【12】「勇者の資格」

オレを囲っていた鉄の箱が、パカンと綺麗に割れた。


それは勇者アヌロヌメの遺品……

切った物を例外なく、等しくける異能の短剣だ。


視界を回す。


遠くに足を引きずって歩く、ヒーリアの後ろ姿が見えた。


「うぉおおおおおお!!!!ヒーリアァアア!!!!」


ビクッと肩を持ち上げて、ゆっくり振り返るヒーリア。


「え!?なな!!なんで出てきてるんだ!?君は!!

 ロマンチックにお別れできたんだから!

 簡単に出て来てくれるなよ!!」


オレは、その背中を一直線にとらえる。



できる。


できる。できる。


できる!できる!!できる!!!



オレだって勇者なんだ!!

絶対にできる!!

アイツにできたなら!!!

絶対にできる!!!


やってみせる!!!


オレは、ヒーリアに追いつくと、

強く肩を抱いて……胸を触った。


「ばっ!こんな時に!!

 何を考えているんだ!!馬鹿者!!!」


「ふーっ!ふーっ!ふーっ!!!」


集中しろ……集中……いける…いけるいけるいける…


自信だ。


オレを信じろ……オレを……


思い出せ…あの記憶を、

友の死から、その記憶から、希望をすくい上げるんだ……


「……アキヒロ?」



「奪え……」



「え?」



「アークス・アークスッ!!」



「!?」


オレの右手から引力が生まれる。


やがて、その引力でヒーリアの胸から、真っ赤な塊が飛び出してきた。


「これは……まさか……!!!

 ダメだ!アキヒロッ!!

 それではお前が!!」


「うるせー!!わかってんだよ!!

 だから!!こうするんだよぉおおッ!!!!」


オレは、浮き出てきた赤い塊を。


勇者の剣で叩き切った。



そう、等しく半分に。



そして、その片方を握りしめて、

思いっきり自分の胸に叩き込んだ!!


その瞬間、様々な感触が体を巡り、

自分の体が、どんな毒素よりも強力で、

人畜有害になったんだと、自覚した。


「そんな事……君は…まさか……」


「これで…オレも不死だ。

 これで…オレも君にしか触れない」


「馬鹿げている……君は…呪いを…

 私の呪いを、丸ごと祝福に変えたのか?」


「なぁに。オレだけじゃない。

 お義兄さんからの…ご祝儀だよ…

 今のは…ちょっとキザかな?」


「……君は……本当に…バカだなぁ…」


「これで良いんだな。

 ……勇者アヌロヌメさん」



俺がヒーリアに触れても死なない理由が、ようやく分かった。


勇者アヌロヌメ、あんたが、守ってくれてたんだな。

妹に、二度と同じ『重荷』を背負わせない為に。


「アキヒロ……私は、君に何をすれば良いの?」


さてと……かますか。


一世一代の大告白を!!


「ヒーリア大好きだ!!

 オレの妻になってくれ!!!」


……思ったより、淡白になっちゃったわ

格好つかないんだなぁ…これが。


「アキヒロ……嬉しいよ。

 私も…君と生きたい」


あぁ…参ったな。


オレもこれで既婚者か。


明宏あきひろは立派になりましたぞ

パパン、ママン。


「アキヒロ!あれを!!」


ヒーリアの指差す方向を向くと、

木々が、ありえない早さで枯れていき、

たっぷりとあった緑の葉が、全て地に落ち黄土色に混じった。


アンデット野郎だ。


間違いなく奴が近づいてきている。


「さて…初めての共同作業が

 こんなのになっちゃうけど……

 やっちまおうか…ヒーリア!!」


「ああ。なんだって構わないさ。

 だが、魔法に関しては私が先輩なんだからな?

 遅れるなよ。旦那様!!!」


————————————————————————————————————


不死3人による泥仕合いならぬ、泥死合いは、

思いの外、簡単についた。


アンデット野郎は、オレという存在をかなり軽視していて、

一撃で戦闘不能になったオレに、完全に油断していた。


オレは、それを利用して芋虫のように這いずり、

ヒーリアとの戦いに夢中になるアンデット野郎を、

勇者の剣で真っ二つに切ってやった。


だが、驚いたのはそこからだ。


アンデット野郎は、半分になっても

その脅威は衰える事はなく、

野獣の様な攻撃性で襲いかかって来た。


オレもヒーリアも、何度も致命傷を負ったけれど

なんとか、無限の命を駆使して戦った。


最終的に、オレが切り刻んだアンデット野郎の体を、

ヒーリアが鉄の箱に閉じ込める事で、

なんとか勝利する事ができた。



そして、このアンデットの対処についても考えがある。



オレの【アークス・アークスアイテム寄せ】で、

能力を奪い取り、不死性を打ち消せば

この男は、鉄の箱の中で肉塊に変わり、死んでしまうと思う。


相当、グロい死に方をするだろうけど。


「ヒーリア…大丈夫?」


「ああ…不死だからな。

 心配ないさ」


そりゃそうか。


「また復活されたらたまらない、

 とっとと不死身を奪って倒してしまおう」


「……少し、いいか?旦那様」


う〜ん…その旦那様っていうの…凄く良いねぇ。


「なんだいハニー?」


「この男から【呪い】を、奪う前に

 一度私に触らせてくれないか?」


「……呪い?……触る?」


「そう。奇妙なんだ。どうやらこの男は、

 私と全く同じ【呪い】にかかっているみたいなんだ」


「ヒーリアと同じ呪いって……」


言われてみれば…不自然に枯れる木々…

出会った時に見たヒーリアの【死の肌】と同じ影響力だ。


「この男がネダチを殴り殺した時、とても違和感を感じた。

 あの死が【死の肌】に由来するものなら、納得できる」


「そしたらこいつも…ゲルドパンから呪いを?」


「それは、わからない。

 なので、一度、こいつの記憶を覗きたい。

 呪いの回路を辿れば、多少は記憶に干渉できるかもしれん」


「…確かに気になるな…よしわかった。

 やってみよう!

 奪え!アークス・アークス!!」


「アキヒロ……水を差す様で悪いんだが……

 スキルを発動する際に、わざわざ叫び散らす必要はないぞ?」


「……本当に…水さすなよハニー」



固有スキル【アークス・アークスアイテム寄せ】を発動して、

男の胸部から中身を取り出す。


出てきた塊は、青と赤が複雑に絡まった色をしている。


まるで、二つの違う塊を混ぜ合わせた様だ。


「…他人の記憶を覗くのは悪趣味だが……

 申し訳ないとは、思わんぞ」


ヒーリアは、前置きのセリフを用意して、

その塊に干渉し始める。


これを手に入れたら、また半分にしてヒーリアと分けようか。

どうなるか分からないけど、上手いこと作用して、

こいつみたいにマッチョにならないかな?


……いや。そしたら、ヒーリアもマッチョか?

それはちょっと嫌だなぁ。


などと、オレがどうでもいい妄想をしていると、

ヒーリアが眉をひそめたのが見えた。


「どした?何かわかった?」


「あ…ああ…こいつの名前は『ネモ』

 おそらく偽名だが……それよりも……

 やはりこいつも、同じ呪いを受けている…

 しかし……呪いの元は、ゲルドパンじゃない。

 唯一神アロンパンだ」


「アロンパン……?」


なんか焼きたてが香しそうな名前だけど…

確か、ゲルドパンと対になる、神様の名前だったか?


「…兄さん?」


「ん?…何言ってんだヒーリア?大丈夫か?」


「なんだ…この記憶は……なんでこいつが…こんな事を?

 …そうか……そう言う事か!!

 あの方の墓を暴いたから、私を恨んだのか!!

 どうして気が付かなかったんだ!!」


「おい、大丈夫か?無理すんなよ?」


「あ!……ああっ!!」


「おおい!!怖い怖い!!

 そういうのヤバイ感じするから!!

 もうやめとけ!!」


オレは、何かバッドなフラグが立ちそうな気配を感じ、

強引に、ヒーリアの体を引き剥がした。


「大丈夫か!?」


「はぁ……はぁ……」


「何が見えた?

 なんかエグいの見えた?

 それかエログロいの?」


大男アンデットの情事となると、

それはそれは、激しいものが予想できるし、

そんなもの見せられたら、動悸どうきも起こすわ。


「アキヒロ……この人は……この御方は!」


「なんだ?誰なんだよ?」


次の瞬間、ヒーリアはアンデット野郎の体を閉じ込めた箱を、

全部開いて放ち、体の再生を許した。


「ちょっ!!えぇええ!!なんでなんで!?」


「この御方が居れば……まだ間に合うかもしれない」


さっきから、ヒーリアの様子がおかしい。

アンデット野郎の記憶で、いったい何を見たんだ!?


「間に合う?何に?」


「急げ!!アキヒロ!!

 ミミナミを連れて、急いで向かうぞ!!!」


「ちょっと!!話しが見えないぞ!!

 どこに!何をしに行くんだよ!!」


「どこに!?決まっている!!

 ウドド運行列車を破壊しに行くんだ!!!」

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