No.1 君は選ばれた○○である


「……でしょ~?…………」



 誰かの声が聞こえる。



「おや、……かな?」



 意識が朦朧としている。

 それでも、あたりを見渡そうとする。

 永遠に続いている暗闇が場を支配していた。



「ああ、やっぱ君はそういう……なのか」



 暗闇の中で、声だけが響く。

 声を出そうとしても、うまく音が乗ってくれない。



「ん~?まだこっちには完璧に適合できてない状態か~。

 まあいいや、こっちの声は聞こえてそうだし、きっと何とかなるよ。」


 男か女か、その判断も付きそうにない声が楽しそうに弾んでいる。

 一体ここはどこなのだろうか。



「ああ、ここかい?

 ここは、……っていう場所さ。まあ、言っても伝わらないだろうね。

 君の言語に合わせると、【精神体が自由に出入りできる夢】って言った方が近いか      な?

 だから、君の言いたいことは、テレパシーのように伝わるのさ。

 まあホントは人間が入れるような場所じゃないけどね~。」



 名も知らず、姿も見えない声が答える。

 少しだけノイズが走ったが、おおよその事は理解できた。

 今、僕の体は、何かしらの原因で意識不明の状態になっている。

 ……その原因は覚えていないが。



「まあ、その認識で合ってるよ~。


 そうだ。せっかくだし自己紹介をしよう。君も名前がないと、僕の事を呼びづらいだろうしね。


 僕の名前はアクマ。君たちからそう呼ばれている。

 よろしく頼むよ、藤井 ロウ君。

 君のことは、よーく知っている。そう、ずっと昔からね。」



 こいつは一体何者なんだ。

 僕は名乗った記憶もないし、そもそも会った事もない。

 しかもアクマだと名乗ってきた。そんなお伽話に出てくるような存在が、なぜ僕の目の前にいるんだ。



「そろそろ、会話しない?

 たかが人間の考えることなんて、どうせつまらない事だしさ~。」



 ……そうだな。

 これ以上考えてたら気が滅入りそうだよ。



「お、いいねえ。やっぱ君は素晴らしい。

 普通の人間は、このあたりで狂ってしまうけれど、君は違うね。

 アイツも気に入るわけだ。 いや、もう狂ってしまっているの方が正しいか。」



 それはどうだって良いんだが、ここから出してくれ。

 今の体がどうなってるか不安で仕方ないんだ。


「残念ながら、それは出来ないかな~。

 ここから出るには暫く時間がかかってしまうよ。君の意識がまだ戻りそうにないからね。

 でも、安心してほしいな。君の体は平気だよ。

 僕が保証する。」



 自称アクマの存在に言われたって信じられないが、確かめる方法もない。

 時間が経つのを待つしかないって訳だ。



「僕らが信じられないのは、仕方のないことだね~。

 そうだ。代わりと言っては何だけど君の知りたい事を話してあげよう。

 なーに、遠慮はいらないよ。君にとって必要なことだからね。」



 アクマが無償で教えてくれるとは思えないのだが。



「僕はアクマと言っても他と比べると変わってるらしいからね~。

 気にしないでほしいな~。まあ、君に拒否権なんてないんだけど。


 君にはね、不思議な力が備わっているんだ。」



 随分と曖昧で、突拍子すぎるお話だな。

 それで、その不思議な力というのは何だ?



「結論を急かさないでよ~。これだから人間は、寿命が短いのも考え物だね~。

 簡単に言うと化け物に好かれやすい体質なんだ。

 人間ではない奴ら。所謂、僕たちみたいな存在だ。


 実際、今日君に起きた出来事。あれは化け物が起こした事件だ。」



 なんだよ、それ。

 そんな非現実なお話、信じるわけないだろ。




「まあ、急に物語的な話を突き付けられて【はいそうですか】とはならないよね~。

 

 でも残念ながら事実だ。


 そして、君はいつもの日常には戻れなくなる。


 平和なんて云う、哀れな概念は当の昔に崩れ去ってしまっているからね。


 君がいくら騒いだところで如何しようもないさ。


 でも安心してほしい、起きてみたら嫌でもわかるさ。


 うん?




 …ああ、成程


 さあ、そろそろお目覚めの時間だ。想定より早かったな、外部干渉か。


 君は、選ばれた……だ。それが異質で異常な存在だとしてもだ。


 さて、君にはこの先から困難が襲い掛かる。


 だが、忘れないでほしい。


 僕らはウソツキだ。平気で人間を騙そうとしてくる。そして人間も、嘘つきだ。同じ人間を騙し利を得ようとする。


 でも、安心してほしい。君が望まなくとも、僕は君の力になってあげよう。」



 真っ暗闇の中から一筋の光が見えてきた。

 視界が明るくなってゆく。


 そのまま、光の中に飛び込みこめと、本能が突き動かしてくる。



 段々と意識が薄れていく中、最後に声が聞こえた。


 「最後に僕からのアドバイスだ。


 君は主人公ではない。だけど、何にでも成れる存在だ。


 君の信じたことに進めばいい。


 この、くだらない戦争にね。」

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FAKER LORD 朝槻 海月 @asatuki_kurage

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