【4】「侮辱」
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【視野8】「キャリバン・ド・キャリバーン(2)」
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荒野から伸びてくるウドド線、その終点。
ヘシオーム駅のホームにて、待ち構える。
紅茶色の大地から立ち昇る、蜃気楼の向こうから、
ウドド運行列車が現れるのを待って。
「キャリバン様」
背後からの呼び掛けに、
目線を向けて反応する。
こういう話しかけ方は、大抵、
「ウドド線の機関士を、先ほど保護しました」
「機関士だって?なぜ機関士が列車から降りているんだい?」
「その者の言葉では『ウドド運行列車が聖女に奪われた』との事です」
「……やはり、奴等の仲間だったか」
私の予想は正しかった、
事態が最悪な方向に向かっている。
「それと、ウドド聖山で、虚神教団の僧兵が、
数名死んでいるのが発見されたそうです」
「ウドド聖山で?」
仲間割れか?
いや、今はそんな事に気を使う余裕は無い。
既に事は起こっているんだ。
目の前の現実に集中しよう。
主戦力の居ない、寄せ集めの勢力で
果たしてどれだけ持ち堪えられるか。
せめて、近衛兵隊を含めた王国兵を総動員できれば
まだ、まともな戦力と呼べたが、
私の要求にヘシオーム国王は、
流石に首を縦に振らなかった。
「…仕方がない事だとは思うけど、
この光景を見て、考え直して欲しいものだよ」
やや紫がかった空と、
境界線が霞む地平線、
そこから登ってくる人影の大群。
虚神教団の僧兵達と、勇者ヨールーが姿を現した。
こちらも呼応して、線路に沿って歩みを進める。
私は、この勢力の代表として先陣を切り、
同じく前列を歩くヨールーと、顔を合わせた。
途端、示し合わせたように止まる両勢力。
「……あんたさんの企ては、お見通しだ。
ウドド運行列車に積まれているトマリンを使って、
魔法源泉を破壊しようとしているんだろう?」
「……魔法…源泉?…なんだそれは?
そんなもの、どうでも良い。
オレはアイツの核に用がある」
「アイツの…核?」
核…といえば、ここにあるのは唯一神アロンパンの核、
それをアイツ呼ばわりとは……
アイツ呼ばわり……
当初からある謎のひとつに、
『なぜ虚神ゲルドパンを信仰する虚神教が、
唯一神アロンパンの核を狙うのか?』
というのがあったが。
私は、どうやら、その理由がわかりそうな気がした。
それは同時に、目の前の少年が勝てぬ相手だと認める事になる。
「あんたさんは……まさか……」
「察しがいいのだな大賢者の女。
オレは勇者ヨールー、受肉したゲルドパンだ」
「……なんとまぁ……相対しているのが神様とは…
うやうやしく、
ヨールーは、私のジョークに対し
以外にも微笑を浮かべた。
「いや。結構だ。
今日は気分が良いんだ」
「理由を聞いても?」
「今夜。ようやっと決着が着く。
長い
代理戦争は失敗案だったが……」
そこまで言って、ヨールーの言葉が止まる。
片耳を親指で撫でながら「ふむ」と。
「…いや…失敗という事もないか、
この今の結果があるのだからな。
会話の
まさか、幼き頃から聞かされた、
神話の中にある神と相対する
しかし、この神、既に『勝利している』とは、舐められたものだ。
私は、マルケリオンに領域を区切ってもらえなければ、
切り札の主力魔法【アブソバキム】を使う事が出来ない。
彼が死した時点で、私の有用性は賢者と同格かもしれない。
それでも、私は大賢者だ。
たった一つの魔法で、この座についた訳じゃない。
人生で獲得してきた全ての魔法によって、
神殺しは成せぬとも、せめて…虚神教団だけでも壊滅させてみせる。
「覚悟を決めた顔だな」
「そうせざる得ない相手だからね」
「かつて……オレの体を殺した3人の人間も、同じ顔をしていた。
その脅威、実力をオレは、認めている。
一人で戦う事が、いかに愚かか……
お前達、眷属が教えてくれたんだ」
「……私達から…教わった?」
一人では戦わない?……
魔女ヒーリアか…虚神教団の事を言っているのか?
……いや、そういう雰囲気じゃない。
一体何を考えている?
「そうだ。これも…人間が編み出した魔法だったな。
重ね重ね感謝するよ。人間」
嫌な予感がする。
ヨールは何かを始めるつもりだ。
ヨールーは何か、丸いガラスの破片を地面に投げ、
次に、手の平を見せつける様に開いた。
そして、開いた手の薬指と小指を逆の手で握ると、
なんの
勇者ヨールーの自傷行為をトリガーとして、
超常の現象が巻き起こる。
勇者の指は分解され
その血液は膜状に広がり
その肉は、繊維に編まれ
その骨は、象牙色の壺になる。
「『
はか…あばき…だって?
いったい…誰の墓を暴くつもりだ?
……待て…まさかこいつ、
よりにもよって……
嘘であってほしい。
私の予想が正しければ…最悪の相手が召喚される。
それは……よりにもよって……
そうして暴かれた墓から現れたのは、
メガネの奥で、虹色の眼光を放ち、
白地に金の刺繍をあしらったローブを、身にまとう聡明そうな男だった。
「法力の賢者マルケリオン。当代最強の大賢者がお相手しよう」
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