【3】「私に近寄るな」

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黒い髪の少年が見える。


どうやら…日本人みたいだ…

見たことがあるような…無いような?


その少年は、胸から青い宝石を取り出してから

横の少女の胸を触った。


おいおい…唐突だなぁ。


その後……記憶が曖昧になる。


その次に、激しい怒りがあった。


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「……ぅあ……んー?ん!!!ぺッ!ぺッ!!」


口にたっぷりと、埃が引っ付いている。


手探りで眼鏡を探し当て、

日の差し込む、小屋の中を見渡す。


埃が雪のように積もってるし、

屋根に穴も空いてるじゃないか。


部屋の中は風化が進んでいて

まともな物は、ほとんどない。


よくまぁ、こんな所で眠れたもんだよなぁ、

死ぬ程、疲れていたし、めちゃ頑張ったからなぁ。


そうだ。助けた女の様子を見てみるか。


「どれどれ……これは?…」


顔の傷が治りかけている。

昨日よりも明らかに傷が浅い。


「すごい回復力だ……

 この世界の人間は、みんなこうなのか?」


とは言え、彼女は、まだまだ満身創痍だ。


仕方がない。


不本意だけど具合を……いや、状態を確認しておく必要がある。


深いキズが無いとも限らないしな。

下心はないぞ…純粋な善意さ。


「どうれ!ご開帳!!」


俺は、ボロボロになった女の服を丁寧に剥がし、

体の状態をじ〜っくり観察してみる。


特に怪我が酷そうな所には、Tシャツを裂いて、

見よう見まねで包帯代わりに巻きつけた。


「ふぅ……これでいいかな?」


一番酷い怪我は、右足の骨折だったけど


昨日見たときは、

骨が皮膚を突き破って出てきそうだったのに、

今は、元の形に戻りつつある。


これなら…放っておいても大丈夫かもな。


「……うむ」


寝息を立てる、彼女の顔を覗いてみる。


しっとりとした濃い黒の髪、

長い睫毛、白い肌、ピンクの唇。


まじまじと見ても、めちゃくちゃ可愛い。


歳は、二十〜二十五歳くらいか、

たぶん俺よりも年上だと思う。


正直…めちゃめちゃムラムラするッ!!!

油断すると寝込みを襲ってしまいそうになる!!!


いかんいかん!!

気晴らしに掃除でもしよう!!!


家の中はハウスダスト【レベル100】みたいな状態だしな!!

このままだと、早いうちに体が痒くなってしまうぞ!!


煮えたぎる性欲を押さえ込みながら、

俺は部屋の掃除にいそしむ事にした。


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「よし。こんなもんか」


性欲に抗うために、ほうきを握ってから三時間。


その原動力の強さを示す様に、

見る見るうちに、部屋中の埃が無くなった。


問題は、鍋とかの鉄製の調理具だ。


水は水筒で汲めるけど、

鍋とかフライパンは、サビが酷くて駄目そうだ。


「あ〜考えたら腹が減ってきたわ」


机の上の果物を見つめる。


これは、森に自生していた、何かしらの果物だ。

外壁のツタを引っぺがしている時に、偶然見つけた。


「…食えるのか…これ」


腕を組んで考えてみる。


見た目は梨とか、林檎とかに似てるし、

香りも甘く、悪く無い。


だからといって、

おいそれと、口に放り込むのは抵抗があるな。


とは言え、他に食べられそうな物もない。


……昆虫食……


「うわぁ!やめろやめろ!!

 考えるな!!」


危ないところだ!

いくら腹が減って倒れそうでも、

超えてはいけない一線はきっとある!!

心を強く持てアキヒロ!!


仕方がない。

これを食べてみよう。


例の果物に歯を突き立て、

ムシャリと一口。


「ん…んん……ん〜?

 おっ!なかなか美味いぞ!!」


「…な…」


「…ん〜?」


「なんだ…ここは……」


「んん!?」


突然聞こえた声に、俺の意識が全て持ってかれる。


どうやら女が目を覚ましたようだ。


「おぉ!!目を覚ましたか!!

 よかった!!どこか痛む所は……」


「わ…私に近寄るなぁッ!!!」


「…えっ?……は?」


「…いっ!!……くっ!!!」


女が、苦痛に顔を歪める。

大きな声が傷口に響いたのだろう。


「おいおい…無理すんなよ」


「くっ!!来るなと言っているッ!!

 私にっ……ちかづくぬぁ〜」


強い口調の途中で、

ふにゃふにゃと、しおらしくなる女。


よほど弱っているのだろう、

見ていて心配になる。


しかしだ。


なんで助けてやったのに、こんなに邪険にされるのか?

めちゃ理不尽だ。少しイラついてきたぞ!!


「あのなぁ…確かに俺は……あんまり整った外見じゃないさ!

 デブだからなぁ!!印象の悪さは認めるよ!!

 でも、そんなに大声出すこたぁ無いだろうよ!!!」


「……うるさいぞ…別に……そういうのでは…ないんだ。

 君を外見で…軽蔑けいべつした……わけじゃない。

 私の……私の問題…なんだ」


「う〜ん?

 どゆこと?」


「………ぃや…待て……おかしいぞ」


「なにが?」


「誰が…私を……ここまで運んで……あっ!?」


女は、自分の体に巻かれた包帯Tシャツを見て目を丸くした。


あ…まずい。このタイミングだと、

俺がお医者さんごっこしたのがバレちゃうじゃん。


「いやぁ〜、ふひひ!!あの……ひへへ!!

 一応さ……怪我してたから…ふひッ!!…ふひひッ!!!」


ダメだ!!テンパり過ぎて、キモイ笑いしか出ない!!


「私に…私の体に触れたのか?」


「あ…いや……触れたっていうのは…

 なんかちょっとエッチな言い方じゃない?

 その……出来るだけ見ない様にしたからさ…

 怒んないでくださいよぉお〜ッ!!!」


もう既に命狙われてんだよ!!こっちはよぉ!!

これ以上敵作ったら!やってらんないんすよぉ〜!!


「バカな……どうして…」


「どうしてって言われても……

 そりゃぁ……」


あ〜…なんか面倒くさくなってきたぞ?


そっちにも…問題があると思うんですけど?

エッチな体してるのも悪いと思うんですけど?


むしろ感謝して欲しいんですけど?


「どうして君は死なないんだ!?」


「……ひどくない?」

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