第15話 「最終回」が始まる
そしてその瞬間、大輝は確信した。
――3月22日に戻った。
大輝はベッドから起き上がり、部屋のカーテンを開けると、予想通りの銀世界が広がっていた。
大輝が初めて自らの意志でタイムリープに成功した瞬間だった。
いよいよ正解に近づいている。大輝はそう感じた。
早速、
【いよいよだね! 作戦通り頼むね!】
【任せておけっ!】
大輝は身支度を整え、家を出た。
大輝にとって9回目の3月22日。今回も修了式、そしてその後の演劇部のミーティングと順調にストーリーが進み、文化祭の演目も当たり前のように「想いよ、届け」に決まった。
ミーティングが終わり、大輝は足早に部室を去った。そして昇降口で靴を履き替え校舎を出ようとした瞬間、大輝は良く知っている声に呼び止められる。
「おい、大輝!」
大輝は振り返って答える。
「よう! 宇宙人!」
大輝にそう呼ばれた人物は、これまでと同様、あからさまに不服の表情で答える。
「
大輝は今日、この男、仁に確かめたいことがあった。
1回目と同じストーリーをなぞり、あいの里教育大駅前のハンバーガーショップへ向かう。
まずはハンバーガーを食べ、一段落したところで大輝は「本題」を切り出す。
「ところで、鉄道オタクの仁さんにちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「何だ改まって。仮にも鉄道研究部の部長だ。何でも聞きたまえ」
仁は調子に乗って偉そうにそう言う。
「今度、演劇部でやることになったこの演目なんだけどな……」
そう言って大輝はカバンから台本を取り出しながら話を続ける。
「ストーリーから察して、どうやらうちの高校を舞台にした、実話をもとに描かれた作品らしいんだよ」
「ほう」
「それでな、この作品は各場面の描写なんかも、かなり実際と比べて忠実に描かれているんだけどさ、ラストに出てくる駅のシーンだけ違和感があるんだよ」
「違和感? 具体的にいうと?」
仁は大輝の話を真剣に聞く。
「ここなんだけどさ」
そう言いながら、大輝は台本を開いて仁に見せる。
「恐らくここに出てくる駅は、そこにある『あいの里教育大駅』だと思うんだけど、ヒロインは改札の目の前に止まっていた電車に乗り込んで札幌に向かうんだよ。でもさ、実際には改札の前のホームの電車に乗ったら、当別の方に行っちゃうだろ?」
大輝は更に台本のページをめくる。
「あと、ここもそう。ヒロインの両親が先に電車に乗って、ヒロイン自身は発車ギリギリまで改札口で主人公が現れるのを待つ、っていうシーンなんだけど、実際にはそんなに停車時間も長くないしさ。仁はどう思う?」
仁は暫く台本を読むと言った。
「これって、いつ頃の話?」
「恐らく1995年頃だと思う」
大輝がそう答えると、仁はサラッと答える。
「だとしたら、教育大駅で間違いないね。学園都市線はね、2012年のダイヤ改正まで、あいの里教育大折り返しの列車があってさ。手前の2番線からも札幌行きの列車が発着してたんだよ」
「え?」
大輝はあまりにもあっさりと疑問が解決し、呆気にとられていた。
「どうした?」
仁が不思議そうに聞くと大輝は言った。
「おまえ……、キモっ!」
「失礼な! 人が折角教えてやったのに」
仁は露骨に嫌そうな顔をする。
「悪い、つい本音が」
「おい、喧嘩うってんのか?」
「だってよ、2012年って言ったら俺たちがまだ小学校に上がったくらいだろ? なんでそんな昔のダイヤ改正とかが、サラッと出てくるんだよ。おまえ、ホントに宇宙人なんじゃないのか?」
そう言う大輝に、仁は顔をしかめながら答える。
「2012年はちょうど学園都市線が電化した年でな。かなり大きな出来事だったから覚えているし、資料もとってあったんだよ」
「やっぱ、マニアは違うな~」
「何その顔。感心してるの? それとも呆れてんの?」
「安心しろ。8割は前者だよ」
「2割呆れてんじゃねぇかよ!」
何はともあれ、仁という身近な「有識者」のお陰で、大輝と星那の疑問はあっさりと解決できた。
食事が終わり、2人は店を出た。大輝は礼を言うと、仁と別れた。
大輝には今日、もう一つやっておきたいことがあった。
それはヒロインの実家、佐倉家が本当にまだ引っ越しをしていないのかどうかを確かめるためだ。今回はそのためにタイムリープをしたと言っても過言ではない。
大輝は再び駅とは逆方向の学校の方へと向かった。
程なくして、先日一度訪れた佐倉家が見えてきた。大輝は不審に思われないよう、さりげなく家の前を通り過ぎながら、お洒落な門から中を覗いた。
すると、先日は存在しなかった部屋のカーテンが掛かっているのが見えた。
あまりまじまじとのぞき込むわけにはいかなかったので、実際にまだ人が住んでいるかどうかを確かめることが出来なかったが、恐らく引っ越し前であることは確かなようだった。
ここまで確認できたら、ひとまず大輝の任務は終了だ。この後は成果を報告し、明日以降の作戦を立てるために星那と合流する予定だ。
とはいっても、この時期、入学前の星那を部室に呼ぶことはできない。そのため、いつだかと同じように札幌駅近くのカラオケ店で会う約束をしていた。
★ ★ ★
大輝は電車で札幌駅まで移動し、駅の構内で星那と合流した。
本来であればまだ出会うはずの無い二人だ。どこで誰が見ているかもしれない。2人は必要最小限の言葉を交わすと、そのままカラオケ店へと向かって黙って歩いていく。
個室に入り、ドリンクをオーダーすると、2人は安堵のため息をついた。
そして、なんとなく目が合うと、キスをした。
少し長めの深いキスは、大輝の朝からの疲れを癒してくれた。
二人の唇が離れると、星那はいたずらっぽい笑顔で言った。
「ねぇ、大輝。ボク、まだ中学生だよ?」
「え? あ……」
改めてそう言われてうろたえる大輝に星那は追い打ちをかける。
「あ~あ、大輝いけないんだ~! 中学生とキスした~! 犯罪だ~!」
「う、うるせ~!」
そう言って二人で笑っていると、オーダーしていたドリンクが運ばれてきた。
ドリンクを受け取り、まずは喉を潤すと、ここからは真面目に作戦会議が始まった。
「……っていう訳で、疑問だった駅の件はあっさり解決」
大輝が先ほどの仁とのやり取りを報告すると、星那はすっかり感心した様子で言った。
「その仁さんって言う人、すごいね~」
「まったく。オタクの鑑だよな」
そう言いつつ、大輝は改めて、もっと早く仁に聞いておくべきだったと内心後悔していた。
「それから、佐倉家もちゃんと確かめておいたぞ」
「どうだった?」
「さすがにジロジロと覗き込むわけにはいかないから、前を通り過ぎただけだけど、少なくともこの前は無かった部屋のカーテンはかかっているのが確認できた」
それを聞いた星那は、安堵の表情を浮かべる。
「良かった~。これで佐倉さんとお話しできる可能性が出てきたね」
「そうだな。で、まずは今住んでいるであろう、佐倉さんのおばあさんにコンタクトを取って、
「うん。で、いつ行く?」
大輝は一瞬間をおいて言った。
「早速明日、行こう。引っ越しの日がいつかわからないし、とにかく善は急げだ」
「うん。そうだね」
星那も大輝の提案に大きく頷いて同意した。
「明日さ、ボクも制服で行った方が良いよね?」
「そうだな、その方が自己紹介するときに怪しまれないよな」
つくづく、中学生と高校生のハザマという中途半端な時期にタイムリープの起点が存在するものだと、大輝は思った。
「でも、家から制服着ていくと逆に怪しまれるから、持って行って、どこか途中で着替えるね」
「そうだな。あ、学校近くの公園のトイレとかで良いんじゃない?」
「そうだね」
大輝と星那は、いつになく綿密に予定を立てた。これ以上、無駄な失敗を繰り返すわけにはいかない。
今度こそ「正解」を突き止め、演じる。
その強い思いが、2人の原動力となっていた。
「なんかさ、いよいよ『最終回』って感じがしてきたね」
作戦会議が一通り終わると、星那は笑顔でそう言った。
「おい、なんか変な『フラグ』立てるなよな?」
大輝はそう言いつつも、星那と同じ思いでいた。
いよいよ、今回でこのループから抜けられる。
「明日が楽しみだな」
「大輝こそ、『フラグ』みたいな言い方しないでよ!」
そう言って二人は笑った。
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