第2話
目を覚ますとそこは見慣れた街ではなかった。
辺りは森のように木々に囲まれており、時刻は夜。
空を見上げると、今にも降ってきそうな星空がどこまでも広がっていた。
「なんだよ、ここ。」
先刻までは確かに自宅にいたはずだ。
きっと自分は寝落ちして、夢でも見ているのだろう。
そう考えていると、どこからか声が聴こえてきた。
「あなただけの歌、聴かせてください。」
気付くと、目の前には見知らぬ少女が立っていた。
水色のボブヘアに透き通るような青い瞳をしている少女は好奇心に満ちた目で奏司を真っ直ぐ見つめている。
奏司はひどく驚いて後ずさりした。
しかし、少女はそれに対しては何も言わずに
落ち着いた声で奏司にこう告げた。
「"光陰矢の如し"とは良く言ったものですよ。
目まぐるしく過ぎていく日々の中で、喜びや幸せを感じる時間なんて一瞬のものでしょう。
では、もしあなたがその光を見つけられたなら
それはとても幸運な事ではありませんか?」
初対面の人物に向かって、いきなり何を言うのだろう。
そんな事を言われても多忙な日々で心が冷え切っている奏司の胸には届かないのだ。
「無理だよ、今更。
僕は忙しいんだ。
大学に入ってからはロクに時間も取れなくて、趣味の音楽だって辞めた。」
そう話した奏司の声は、締め付けられるようにか細かった。
「もう、僕の日々に幸せなんて現れないさ。」
少女はただ奏司を見つめていた。
が、奏司の心には似合わない明るい声で少女の口から驚くべき言葉が出てきたのだ。
「では、これから忘れた音を取り戻しに行きましょう。
申し遅れました、私はCeeu(シーユ)といいます。」
簡単に自己紹介を済ませるとCeeuと名乗った少女は一冊の本を奏司に見せた。
そこには、歌詞のような言葉がぎっしり。
奏司が首を傾げていると、Ceeuは
「これは今までたくさんの人と一緒に探してきた歌です。」と答えた。
奏司はしばらく本に目を通していたが
やがて顔を背けて本をCeeuに返した。
そして後ろを振り返り、歩を進め始める。
「待ってください、奏司さん!
いったいどこへ。」
「だから、音楽は辞めたって言ってるだろ。」
寂しそうな顔でこちらを見つめるCeeuを残し奏司はその場から駆け足で遠ざかっていった。
絶対に自分で出口を探してここから出る。
そう思って右往左往したが、どこへ行っても暗い森が続くばかりで一向に景色が変わらない。
気付けば奏司はCeeuの姿を探していた。
自分の味方なのかもわからない人物だが
今は彼女を頼るしかないからだ。
来た道を走っていくと、前方に光が見えた。
奏司は更に足を速めて、その方向へと向かった。
「やっぱり、帰ってきましたか。」
そこは一面が庭のようになっており、中央にはテラスのようなものがある。
椅子に腰掛けてティーカップを啜っていた
Ceeuは奏司の姿を見るなり、椅子から立ち上がった。
「ずっと待っていましたよ。」
と笑顔のCeeuに対して奏司は不思議に思った。
この少女はなぜ、不満な顔もせずに自分を迎えてくれたのか。
その笑顔を見ていると、誘いを無視して立ち去ろうとした事が申し訳なく思えてきた。
すると、奏司の心を読んだかのようにCeeuがこう言った。
「強引に誘ってしまってごめんなさい。
せっかくここまで来てくれたのだから、忙しい日々から離れてほしくて。
そして、あなたが大切にしていたものをどうか、思い出してほしいんです。」
初めは嘘だろうと思ったが、Ceeuの目は真剣だ。
その穢れのない目に、奏司はやはり誘いを断る事ができなかった。
「わかったよ。で、どうすればいいんだ?」
奏司の問いにCeeuが嬉しそうに答える。
「奏司さんは、これから私が案内する場所に付いてくるだけでいいんですよ。」
「え、付いてくるって…」
「では、行きましょう!」
Ceeuは奏司の手を優しく引いて歩き始めた。
音の国〜日々は流星のように〜① @Sharp25net
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