探偵ゴーレムにお任せあれ

「………………」


 言葉はすぐに出ない。

 ゲートが常に見えていたことも、オリヴィアの魔法で平世界の車を再現したことも、ヴォルフが二人の迷子を出した張本人であることも、それら全てを含め、なんて声を掛ければ良いのか、分からない。


「……アタシが話せることは、本当にここまでだ。ゲストにいつなったのか、誰にされたのか、その経緯も手掛かりも分からない。ただ、遺跡の地下で見つかった石造りの門。あれを通ってやってきた。それが、それだけが、アタシの確かな記憶」


 そう付け加えて、しんと静かになる。


 この不思議と謎をどう向き合えば良いのか、ともかくと世迷を見る。けれど視線は合わなかった。無視されたとも言えるが、車掌が深く考え込むように長テーブルの木目を見ていた。神妙な顔つきで。


「……目羅、わかった」


 感情の欠ける声。目羅がアルシェを見る。


「アルシェはゲスト。でも、なりたかったわけじゃない」

「目羅さん!」

「でも、目羅、わからないことがいっぱい。なんでゲートがみえたの? なんで二人ゲストなの? わからない、でも……」


 目が合った。紅い無感情な瞳が、明智を覗く。


「アルゴが信じてる。なら、目羅も信じる」


 そう言われた。

 二人が誰のゲストであろうが、アルシェが困っていることに変わりはない。世界を渡って一人ぼっちになったのが、ヴォルフという男の仕業であるなら、なおさら助けなきゃならない。

 世界がどうとか、ゲートが見えるとか、そんなものどうでもいい。

 置いてかれた魔法少女を助けたい。明智は席を立った。


「俺は、アルシェさんを信じる。元の世界に帰すまで、全力で助ける! もう一度いけ好かない教師ぶん殴って、今度こそオリヴィアさんを助け出そう!」


 拳をアルシェに向かって真っ直ぐ突き出す。


 友達に絶対会わせる。そう誓って。


 □■□■□


「よし! とっととヴォルフを探すか!」

「アルゴ、大けが、してる」

「大丈夫だってこんな傷。ほらッ! ってて!」


 胸を叩いた明智はその痛みに悶絶し、二人がジト目で静観していた。

 三人は平世界の神社の側で目を覚ました。列車では横になって寝たが、地に足を着けて立っている。端から見れば突然人がそこにいる風に見えるだろう。

 だいぶ時間も経ったようで、日差しが少し弱くなり、何となく暗くなってきている。

 だが、それを補うように、赤い点灯が建物の壁や道を照らしていた。

 神社の周りには黄色い進入禁止のテープと、複数の警察が忙しなく歩き回っている。

 

「在吾君、あんまり無茶するな。ゴーレムを倒したとはいえ、二体も相手にしたんだ。傷だって軽傷じゃないだろう」

「無茶も無理もする時があるだろ。今がその時だ」

「目羅、アルゴをちゃんと見る」

「頼む目羅さん。段々と分かってきたが、無茶する時は無茶するからな……」


 明智は二人から訝しげな目で見られるのだが、本人はやる気になってるためか、全然気付いてない。

 「さて」とアルシェが何かをポケットから取り出す。明智と目羅は、アルシェの手の平に乗っかったソレを見た。


「それって、あの時の石か?」

「あー、ヴォルフ先生のゴーレムから取った石。これを核にしたゴーレムを作って、ヴォルフ先生の居場所を探す」


 そう発言した。それに対し、明智が小首を傾げた。


「でも、ゲートがある場所はあの神社だろ。今さらゴーレム作ってどうするんだよ」

「良い質問だ。そもそもこのゴーレム、どうやってアタシを探したと思う?」

「えっ?」


 いきなりの問題にまた小首を傾げた。

 何でもありじゃないのなら、何かしら手掛かりになるものがあったはず。

 そういえばと、ゴーレムが喋った時の事が脳裏を過った。


「……そういえば、ゴーレムが何か言ってたな、まどういんのこうしょう、とか何とか……」

「正解だ! つまりあのゴーレムは、アタシの校章を手掛かりにやってきたことになる」


 アルシェが校章を外し、明智らに見せた。

 人魚が岩の上で歌っているような絵がそこにある。


「この世界にアタシとオリヴィアしかいないなら、この校章の持ち主を探せと命令すれば、アタシの元に辿り着けるだろうな」


 人魚も魔法世界にいるのか? という疑問を端で考えつつ、なるほどと相槌を打った。

 と同時に、明智はまた疑問を浮かべる。


「ちょっと待ってくれ、なんでゴーレムが校章を持ってるアルシェさんに辿り着けるんだよ」

「ん?」

「いやだって、警察犬みたいな嗅覚もないのに、なんであんな石人間が探し物を探し当てれるんだ」


 ああ。と合点がいったようで、校章を付け直しながらアルシェは簡単なことだといった。


「魔法だからな」

「急に大雑把!」

「そもそもそんな話しをするなら、なんで目もないのにアタシ達を視認出来てたのとか、筋肉もないのに何で力が強いとか、それこそ不思議だらけだぞ」

「いや……、そうなんだけどさ」


 流石魔法使いというべきなのだろうか、明智を勢いで負かし、ともかく、といって話しを中断させた。明智は納得いかない顔をしていたが、ぐっと飲み込んだようだった。


「人探しも、物探しも、『探索人形サーチゴーレム』にお任せあれ!」


 自身満々に言い放った後、手に持っていた石を優しく撫で始めた。

 その姿は、あのヴォルフがゴーレムを作り出したのと似ている。


「主の心音、魂の音響、主の音色を読み解き、我が元に産声を上げろ。探索人形サーチゴーレム! 探し物を探しなさい!」


 言い終えると、やはり同じくコロコロと転がし、周りにある石が引っ張られていく。

 もしかしてヴォルフの使役していたゴーレム並にでかいのが誕生するのでは? もしそうなら、そのまま一緒に歩くのはまずいのでは? と、色々と考えていた。

 その辺の段ボールでも被せてみるか、と辺りをキョロキョロしているうちに、「出来た!」と明るい声が響く。


「これがアタシのゴーレムだ!」

「……これが?」

「なんだ、文句でもあるのか」

「いや、文句はないんだけど、何ていうか、思ってたのと違うというか……」

「文句じゃないか!」

「文句じゃないって! だってこんな、とは……」


 明智達が取り囲んで見下げるそこに、アルシェの作った小さなゴーレムが両手を上げて跳ねていた。

 二頭身のずんぐりむっくりした体型に、小型犬ぐらいのサイズの身長。

 今まで戦ってきた高身長の屈強な身体をしたゴーレムと比べれば、目劣りするようなゴーレムだった。


「仕方ないだろう。ゴーレム作りはセンスのいる魔法なんだ。これでもアタシが作ったゴーレムの中では大きい部類だぞ!」

「ちなみに、小さいのってどのくらい……?」

「コップ並みだったかな?」

「そりゃでかい部類だ」


 いてっ、とアルシェのチョップを頭に受けた。


「サイズが全てじゃないさ! これでもアタシのゴーレム! さあ実力を見せなさい!」


 びよーんと、ゴーレムは肩手を空に伸ばした。

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