第31話 騎士団昇格試験 1

それから数年、ついに正式団員への昇格試験の時が来た。

オレたち二十歳の誕生日を迎える年になった。魔法の訓練も、実戦経験も積んできた。

ヴィンセントが一期後輩の女の子に告白され、その子に思いを寄せていた後輩の男に決闘を申し込まれ、返り討ちにしたこと。

トーマスが村の出自を馬鹿にされ、相手を瀕死に追い込んでしまったこと。

その相手が子爵位の貴族で、真っ青のトーマスを庇ってヴィンセントとシエラが話をつけたこと。

氷矢の訓練でオレの手が凍傷で壊死しかけ、ロイに治療してもらったこと。

ユーゴがトロモ村のチナさんと付き合い始めたこと。

エレナの料理が致命的に不味いと判明したこと。それをトーマスだけが難なく完食できること。

テレーズの足が速すぎて馬と並走していたこと。

最近ロイがライラを気にしていること。

本当に色々あった。


訓練生が終わってしまえば、きっとみんなと簡単には会えなくなる。

だからこそ、この最終試験を有終の美で飾りたい。

そう思うと、自然と胸が熱くなる。


その昇格試験の内容は訓練生のみで魔物の討伐を達成すること。

教官たちは帯同するが、基本は指示も手助けも無しだ。


向かう先は王都より西のトロモ村からさらに南下した大草原、シャリディヤ大草原だ。

この大陸北部はシャリディヤ地方と呼ばれ、その名を冠する大草原なだけあってとにかく広大らしい。

この大草原には主にシャリディヤバイソンと呼ばれる野牛が生息していて群れで生活しているのだが、群れのボスを決める戦いに敗れた方が、時折魔物化するのだとか。

なんでも戦いに敗れた敗北感と、群れを追放された悲壮感で魔物化するのだとか。

なんとも救えない話だ・・・。

そして毎年、春が芽吹き始めたこの時期に魔物化が進むらしく、昇格試験としてもぴったりということだ。


そうこうしている内に今回の訓練用の鎧が配られ始めた。


「よし、名前を呼ばれたら速やかに受け取り、列に戻るように!!」


各自属性を現す色のラインの入った魔法金属の鎧と兜を受け取る。


今回の標的は野牛の魔物。体高は優に三メートルを超え、巨大且つ鋭い角をもつ。

それが中々の速さで突進してくるのだ。

魔力鎧を纏っていて重装備でいても、直撃すれば大怪我では済まない。


だから今回の装備は、回避を優先して敢えて全員一律で軽装備だ。

頭部は軽量化を意識したバイザーヘルム。

胴はベスト型のボディアーマーと二の腕までを隠すショルダーアーマー。

腕は手の甲から肘までの腕甲。脚は足の甲から膝までの脚甲。大腿部はズボンにプレートが縫い付けてあり、ボディアーマーから糸緒で繋がれた草摺くさずりが左右に垂れている。


「これより、騎士団訓練生による昇格試験を開始する!目標は訓練生だけで魔物の討伐を遂行することだ。我々教官陣は居ないものと思え!健闘を祈る!」


「「「了解!!!」」」


コンラッド教官の短い激励を合図に、訓練生たちが動き出す。

鎧を身に着け、隣の奴と装着確認。

氷魔法使い以外は、東門の前に停車させてある馬車に乗り込んでいく。

オレたちはというと、騎乗して馬車の護衛に着く。

騎乗訓練は全属性が受けているが、今回は氷魔法使いのみだ。

武器や盾などの重量物を持たずに済み、矢を生成すれば魔力干渉の及ばない遠距離にも届くからだ。


全部で十二騎。前方にオレとシエラの二騎、馬車の列を挟むように左右に四騎ずつ。そして最後尾に二騎だ。

ヴィンセントたち風魔法使いが先頭の馬車に乗り、索敵しながら進む。一応試験だからな。

教官たちは特に何もせず、七台のうちの真ん中の馬車に乗る。


そして、オレは出発の合図を上げる。


「騎士団訓練生遠征隊、発進!!」


泣いても笑ってもこれが最後の訓練生の行事だ。全力を尽くして、笑ってやろうじゃないか。

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