魔法使いの研究
「おっかえり〜♪ 知らない間に自信に満ちた顔してるね。お二人さん」
「ああ、明智君のおかげでな! ワッハッハ!」
いじるような声音で世迷が話しかけるのだが、アルシェの笑い声に興が削がれたのか、良かったねと短く終わった。
目羅は普段通り静かだが、心なしかホッとしてるように見えた。
「話しをまとめさせてもらうが、構わないか?」
反対するものは無く、了承と判断したアルシェがシャキッと表情を整えた。
「ヴォルフ先生は現状行方不明。アタシとオリヴィアは誰かのゲスト。そして、ロスト・タブレットという犯罪組織にヴォルフ先生もオリヴィアもいる」
一同が頷く。
世迷がだらっと長テーブルに上半身を伸ばす。
「つまりアルシェちゃんはゲストだったと認めるんだね♪」
「違う。確かに門は見えてたが、あれはヴォルフ先生に潜るように言われたからだ」
「話しを聞かせてもらっても良いか?」
「もちろん。関係ないと思っていたが、ヴォルフ先生がこの世界で襲ってきた以上、この世界に来る前の出来事を話す」
覚悟したように、アルシェは「あれは……」と語りだした。
「オリヴィアがヴォルフ先生に絡まれていて、そこに割って入った頃だった。
ヴォルフ先生は執拗にオリヴィアを研究に誘っていたんだ。ある研究にオリヴィアの家系魔法が必要だと、何度も誘っていた。ヴォルフ先生は優秀な魔法使い。だが、気性の荒さと、ちょっとした生徒との問題で起こす暴言や態度が生徒や教師の間で噂になっていてな。そんな輩が内気なオリヴィアに絡んでるのを見過ごせなくて、しつこい誘いにアタシも参加する形で監視していたんだ」
ヴォルフはオリヴィアの魔法に執着していた。それは神社での発言でも聞いていた。それが、ロスト・タブレットに関係するというのだろうか。
「にしても、学校でも問題視されてたのに、よく解雇にされなかったな。あの教師」
「錬金術を扱える優秀な教師だからな。錬金術は魔法とは少し違う。金属に魔法を使うが、金属そのものを変形させたり、薬の調合に使うぐらいで、それ以上の発展は今のところない。あくまで金属を用いて、神薬を作る事に使われている」
なるほどと相槌を打った。
「本当に分かってる? 錬金術は君達の世界で言うところの医者のクラスだよ。金属の抽出、変形、そして薬品作り、鍛冶師と医者のハイブリッドなんだよ♪」
「止めろ、錬金術師のイメージがおかしくなるだろ」
ハンマーを振るう白衣の医者みたいなのが頭に現像され、
「まあともかく、問題点は多々あれど、優秀だし、代理を探すのも難しいから解雇させられないんだ。実際、錬金術の授業を受けたが、性格に反して、金属の扱いは丁寧で、薬品作りの説明も分かりやすかった」
だから『先生』と呼ぶのかな、と明智はこっそりと思った。憎むべきはヴォルフであり、経験と知識に敬意を示す辺りがアルシェらしいと。
「そんなヴォルフ先生が、オリヴィアとアタシを研究のために連れて行ったのが、あの石作りの門だった」
本題に入り、悔やむようにアルシェの表情が引きつった。
「遺跡調査のために訪れた場所は、よくある古代遺跡だった。その地下に、石の門がある空間があって、ヴォルフはその門の近くにあった種と土をオリヴィアに調べさせようとしていたんだ」
種と土? と明智が突っ掛かる。
「何で? 流れ的に門とか門のある空間を調査するんじゃないか」
「『研究』だからだ。そこでやっと、ヴォルフ先生がオリヴィアに固執していた理由が分かったよ」
「何で?」
「オリヴィアの、オリヴィア・エメラル・ガードナーの家系魔法は、種と土を用いた魔法だからだ」
疑問符を浮かべた。一応目羅と世迷を一瞥するが、ポーカーフェイスが得意な二人から、どこまで理解してるか読み取れず、この話に自分だけ置いてかれてないか心配して背筋に冷や汗が伝った。
「つまり、ヴォルフ先生はあの空間の『種と土』を研究しようとしてたんだ。門は異世界に通じると、魔法使いの間で噂がよくあるからな」
そこで明智はすかさず、「世迷」と声を掛けた。
専門家は脚を組むと語りだす。
「魔法世界の『迷子』は多いね。俺っち達管理者の間でも、魔法世界の迷子を保護してるのは多い。どうも魔法世界はゲートが出やすいみたいで、迷い込む好奇心旺盛な探検家気質の子が多い印象だよ。好奇心は猫をも殺すって聞かないのかな」
そういえばこの列車で、別世界で保護した魔法使いがいるとか聞いたような。
「そうだったのか、実際、行方不明になる魔法使いは少なくない。アタシも魔導院タロットに入学してから、神隠しに遭った生徒の話しはよく聞いていた」
こっちでも似たような話しは多い。その者達が別の世界に渡っているとなると、見つけられないのも納得。
どこに迷い込んだのか、どうやって帰るのか、帰り道であるゲートは誰にも見えないのだから。
「ともかく、ヴォルフ先生は門の側にある『種と土』を研究したがっていたんだ。そのために、わざわざ遺跡の管理者に挨拶する機会を作って、調査許可を得たくらいにな」
「何でそこまで……」
「さあ。アタシはおまけみたいなものだからな。あくまでオリヴィアの護衛を務めていたから、ヴォルフ先生の考えなど気にしなかった。でも、あれだ……」
急に口が回らなくなる。アルシェがまごまごと、照れくさそうにしていた。
「遺跡調査は、個人的にも気になっていたから浮かれていた。挨拶の時もだが、馬車の中で寝てたらしくて、起こされて馬車から降りると、すでに屋敷内にいたし、恥ずかしかったな」
と照れ笑いしながら説明された。それはつまり、気張り過ぎて疲れて寝ちゃったということか。何だか可愛いな、と明智はアルシェには見えないようクスクス笑った。
「馬車を引いてたのはヴォルフ先生でな、遺跡で見つかった空間を秘密にするためにも、少人数で向かっていてた。行きも帰りもそうだったが、とにかく長くて、眠くてな」
「こっちでもあるあるな話しだな、それ」
電車で長く揺らされると眠くなるそれを思い浮かべながら共感した。あの眠気に勝てる人なんているのだろうか。
「ともかく、それだけ徹底してたんだ。だから、研究の姿勢から、アタシも無意識に警戒を薄めてしまった」
だから、と言葉が繋がる。
「あの門を通った時、見知らぬ場所にいたのが、ヴォルフ先生の策略なんて思わなかった」
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