第40話


 金属の骨格をまとった先生たちと交戦を初めて十数分後。

 先生たちは手ごわく、なかなか厳しい戦いを強いられた。


 人ならざる機敏な動きで襲い掛かってくる先生たちをハルバードで突き倒し、薙ぎ倒していくのは爽快感があって気分がよかったけど、それは最初だけ。


 正面からでは分が悪いと踏んだ先生たちは、節足動物思わせる動きで天井に張り付き、四足歩行になって走ってくる。


 そうした先生たちを雷撃で落としていくと、今度は突如として窓から投身自殺を図った。


 けれど、それは俺の誤解だった。


 先生たちは校舎の壁を伝い、俺のすぐ近くの窓から、モンスターパニック映画のモンスターよろしく襲い掛かってきた。


 首をつかまれ、俺が外へ引きずり出されそうになったところを、夏希がライフルの連射で先生を引きはがして、地面に落下する先生に手榴弾を投げつけて事なきを得た。


 夏希の装備がライフルや手榴弾なこともり、まるで本当にモンスターパニック映画の登場人物になった気分だった。


「ありがとう夏希」

「どういたしまして」


 ライフル片手にグッドスマイルを浮かべる夏希は、まるで映画の主人公だった。

 悔しいけど、やっぱりカッコいい。


 夏希が男子ならさぞ女子にモテただろうな。

 不意に、後ろから声がかかる。


「こっちはあらかた片付いたわよ」

「ボクらも、今ので最後かな」

「制限時間はあと五分ちょっとあるけど、ボスはどうなったんだろ?」


 春香の横で、美奈穂がマップの確認しながら首をかしげる。


「そういえば見ていませんわね」


 美咲も、訝し気にマップを確認する。

 一方で、夏希は軽いノリでライフルを下ろした。


「無理に探さなくてもいいんじゃないかな? だって負けたらポイントゼロなんだろう? ポイントならもう十分稼いだし、幹明のことを考えたら、ボクはタイムアップまでどこかに籠城すべきだと思うよ」

「ん、そうだなぁ……」


 安パイに走るのはカッコ悪いけど、俺には先月の苦い思い出がある。

 せっかく美咲に勝てたはずなのに、ギリギリのところでパン耳地獄に逆戻り。


 あれは本当に悲しかった。


 変に欲を出して全てを失うのは馬鹿らしい。

 それより、今回は確実にパン耳地獄から脱出して、上を目指すのは次回から、というのがクレバーでカッコいい判断じゃないだろうか。


「うん、そうだね。竹本先生も、ボスキャラに会ったら戦わずにやり過ごすよう言っていたし、俺はどこかに籠城しようかな」


 そうすればパン耳地獄から抜け出して豊かな青春が待っている。

 ほら、目を閉じれば明るい未来が見えてくる。


 一日三食、文明人が食べて然るべき文化的なご飯を食べて、

 放課後は誰かの部屋に集まってジュース片手にお菓子を食べて、


 休みの日になったらみんなで街に繰り出して、青春を満喫するんだ。

 それに、最下位じゃなくなれば、みんなだって俺のことをもう馬鹿になんて……。



「あ、あいつパンツ星人じゃね?」

「本当だ。狩花のこしぎんちゃくのパンツ星人だ」

「確かこの前のイベントで、狩花のおこぼれでポイント稼いでいたんだろ?」

「まさに狩花のこしんぎちゃくだな」

「まさに狩花のパンツ星人だな」

「まさに狩花のパンツだな」



「ノォオオオオオオオオオオオオ! 思い出したぁ! 俺いま春香のパンツなんだったぁ!」

「何口走っているのよえっち!」


 顔を真っ赤にして叫びながら、春香はロングチェーンソーを猛らせた。


「だけどいくらパン耳地獄を抜け出しても今度はパンツ地獄が待っているじゃないか! あだ名がパンツの青春なんて嫌だ!」


「じゃ、じゃあどうすんのよ?」

「決まっているだろ春香。ボスを倒してがつんとランキングを上げて言ってやるんだ」


 俺をけなした連中の顔を思い出しながら、握り拳を作る。


「お前ら人間のくせにパンツに負けてやんの! バーカバーカ、ってね!」

「パンツであることを否定しなさいよ!」


「いやいや、こう言ったらみんなだってもう春香のパンツ扱いしないだろ? そうと決まれば善は急げだ。美奈穂、ボス、もとい龍子先生の居場所は見つかった?」


「うん、下の階の廊下を移動中だよ」

「よし、じゃあみんなで行こう! 鬼教官の龍子先生だって、俺ら五人で協力すればなんとかなるさ!」


 ハルバードを突き上げみんなを鼓舞すると、彼女たちの表情が緩んだ。


「しょうがないわね。まっ、どのみちあたしはボス狙いだったけどね」

「ワタクシも、学年主席として、ボスエネミーから逃げるなんて選択肢はありません。幹明が行かなくても、一人で行くつもりでしたわ」


「みんなが行くならわたしも行くね」

「みんなで倒したらポイントは貢献度によって分割だったね。ならボクも、幹明の護衛がてら、ちょっと自分のランキングを上げようかな」


 仲間たちの頼もしい声と表情に、胸が熱くなる。


「ありがとう。じゃあ早速!」


 俺が近くの下り階段へ振り返った直後、目の前の床を貫通して、男生徒がぶっ飛んできた。


 天井にバウンドしてから床に叩きつけられた生徒は、動かなくなり【DEAD】の表示が浮かぶ。


「………………え?」


 俺は、みんなへ振り返った。

 みんなも、ちょっとおもしろい顔をしていた。

 そろり、と俺は穴に首を突っ込んで、下の階の様子を見た。

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