第3話 冒険

「はあっ!」

 

 スキルを授与されてから一ヶ月。

 クラスメイトの一人、真田護は異世界で得た新たな仲間達と共に冒険を続けていた。

 この日は、ゴブリンの集団が出没するという辺境の村で対処にあたっていた。

 そんな辺境の村で少女の声が響く。

 

「護! 最後の一匹そっち行ったよ!」

「おう! いつも通り行くぞ!」

 

 この世界で最弱とも言われるゴブリンが一匹、真田の下へ迫る。

 日本人ならば、異形の化け物を相手取り、恐怖に竦むのが当然だ。

 しかし真田達、召喚された勇者は違う。

 

「よし! 『シールド』!」

 

 真田が手をかざすと、その方向に人の大きさ程の光の壁が現れ、ゴブリンはそれに阻まれる。

 ゴブリンは勢いよく壁にぶつかる。

 

「ッ? ッ!?」

 

 ゴブリンは何も状況を把握出来ず、まるでパントマイムかのように壁を確かめる。

 何度も壁を叩き、ようやくそこを通れない事を理解する。

 ならばと横を通ろうとしたその時。

 

「おらぁ! 『斬撃』!」

 

 その背後を真田の仲間の一人、ゴルドーが斬る。

 ゴルドーのスキル『斬撃』によって、ゴブリンの着ていた粗悪な防具の影響を無視してダメージを与えた。

 鮮血が噴き出て、あからさまにゴブリンは怯む。

 

「ナイスタイミングだ! 護!」

「お前もな! ゴルドー!」

 

 二人はまるで旧知の仲かのように仲が良かった。

 ゴルドーのスキルは最強と言えるようなスキルではなかったが、そのスキルの特性、あらゆる防具の防御力を無視するという性能と、ゴルドー自身の強さによってそれを補っていた。

 ゴルドーは多くの修羅場をくぐり抜けてきた冒険者で、魔物との戦い方、スキルの使い所を熟知していた。

 

「きゃっ!」

 

 すると、一つの悲鳴が響く。

 そちらを振り向くと、少し前に倒した筈の、死んだふりをしていたゴブリンが仲間の一人、ソフィアの足を掴み、剣を握りしめていた。

 ゴブリンはダメージが残っているのか、這いつくばりながらもソフィアを狙っている。

 

「くっ! 間に合え! 『シールド』!」

 

 再度護が手をかざす。

 すると、ソフィアの足を掴んでいたゴブリンの腕に光の壁が現れ、腕は綺麗に切れる。

 そこには、護のスキルの『シールド』が展開されていた。

 

「グァッ!?」

 

 ゴブリンは鮮血を噴き出す腕を押さえ、痛みにもがく。

 何が何やら分かっていない様子で、左腕を押さえながら逃げ道を探している。

 

「逃さないよ! 燃えろ! 『ファイアー』!」

 

 その隙をつき、尻もちをついたソフィアがそのままゴブリンを燃やした。

 あの勇者達を召喚した際にいた『炎陣』を使った姫、エリスのスキル程では無いが、火球を飛ばす事が出来る。

 ゴブリン程度を殺すのには充分である。

 

「大丈夫か!?」

「あ、ありがとう……」

 

 護がソフィアのもとに駆け寄り、尻もちをつくソフィアに手を差し伸べる。

 そして、護はソフィアの手を取り、立ち上がらせる。

 

「安心しろ。俺が皆を守り抜いてやるからな!」

 

 俺が皆を守り抜く。

 それが護の口癖であった。

 クラスでも人気者で、言葉通りによく弱者を守っていた。

 

「さて、今度こそ全滅させたな」

「そうだな。王都へ戻るか」

 

 転移したクラスメイト達はそれぞれスキル持ちの仲間が与えられた。

 そして、その仲間と共に異世界での経験を積んでいた。

 それは魔王軍を滅ぼす為の下準備で、この世界に慣れさせるというのが勇者達を召喚した国、ザルノール国国王、エルード三世の狙いである。

 すると、三人のもとに騎馬が駆け寄る。

 

「失礼します! 真田護様ですね!?」

「あぁ。俺がそうだ」

「国王陛下より伝令です。こちらを」

 

 護は伝令から渡された文を受け取り、中身を確認する。

 中身を読み、護は小さく頷いた。

 

「……成る程」


 中身を理解したような様子を見せた護に対して、ゴルドーが内容を問う。


「国王陛下は何だって?」

「俺達勇者の活動によって魔王軍はその活動を大きく縮小し、滅亡寸前である。魔王軍最後の要塞、グンローグ要塞を攻め落とすための準備として、王国騎士団と合流して陽動せよ。要塞の戦力を分散させ、主力の援護をせよ、だとさ」

 

 護は文をゴルドーに渡す。

 ゴルドーも念の為、中身を目を通した。

 

「成る程な……合流地点もそう遠くない。まだ少し猶予はあるな」

「良くわからんな……滅亡寸前なら陽動とか要らないだろ……全力で叩き潰せば良いだけだと思うけどな。というか、俺たちの活躍で魔王軍が滅亡寸前って……来た時点で風前の灯だっただろ……」

「既に魔王軍と戦い始めて五十年近く経ってるらしいからね……まぁ、二十年目でほぼほぼ決着はついてたみたいだけど……生まれる前だからよく分かんないや。お国に従わなくっちゃどうなるかわからないんでしょ? やるしか無いでしょ」

「あぁ……」

 

 ソフィアの言葉に護は頷く。

 事実、護達クラスメイトらが召喚される三十年前に魔王軍の主力はほぼ壊滅し、残った主力はグンローグ要塞にて防衛戦を繰り広げ、各地に取り残された魔族はゲリラ活動を続けていた。

 かつては人類も反魔王連合を組み、連携して魔王を倒そうとしていたが、魔王軍に勢いがなくなってからは連携もせず、人間同士で争い始めていた。

 魔王軍もそのおかげで全滅は免れ、今代の魔王によって徐々に軍備が整い始めている状況であった。

 しかし、勇者達の召喚によってゲリラは一掃された。

 最後の勝負を決めるため、招集がかけられたのだ。

 

「ま、とりあえず今回の依頼は完了した。依頼人に報告して、少し休むとするか」

「そうだな。最後の戦になりそうなら、なおさら休まないとな!」

 

 護達は国王の命令を果たす為、まずは完了報告の為に依頼人のいる町へ歩みを進めるのであった。

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