第27話 …………はい

「普通に整備していたら、ディオネスが開けっぱの扉から飛び出たからね。ボクや整備班がびっくりしちゃったよ」


「ハハ……そりゃあそうだよね……」


 ブラックドッグとの戦闘の後、私は倉庫内にいた。


 その目の前には自分で収容させたディオネスがいて、整備班の方々がくまなく身体とかを弄っている。

 その様子を見上げながら言っているのが、王子様系の整備班班長シェリー君だ。


「にしてもブラックドッグを瞬殺するとはね。本当に聖女とファフニールの力は凄まじいものだよ」


「そうだねぇ……ハハ……」


 で、私は口元が引きつりながらシェリー君に答えている。


 何せその気がなかったのに、ブラックドッグを顎から引き裂いちゃったんだもん。

 まさか私があんな残虐プレイをするとは……。


 一応、森に付着した鮮血や大火炎による火事は、ナイトライダーの方々が処理してくれた。

 もちろん井戸から水を汲んでとかじゃなく、水属性の魔法で。 


 魔結晶を触れればお湯が出る風呂といい色々便利なのは舌を巻くけど、やっぱりあの残虐プレイは聖女にしては物騒な気がする。

 そりゃあ、新聞社の想像図で筋肉モリモリマッチョウーマンの変態にされるわな……。


「……大丈夫かいユア? 顔色が悪いみたいけど」


「あっ、ううん……我ながらブラックドッグの倒し方が残虐だったかなぁって思って……」


「そうかな? 伝説には巨神がフェンリルを顎から引き裂いたってのがあるし、それほど苛烈じゃないと思うけど」


「へ、へぇ……」


 知らずにしてその伝説に沿った行動をしていた訳か……いやあんまり嬉しくないんだけどさぁ……。

 

 にしても先ほどの戦闘といい生身の魔力テストといい、それらに共通するのが「ディオネスの指示のような物」という点だ。

 

 アレが頭の中で響いた途端、無意識にそんな事をしてしまう。

 ディオネスを信じていない訳じゃないけど、少し正体が分からなくて不安に思ってしまうのだ。


 ……あーなるほどね。

 ディオネス、答えてくれてありがとね。


 何かディオネスが言うには、一連の指示は彼自身得意とする「戦い方」を教えているかららしい。

 

 ディオネスはドラゴン型なので、人間の戦い方というかセオリーを知らない。

 それを脳内でインプットした私が、ああして荒々しい戦闘をしてしまうのだとか。


 ……ディオネスさん、もうちょっと手心をですね……。

 今後もああいった残虐プレイを起きるって事だし、なおさら不安だよ……。


「まぁ、ブラックドッグとの戦闘で疲れただろうからさ。とりあえずここはボクらに任せて、ユアはエリカ姫の所に向かうといいよ」


「うん、そうする。ありがとうねシェリー君」


「どういたしまして。君に疲れた顔が似合わないから、ね」


 シェリー君……。

 ほんと彼女といるとキュンとしますなぁ……はぁ辛い……。


 ともあれエリカさんが王様もといお父さんに報告しているというので、兵士さんの案内の元向かう事に。

 そうして目的の玉座の間に入ると、ドレス姿のエリカさんとお父さんが話し合っているようだった。


「……という事があったのです。報告は以上となります」


「なるほど、ご苦労であった。……っと噂すれば……」


「あらユア、ディオネスの方は大丈夫なんだ?」


「うん、シェリー君や整備班の方々がやってくれてるから」


 エリカさんに返事した後、お父さんが玉座からすくっと立ち上がる。

 そこから私の目の前へと近付いてきて……おお、かなり大柄だから背中がのけぞっちゃったよ。


「ユア・シャクシロ」


「は、はい!」


「ブラックドックを退けてくれて、本当に感謝する。ゴブリンの群れといい、そなたには何度も助けられておるな」


「ま、まぁ……その為に聖女になったので……」


「それが嬉しいのだ。そなたは異世界出身というこの世界と無縁のはずなのに、こうして我々の為に戦ってくれている。それにブラックドッグの引き裂きも、まさに伝説に伝わる巨神の如し……そなたはまさしく伝説の到来かもしれぬな」


「ハハハ……シェリー君にも同じ事が言われましたなぁ……」


 お父さんまでもがそれを引き出すとか、苦笑いしか出ませんがな……。

 と思った途端、自分の腕に柔らかい物がくるんでくる。


「何はともあれ、あなたは凄い事をしたんだから自信持っていいのよ。私が保証するからさ」


 それは紛れもなく、私の腕に抱き付くエリカさんだった。


 ……って、ヒエエエエエエエエ!!

 胸が!! エリカさんの豊かな胸が腕にいいいい!! めっちゃムニムニしてるうううう!!!


 これは精神によくない!! 昇天してしまう!!


「……エリカよ、やけに彼女と親しくなったな?」


「ええ、それはもう。私、ユアの事が好きになりましたので」


「……何と?」


「ユアの事が好きになりましたの。この国は同性愛が禁止されていないのですから、何の問題ないはずですよね?」


「それは……」


「ですよね、お父様?」


「…………はい」


 はいって言っちゃったよお父さん!!

 結構娘さんには甘いタイプなのね! 気持ちは分かるけど!!


「と、とにかく……ユア・シャクシロには返しきれないほどの恩がある。いつまでも客室を部屋にするのも失礼だろう。そこでそなた用の領地を与えようかと……」


「……領地? あの領地ですか?」


「ああ、その領地だが?」


「……いやいや! そこまでしていただかなくても大丈夫です!! というか今の部屋が気に入っているので、領地とかは本当大丈夫です!! 欲しい物もあんまないんで!!」


「そう……か……? まぁ、そなたがそう言うのなら……」


 領地が褒美だなんて、絶対に私の手に余る物だって!

 

 そもそもエリカさん達とキャッキャッしながら生活するのが、一番の褒美だ。

 それさえあれば他はいらないのだ……多分。


「ならばせめて聖女生誕の公表を執り行いたいのだが、問題ないだろうか? 国の脅威を退けたそなたの存在を、国民に知らせる必要があるからな」


「ああ、それは前にエリカさんに言われましたね。大丈夫ですけど」


「感謝する。それでは部屋に戻ってゆっくりしていきなさい。エリカ、彼女の事をよろしく頼む」


「かしこまりました。じゃあユア、部屋に戻るわよ」


「うん……」


 玉座の間を出ようとした時、お父さんから「まさかエリカが聖女を好きに……」なんて声が聞こえてきた。

 父親として複雑なのだろう……とりあえずそっとしておこう。


「……しかし何故か……女性同士の恋愛を見るのも悪くない……」


 なんて思ったらお父さん、めっちゃ凄い発言してますね!?

 そんな私みたいな考えをするなんて……ちょっと百合の素晴らしさを教えたくなっちゃうな!


「ユア様、姫様」


「ん? あら、セルジナ」


 廊下を歩いていた時、背後からセルジナさんが来たようだった。

 しかも彼女の後ろには、ナイトライダー達がズラリと並んでいる。


「どうしたの? 詰め所に待機していたはずだけど」


「そうなのですが、実は話がありまして……ユア様に対してなのですが」


「私?」


 自分で自分を指を差したその瞬間、バッ!! という凄い音が鳴り響いた。

 セルジナさん達が一斉に、私に対して跪いたからだ。


「えっ? えっ??」


「改めまして、先日の無礼をお詫び申し上げます。そしてそんな無礼を行ってしまった私を助けていただき、心から感謝しております」


 そうして、セルジナさんが目力めぢからの伴った顔を上げて、


「本日より、我々ナイトライダーはあなた様の指揮下に入ります。命をしてユア様をお守りする盾として、ユア様を仇なす者を打ち砕く矛として……この命を聖女ユア様に捧げます!!」


「「「捧げます!!!」」」


 ナイトライダー達の掛け声が、ビリビリと空間を揺らいだ気がした。


 私は圧倒されて、そして同時に困惑してしまった。

 何というか……凄い立ち位置になってませんかね私……?


「……エリカさん……?」


「まぁいいじゃない? 減るもんじゃないし」


「…………じゃあ、よろしくお願いします」


「ハッ……!」


 こうして、私はセルジナさん及びナイトライダー達の実施的なトップになってしまった。

 ……いや、本当どうしてこうなった……誰か教えて下さい……。


「…………」


 なおセルジナさんが熱っぽい視線を送ってきた事を、この時の私は知る由もなかった。

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