ともあれ準備が整ったところで、倉庫へと直行。

 覚えた道順通りに到着すれば、私を待っているかのように3人の人影が立っていた。


「おはよう、ユア」


「ユア様、おはようございます」


「やぁ聖女様、おはよう」


 鎮座中のディオネスへと集まっているエリカさんとセルジナさん、そしてシェリー君。


 うっ、眩しくて目がぁ……!!


 容姿の優れた3人が集まっている影響だと思うけど、それが美少女好きの私にとって眩し過ぎる。

 それでいて全員が挨拶してくれるとか、こんなのドキドキしない訳がない!


「あっ、メイクしているんだね。かなり可愛いよ」


「あ、ありがとう……それでシェリー君、話って……」


「ああそうだったね。早速これを見てほしいんだけど」


 シェリー君が手に持っている巻いた紙を広げて、私へと見せてくれる。


 まるで短剣のような物らしきイラストが描かれているけど、よくよく見ればその剣先に結晶のような物があった。


 結晶には「魔結晶:炎属性」という注釈付き。

 

 魔結晶と言えばその名の通り、魔力を流し込む事で物質が出たりする結晶の事。

 お風呂のお湯を出す時に使用されているのもそれだ。


「何これって顔をしているね。これはボクの鍛冶屋が開発している新武装でね、ディオネスの手首に取り付ける予定なんだ」


「新武装?」


「そう。君自身も知っている通り、ディオネスの力は強大。時には地形をも変えてしまう事すらある。確かに敵を倒すにはそれが手っ取り早いけど、かと言ってポンポン出したら周りが更地になりかねない」


 その言葉に対して、頭の中に浮かんだのがディオネスの熱線だ。

 確かにあんなの頻繁に出したら……想像したくないわ……。


「そんな訳で、陛下にその力をセーブしつつ敵を倒せる武装の開発を依頼されたんだ。それで着手しているのがこれという訳」


「へぇ、もう出来ているの?」


「いや、まだ鍛冶屋で製作途中なんだ。数日後にこちらに届けられる事になってる」


「ふーん」


 私が武装のイラストをまじまじ見ていた時、突然指に何かが絡んできた。


 ハッとなって見下ろしてみると、それは隣に立つエリカさんの手。

 彼女の指が私の指にチョンチョン触れてきて、やがて艶かしく絡んできて……。


 ……エリカさん、武装の設計図でシェリー君達が見えないのを利用するとは……。

 なんてやり手……。


「エリカ姫、何でユアに対して微笑んでるんだい?」


「別に何でもないわよ。ほらっ、話続けて」


「むぅ……まぁ、これで武装の報告は終わり。それでこの後、新しく出来た飲食店に行く事になってるんだ。本当はボクとユアだけだったのが、2人増えてしまったんだけど」


「聖女だと知られたからには、護衛とかが必要だもの。とにかく美味しいの一緒に食べようね」


「う、うん……」


 ニコッと笑むエリカさんに、私はつい照れてしまった。

 この人は本当にもう……。


 あと、セルジナさんがこちらをジッと見ているのに気付いて振り向くも、彼女がほんのり頬を赤らめながらそっぽ向いてしまった。


 昨日のお風呂の事でも思い出しているのだろうか?

 うーむ……自分で言うのも何だけど、この場には感情が入り乱れているなぁ。


「それじゃあ、話はここまでにしてそろそろ飲食店に……」


「あっ、その前にいいかしら? 1つ確かめたい事があるんだけど」


「確かめる?」


「ええ。ユア、昨日にセルジナが慌てて廊下を歩いていた事を言ったよね?」


「えっ? ああ、うん」


 この時、私は気付くのを遅れてしまった。

 話を聞いていたセルジナさんが、嫌な予感を抱くように顔を歪めたのを。


「あの時に近くを通ったメイドがいてね、セルジナがユアの部屋から出てくるのを見たんですって。……これどういう事かしら?」


「…………えっ?」


 さらにエリカさんの目が、笑顔に反して一切笑っていない事を。

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