第14話 冷遇

「父に抗議します」

ナァシフォは憤慨していた。このままジューゴの所に抗議ではなく殴り込みを掛けそうな勢いである。

 メイドに聞いて新しく宛がわれた部屋は物置部屋のようであった。いや物置部屋を急遽片付けて一先ず寝具を持ち込んだけの部屋であった。

 床には埃が溜まり壁は煤け、寝具以外は何が入っているかわからない木箱などのガラクタのみである。

「いいって姫さん。魔道士の扱いなんてこれでもいいほうさ」

 ガイガはまるで自分が怒られているかのように低頭平身にナァシフォを宥めるように言う。

 ガイガは、魔に寝返った人類の裏切り者、それが世間一般の魔道士に対する認識だということを分かっている。ガイガはナァシフォが自分の為に怒ってくれることは嬉しいが殴り込まれては話が更に面倒になる。今は何とか城の一角に部屋を充てがわれているが、ナァシフォの教育に良くないと思われれば城から追放、争乱の元に成るとになる判断されたら国外追放に成ってしまう。いつもの如く期待は空振りに終わるかも知れないがナァシフォに希望を見出した以上虫螻のように扱われ嫌われようともしがみついてでも見定めるつもりである。

「でも、一度は客人として迎えたのに掌返しが酷すぎます」

「それでも姫さんの近くにいられるんだ、俺にとってはそれで恩の字さ」

 豪勢な部屋も豪華な食事もいい女も抱くことも人生に潤いを齎すものとしてあったら嬉しいし無ければ欲しいし当然拒否もしない。長い旅路凡俗が修行僧のような生き方をしていては目的を果たす前に折れてしまう。だがあくまでそれらは二次的なものに過ぎない。いざと成れば目的の為全て切り捨てられる。

 今は牢獄であろうとナァシフォの傍にいられればいいのである。

「ほんと」

 ガイガは口説いている訳ではないがナァシフォは悪い気がしないでもないような感じで機嫌が少し治った。

「ほんとさ」

「じゃあ、食事に・・・」

 その先を言わせることなくガイガはセリフを遮った。

「今日のところは別々に取ろう。俺はこの部屋で携帯している保存食を取る」

 食堂でナァシフォとガイガが仲良く食事をしたらどんな噂が流れるか分からない。そういった事を敏感に気にするのが領主一族である。領主とは絶対君主のようでいて人気商売でもあるのだ。まだ若いナァシフォは、いやナァシフォは理解していて無視する若さ故の潔癖さがある。そこがナァシフォの魅力でもあり強さであり弱点でもある。ならば周りの凡俗が気を効かせるしかあるまい。

「そんなこと出来ません。なら私もここでガイガさんと同じものを食べます」

 言うと思った。それじゃあここで食事をとる意味がないとガイガは説得を続ける。

「いやそれじゃあ同じだ、みんなが心配してしまう。今は出来るだけ刺激しないようにしよう。

 なに今だけさ。そのうち理解される時が来る。それとも君は俺の活動を信じてくれないのかい」

「信じてます。今日のガイガさんには感動しました。

 改めてお願いします。師として私を導いて下さい」

「なら俺を信じて、今はいい子を演じてくれ」

 ガイガは否定も承諾もしない曖昧にしておいて要求はする実に汚い大人らしい言葉を返す。

「今は前みたいに否定されなかったことで良しとします。

 ガイガさんに従います」

「ふっいい子だ」

 子供騙しは通用しないかとガイガはナァシフォの返答に苦笑いを返す。

「さあ明日も働くぞ。今日は部屋に帰ってゆっくり疲れを癒やすんだ」

「そうします。でも朝食は私がバレないように確保しますので寝坊しないで待っていてくださいね」

「ああ、期待してるよ。また明日」

「はい、また明日」

 ナァシフォはこれからも会えると信じて案外素直に自分の部屋へ帰っていった。




「ふう、行ったかな。

 さてと素直な子供は帰ったようだし、悪い大人は悪巧みをしますか」

 ガイガは休むことなく何やら準備を始めるのであった。

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