閑話・二人成人式①
時間は少し前後する。ゆかりの誕生日よりも前、しかして初詣よりも後。冬休みも終わり、新年が始まって最初の金曜日に、アイリはお姉さん――ゆかりに問うた。
「お姉さんって、成人式出るんですか?」
分かりきった質問だった。ゆかりが、中学時代厨二病を拗らせていた陰の者であるゆかりが、成人式に出るはずがなかった。
それでもアイリが問うたのは、分かりきった答えを頂戴したかったからで。
『成人式に出ないやつは予後が悪い』
とかいうネット経由の知識を真に受けて、予後が悪いお姉さんに期待していたからだった。(そもそも予後とは何なのかすらアイリは良く分かってないが)
予後の悪い、ろくな大人になれないお姉さんのほうが、アイリにとっては都合がいいから。そんな彼女じゃなければ、どこか遠くへ行ってしまうから。
要するに自分を安心させるための質問だったわけだが、しかしどうだろう。ゆかりの回答は、彼女の予想の範囲外にあった。
「あー、それなんだけどね、ユイちゃんと一緒にすることになったんだ」
うれしそうにはにかみながら、ゆかりはそう言った。
「は? え?」
色々とツッコミどころはあった。まず、成人式――というか二十歳の集いだが――は自治体単位で行うものだから、こうして地元を離れて下宿をしているユイはゆかりと同じ成人式に参加することはできない。それに、”する”って一体何なんだ。
そんなアイリの怪訝そうな顔を見て、ゆかりは得意げに解説を始めた。
※
「ねえ、ゆかりちゃん。私と一緒に、成人式しない?」
それは、唐突なお誘いだった。冬休み明けの大学構内で、一緒に学食を食べていたときのことである。
「成人式を、する?」
「あ、その前に聞いてなかったね。キミは成人式行くの?」
「い、いかないけど……」
顔が熱くなる。社会不適合者であることを彼女に晒すのは、なかなか勇気が必要だった。しかしそれでも、取り繕うほど距離が離れているわけではない、はずだ。
「そうなんだ。奇遇だね、私もだよ」
「え?」
意外だった。こんな大学でも友達いっぱいの美形が成人式に行かないなんて。
「中学までは目立たない子どもだったし、わざわざ地元に戻るのも、振り袖のレンタルも、バカバカしいからね」
「そ、そうだよね! わたしもそう思う!」
首がもげるほど頷いた。
「でもまあ、だからって何もしないのも寂しいじゃん? それで、ゆかりちゃんに予定がなかったら二人きりで成人の日にでも遊べないかなって」
「う、うん! いいよ! 二人きり、二人きりだよね!?」
アイリを介さずに二人きりで! デート!
うれしかった。とてもとても、うれしかった。天にも昇る気持ちとは、まさしくこのことだった。
果たしてゆかりは知らない。ユイがなぜ成人式に出ないのか、その理由を。
たぶんこんな理由で成人式に行かない人間は、彼女くらいしかいないだろう、そんな理由を。
※
ジュニアアイドルのイメージビデオ以外に、ユイが夜のお世話になっているものがあった。……小学校の卒業アルバムである。
小学校の卒アルには、当然ながらロリの写真が載っている。エロくはないが、しかし、ただそうであるというだけで、十分だ。さらにこれと写真の子と似たジュニアアイドルのイメージビデオを併せることで――あまり生々しい話を続けてもみんな引いてしまうから、このへんで終わりにしておこう。
まあとにかくだ、ユイは小学校の卒アルを穴が開くほど鑑賞している。とくにイメージビデオを手に入れる前はほとんどこれ一本でやってきたようなものだ。となれば、である。
となれば、成人式で、あるいはその後の同窓会で、成長してしまった彼女たちに会ってしまったらきっとすごく残念な気持ちになるのではないだろうか。
ユイが成人式に行かない理由は、概ねそんなものだった。地元は少子化によってクラス数も少なく、中学の同級生が集まれば、それはすなわち小学校の同級生が集まるのと同義である。何度もお世話になった可愛い可愛い女児たちが見る影もなく成長し、絹のようなふわさらの髪を自ら台無しにしてプリン頭になっていたら嫌だった。
別に友達がいなかったとかではないが、わざわざガッカリするためだけに地元に戻るのも面倒だったから、ユイはそうすることを選んだのだ。
(……我ながら下半身脳すぎる! ていうか気持ち悪っ!)
下半身脳すぎて嫌になったユイはしかし、それに反抗して成人式に向かうほどのバイタリティもなく、そのかわりにゆかりに提案したのだ。
「ねえ、ゆかりちゃん。私と一緒に、成人式しない?」
自分は脳を性欲に奪われてないし、友情だってちゃんと尊ぶことが出来るまともな人間なんだと、自らに言い聞かせるように、そう提案したのだ。
「う、うん! いいよ! 二人きり、二人きりだよね!?」
ゆかりはそれに目を輝かせて反応して、ユイはなんだか申し訳なくなった。
アイリを呼ばないのだって、ただ単に今回は友情優先というだけで、彼女がいたほうがうれしいというのは紛れもない本音で。
だけど、ユイがその本音をゆかりに言うことは、絶対になくて。
かくしてユイとゆかりは、二人成人式という体で成人の日に遊びに行くことになった。
……ユイにとってのそれは単なる遊びだったが、ゆかりにとってのそれは、紛れもないデートであった。
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