残り四人

 洞窟は時に広く、時に狭く、時に裂け目のような、時に大穴のようであった。

 そして、そこは特に広く、天井などは全く見えず、どれほど高いか見当もつかないほどの所だった。

 一行はそこに至る道中、近づくにつれ聞こえてくる何か多くの争う音に怯えていた。

 誰もが迂回路を探してはいたが、音が聞こえ来るずっと前よりそこは一本。

 更にはその一本道に入る直前、彼等は今聞こえる物よりもずっと恐ろしい音を耳にした。

 それは、羽ばたきだった。

 それは一度羽ばたいただけで洞窟の闇を一層深くした。

 二度羽ばたいた時、闇は渦巻き恐ろしい闇を形作ろうとした。

 三度羽ばたいたこうとした時、誰が合図したでもなく、一行はその羽ばたく音から逃げようと一心不乱に走った。

 もしかしたら、その時はまだ一本道ではなかったかもしれない。

 しかし、兎に角早くその場を逃げる道は一本しかなく。

 僅かでも遅れた者は、自らその目を抉りながら何も見えない闇をかけた。

 故に何かがいる。

 何かが争っているとわかっても、英人達は前に進むしかなかった。

 大きな広間に出た瞬間、皆それぞれに手近な岩陰に隠れ争う音のする天井方向に目を凝らした。

 暗く果て無く高い天井。

 何か見えた時、それは誰かが隠れていた岩を押しつぶすように墜落した。

 それは昔動物園で観たアフリカゾウよりも大きかった。

 馬にも似た頭部には鬣が生え、全身は鱗に覆われていながら、その翼は白く透明感のある汚い鱗粉のようなものに塗れていた。

 その巨大で忌まわしい鳥は、最早飛ぶ事どころか立ち上がる事さえ難しい重傷を負いながらもガラスを引っ掻くような悲壮な鳴き声を上げながらも必死にその場から逃げようと藻掻いていた。

 しかし、次の瞬間それは宙に浮いた。

 自ら飛んだのではない。

 おぞましい何かによって宙に釣り上げられたのだ。

 皆が目を凝らして仲間を潰した怪鳥を見ると、その鬣を何かが掴んで飛んでいた。

 それは一見翼と尻尾を持った不格好な悪魔のようだった。

 醜い角の生えた顔のない頭部は、まるでのっぺらぼうの如く何もついておらず、全身は油にまみれた水中哺乳類のような黒い皮膚に覆われている。

 あの恐ろしい悪魔は、その獲物を捕まえる為にあるとでも言わんが形状の手で己よりも大きな怪鳥を掴むとお手玉でも放る様に宙に攫ったのだ。

 そして、怯え逃げようとする巨大な怪鳥を子供が蟻を虐め殺すかのように玩んだ。

 よく見るとその遊びは、この広い中空中で行われていた。

 怪鳥は己よりも小さなそれらから必死に逃げようとするが、顔のない悪魔はそれを嘲笑うかのようにくるくると怪鳥の周りを玩ぶ様に飛んで回り、時折掴んでは宙へ放り投げ、または仲間に投げ渡すかのように他の悪魔に投げつけ、またはゴム鞠をつくように地面へと叩きつけた。

 そんな見た事もない邪悪な宇宙的空中戦、いや、一方的で残忍な戯れに一同は僅かに目を奪われていた。

「う、うわーーーっっ!!?」

 一同が我に返ったのは、誰かの叫び声が空より響いた時だった。

「走れっ!!」

 哲将がそう叫んだ時には、ほとんどの者は走り出していた。

 僅かに遅れた者は、次々に宙へと攫われ何故だか大声で恐怖の笑い声を上げている。

 攫われた者を助けようと逡巡する者もいた。

 いたが、助けようと立ち止まろうとした瞬間、明日香に担がれ運ばれた英人以外皆、顔のない悪魔に空へと連れ去られる事となった。

 生き残ろうと足掻いた者は、それぞれまとまる事なく、この広大な広場に四方八方に散れ焦れに逃げ。

 英人が安全を確認した時、周りの生き残りは彼を含め四人だけとなっていた。

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