第13話 ヤッカム
いつ追放されるか分からない恐怖に急かされるように昼間はあのままナァシフォと共にイーセの城下町を歩き種を蒔いた。それは魔界を歩くのとは違った意味で疲れた。
ナァシフォに言われるがままにイーセ城に帰ってきたが、俺のことは耳に入っているようで昨日とは打って変わって対応は冷淡なものであった。
当然出迎えはなく、出会った城務めの者も視線を逸らして足早に去っていく。
「待ちなさい。それが・・・」
「いいんだ、ナァシフォ。魔道士を忌避するのは当然の心情だ」
去っていく者を叱りつけようとしたナァシフォの肩を掴んで止めた。姫様の体に触れるなんて不敬かも知れないが、物理的に止めないとこの娘は吹っ飛んでいきそうだったのでしょうがない。
「でも」
「いいんだ」
「わかり・・・」
「おいっ何をしている」
怒鳴り声に視線を向ければヤッカムがどしどしと近付いてくる。
「魔道士風情が姫様に触れるな」
「これは失礼しました」
俺はナァシフォから手を離して一歩下がって頭を下げる。
「ふんっ媚びることだけはうまいようだな」
「それはすいませんですな」
「本来なら城から叩き出したいところだが、姫様が招いた客人だからなそれは勘弁してやろう。だが部屋は変わってもらうぞ。来賓用の部屋から特別に用意させた部屋に移って貰う」
「寛大な処置に感謝します」
こういう対応は慣れっこだ。寧ろ兵士を差し向けられないだけ寛大だと感じてしまう俺も大概だと自分で思う。
「つまらん反応だ。
ところで貴様は本当に魔道士なのか?」
「いえいえ、魔道士の見習いっと言ったところですな。魔導の深淵には私如きには簡単には到達出来ません」
「そんなことはどうでもいい」
ヤッカムはここで言葉を区切ると俺に体を寄せてくる。男に言い寄られても嬉しくないが次の展開への予感に我慢する。
「魔界由来の病気を治せるというのは本当なのか?」
悪代官のように急に周りに聞こえないような小声で俺に尋ねる。
「魔界由来と言っても様々でして、実際に見てみないと分かりませんな」
慌てる乞食は貰いが少ないとはよく言ったもんだ。ピンと来た俺は焦らすように答える。
「そうか。それで何か貴様は魔道の対価に処女の肝とかを要求するのか?」
「ヤッカム!!!」
俺とヤッカムひそひそ話を興味深そうに耳を立てて話を聞いていたナァシフォが突然髪を逆立て怒った。
「姫様」
「流石に無礼が過ぎます。それ以上のガイガさんへの無礼は私への無礼と受け取ります」
そうかこの娘は蔑まされることに慣れ切ってしまった俺の代わりに怒ってくれたのか、世間擦れし過ぎた俺を慕ってくれるナァシフォに背中がこそばゆく感じるとともに、その慕うものが貶されて素直に怒りを表せる純真さが眩しい。
「いえ私は姫様を侮辱する気はないのです」
ナァシフォの剣幕にヤッカムはタジタジで言い返そうともしない。
「いいんですよ姫様。俺はもう疲れた。早く新しい部屋に行って休みたいですよ」
これ世間擦れし過ぎた俺はこうやって場をなあなあで収めようとしてしまう。
「ふんっ。新しい部屋はそこらのメイドにでも聞くんですな。では」
ヤッカムは威厳を取り戻そうとばかりに威張り散らした大声で言う。そして立ち去ろうとしたヤッカムの耳元にさっと俺は口を寄せて耳元に囁く。
「決断するなら手遅れになる前にすることを進めますよ」
ヤッカムは俺の囁きに顔を真っ青にして立ち止まる。その姿にいつもの傲慢な気配は感じられなかった。
もしかしたらイーセの為敢えて憎まれ役を買っているだけのそんなに悪い男では無いのかも知れないな。
「?」
「さあ、行きましょう。もうクタクタだ」
ナァシフォは不思議そうな顔で俺を見たが何も言わず先に進むのであった。
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