属性審査
―属性審査。
それは新しくギルドに所属した者に実施される。使うものとしてはそれぞれの魔法が記された魔術書を参加者に使わせることで『どの属性に対して適性があるか』を鑑定するのだ。
なぜ魔術書を使うと適正がわかるのか。これには魔術書の特性から話す必要がある。魔術書とは、魔物の体内に存在する魔石を顔料として紙等に書き込むことで作成する。
別名魔核と呼ばれるこの器官は生物に存在する心臓の横に存在し、鼓動と共に魔力を循環させる。勿論、これには魔物本体の有する属性が宿っており、その属性に対応した魔法を封入することが可能。
審査で用いられるのはレッサーゴブリン等そこまで強い属性を有していない魔核で作られた魔術書だ。弱い魔物である都合上、強い魔法を組み込むことができないが、却ってそれが審査にとっては安全性の保証に繋がる。
また魔術書には、使う際に術者の属性に対応した『
「へぇ~。これに魔力を流せばいいの?」
「はい。その魔術書には『火の粉』が封じ込めてありますので、適正がある場合は火の粉が出現し、無い場合は不発となります」
因みに、中途半端に適正がある場合は発動はするが効果が弱くなる。
「あ、魔力を流すときは陣が書いてある方を外に向けて下さい。陣から射出されますので」
「ういうい」
ラックが魔法陣を外に向けて魔力を流す。しかし、火の粉が出現することはなかった。
「…火属性の適正はないようですね」
「うーん…次いこう次」
次に行ったのは水属性。『流水』の魔術書だ。
「ンンッ!」
先程よりも気合を入れて魔力を込める。今度こそは成功するか—
…
「これもダメか…」
その後も『微電』、『送風』と試してみたがうんともすんともいわない。残すところは土属性、『土生成』のみとなった。
「頼む…!発動してくれ…!」
ラックが祈りながら魔力を込める。—これも不発だったら―と不安を胸がよぎったその時のことだった。
ラックの魔力を流された魔術書がにわかに輝き出し、金属が擦れ合うのにも似たような音を出す。
「うわああッ!どぼっ」
瞬間、魔術書から凄まじい勢いで土が射出される。その勢いはあっけにとられていたラックを軽く吹き飛ばすほどで、手を離した折に上を向いた魔術陣が土塵を空に放出。仰向けに倒れ込んだラックに降り注いだ。
「だ、大丈夫ですかっ!?」
慌ててフレスカが駆け寄ると、己が生み出した土塊に埋もれていたラックはもごもごと小さな土山から脱出した。
「あー…ひでー目にあった。」
「無事で何よりです。それはそうとラック様!」
「うおっ」
ずいっと顔を寄せてきたフレスカに思わず面食らうラック。彼女はそれを気にせずキラキラした目でまくし立てた。
「これはすごいことですよラック様!普通『土生成』は魔力でできた土を握り拳程度作り出すだけなんです!それが攻撃に転用できる程の勢いを持つなんて!」
一気に捲し立てられたラックは目を白黒させていたが、なんだかすごいことなんだろうと思って喜ぶことにした。
「…やったァーーッ!!」
「おめでとうございます!」
現場にはガッツポーズを取る少年と拍手して讃える女性、そして何やらペンを動かす者だけが居た。
――――――――――
「こちらが今回ギルドに所属した者についての書類です」
「どうも有難う。…今回はどうだい?有望そうな子はいたかな?」
「今回は3人程、将来大物になる可能性がある者がおります」
「ふむ。今年は豊作かな。年によっては一人もいないことがあるからね」
日は傾き、朱色の陽光が室内を照らす。機能性を優先しながらも上品さを保った一級の調度品が立ち並ぶここはワーカーズギルド・ブレーチャ支部。現在、此処には二人の人影が存在する。
一人は中央に備え付けられた椅子に座り、片方は机を挟んで立っている。座している者は渡された書類に速くも丁寧な所作で目を通し、立っている者はそれを見守っている。
「しかし、今回は面白いな。土属性特化型の少年、魔法付与の
この支部の長を務める男性、ダンクス・ドルマン。赤銅色の髪を後ろに短く束ね、支部長に与えられる制服を着崩した彼は斜めの傷痕が残る口元を喜色に歪める。
「これから面白いことになりそうだ。そうは思わないか?」
「それは同意します。ですが、至急お伝えしたいことが」
対する女性はディレット。目の前で嫌そうな顔をするダンクスの補佐を担う副支部長である。
「それ後でも良くない?…良くないか」
「もうと思いますが、ラウンドオウル家の御令嬢様がこの都市に滞在、一般の冒険者を装って行動しています」
「あぁ~ヤダヤダ。変な輩に攫われたらどうすんのよ。まあ
「それで
「ん~。とりあえず
そう言うとダンクスは計画を立て始めた。まずは百火刃に連絡、同じ依頼を受けるように誘導して相性を確かめよう、と。
巨岩の冒険家 梅干し三太郎 @Tanakarestaurant
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