第2話 地球観測部とクレープの関係

 私の声は貴方に届いていますか?

 今日は前回に引き続き、地球観測部との出会いと、クレープとの関係についてお話します。


 お姉さんたちに紹介されて私は高校の地球観測部に行ってみることにしました。日本への放送を考え始めたときから興味はあったのですが、すでに11月になっていたこともあり途中から部活に入るのは迷惑かなあと思っていたのです。


 聞いてみるとむしろ大歓迎というか、妙に切羽詰まった押しの強い推薦がありました。地球観測部は当然ながら宇宙船では花形の地球観測を学校教育の場で行っている、国策部活と言ってもいい人気部活だと私は認識していたのですが……?数日後の放課後、私は地球観測部の部室の前に立っていました。


 大きめの教室を部室にした感じで、入口の表札には「地球観測部 日本部会」と書いてあります。以前お話ししましたね、私たちの地域では観測対象として日本を担当しています。さて、それでは入ってみましょうか?トントン、扉をノックして私は声を掛けました。


「こんにちわー。……こんにちわ?あれ、誰もいないのかな。……えーと、入りまーす。」


 躊躇しても仕方ないよね。さっさと部室に潜り込んだ私の目に飛び込んできたのは、一見人の気配がなく、古びた地球儀や何かの資料、おそらく観測資料?が整然……とは言い難い感じに散らかっている様子です。窓から差し込む秋の日差しが、机や地球儀に長い影を落とし、少し赤みを帯びた光が、室内の静けさにアクセントを加えていました。


 ……あれ?人が居ました。資料に紛れるように背中を丸め、端末をぼーっと見つめています。私は後ろからそーっと眺めてみます。端末には文化祭で模擬店やステージ発表を楽しむ生徒たちの姿が映っていました。


 人種は私たちと少し違い、白くもなく黒くもなく黄色系で、それでいて宇宙船の誰にも似ていません。でも、服装は私たちに似ています。いえ、これは多分「私たちが寄せて」いるんですね。この映像はきっと日本です。私たちの地域では日本観測の成果を生活に取り入れていますし、文化やイベントも代表的なものは同じように実施しています。日本の文化祭ですか。へえ……。


「楽しそうだね!」

「わぁ!……あっ、わっ、ちょっと!」


 おっと、首筋から声をかけるのは良くなかったかな。丸めた背中が反動でエビぞりになるくらい驚いた彼女は、椅子から転げ落ちそうになって慌ててバランスをとることしばし。ようやく落ち着いた彼女は涙目になりながらこちらを睨みつけてきました。


「あっぶないじゃないの!誰よあなた!勝手に部室に入ってこないで!」

「ごめんね?声かけたんだけどお返事が無かったから。私は『ぱるね』。よろしくね。」

「え?えーと、私は『ふるる』よ。よろしく……じゃなくてさあ?」

「これって日本の学校?文化祭だよね、楽しそうだね。あ、屋台もやってる、おいしそうかも!」

「スルー?あと、あなたってくいしんぼさん?そうよ、これ、今日、今さっき観測通知があった『日本の学校文化祭』。多分私たちと同じで高校生ね。たくさんの部員で一致団結して1つの目標に向かう姿って良いよね……はあ。」


 ふるるちゃんはどこか物憂げです。それに1人しかいないのが気になります。ほかの部員さんはお出かけでしょうか?……うーん、なぜだかこちらから聞かない方が良い気がします。


「気づいた?私だけしか居ないの。私は1年なんだけど、あなたは?あ、学年バッチ私と同じ色ね。」

「うん、1年だよ。私、日本向けの放送がしたくて。それで地球の日本がもっと知りたくて、ここに来てみたの。」

「え!あなた入部希望!?だったら2人になるじゃない!……あーでもそれでも2人かあ。こういうのって、日本のことわざで『スズメのなみだ』って言うのよ?」

「部員は私を入れても2人?」

「うちの部ね、3年は結構な人数が居たの。それこそこの広い部室が半分ほど埋まるくらい。でもその反動か、2年が1人もいなくて1年も私だけ……。気が付かないふりをしてたけど、3年の人たちとの活動は楽しかったから、これまではなんとかなってたわ。でも、文化祭が終わって3年が引退したから、そんな時間も終わり。だーれもいない、この広い部室で、観測端末をいじいじしてるだけ……。」

「だいじょうぶ!」

「え?」

「だいじょうぶだよ。これまで楽しかったんでしょ?ならこれからも、部活楽しいよ。ここには2人しか居ないのはそうだけど。こっちから動けばいいんだよ。部長さんに聞いたよ?『地球観測部はフィールドワークが命』って!」

「え?部長?えっ?」

「じゃあ、今日のテーマはこれ!『日本の文化祭から、屋台の味を再現!』観測端末持って相談に行ってみよう!」

「えーーーー!」


 料理といえば料理部です。多分だけど、この屋台の焼き物、見たことあるのです。専門家に聞けばどうにかなると、私はふるるちゃんを引っ張って、料理部へと向かいました。そういえば、なし崩しに部員になってしまった感じです。部長さんたちの「妙に切羽詰まった押しの強い推薦」は、ふるるちゃんを心配していたのかな?そんなこともちょっとだけ思いましたが、言葉にはしませんでした。料理部に行くと、私たちは観測端末の映像を見せて相談しました。


「ああ、これならなんとかなるんじゃないかな。」

「本当ですか!」

「これね、『クレープ』って言うんだ。というかこのレシピだって地球観測部から貰ったんだよ、知らないのかい?あー君ら1年か。去年の話だったかな、あの時も『日本の文化祭』の再現をするんだー!って大騒ぎだったんだよ。君たちからも新しいレシピがもらえることを期待してるよ。」

「「が、がんばります!」」

「さあ、ちょうど材料があるし焼いてみようか。手伝ってあげるから自分でやってみな?」

「ぜひ!ね、楽しいね、ふるるちゃん!」

「あなたって……、ええ、ぱるね、楽しいわ!」


 そのあと、盛大におこげを作ったり、生焼けでおなかを壊しそうになりながらも、なんとか最後にうまく焼き上げた「クレープ」を料理部のみんなも交えていっしょに食べました。ちょっと焦げていて苦みもあったけど、とても甘い味がして美味しかったです。


「ところで、ぱるね?気になることがあるんだけど。結局入部するのよね?」

「そのつもりだけど……だめ?」

「それは全然大歓迎なんだけど、部に入って何がしたいの?『日本向けの放送がしたい』って言ったわよね。うちは地球観測部であって放送部じゃないんだけど。」

「あー……えっと、ちょっと長くなるけど説明していいかなぁ?」


 さて、今日はお時間となりました。クレープ食べて入部をごり押しするわけには行かないようですね。さて、ふるるちゃんにも、貴方にも、私がなぜ日本向けの放送がしたいのか、理由を説明しなきゃいけないようです。少し長い話になりますが、次回にお話ししたいと思います。美味しいクレープでティータイムを楽しみながら、ゆっくり聞いてもらえたらうれしいな。――それでは、また。

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