三章【がらんどうの勇者】
【1】「殺されてたまるか!!」
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【視野3】「清水 明宏」
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めっちゃ眩しい……あの青緑色の球はなんだ?
おや、近くに人がいるみたいだな……
なんだか、小難しい事を言ってるぞ……
なになに?……呪い?兄?……字が似てる選手権かな?
しかし、やたら堅苦しい言葉で喋るな、この人。
(こいつは利用できる)
(愚かな女め)
これは俺の声じゃないぞ?
『本人』の声だ。
-・-【場面が変わる】・-・-・-・-・
遠くに、機関車みたいな…列車が見える。
また誰かと喋っている。
「人が乗っているなどとは、聞いていない?」
「甘えるな」
「なぜあんな奴を助けようとした?無駄なことはするな」
偉そうな口ぶりだなぁ。
もうちょいと、やさしく言えばいいのに。
-・-【場面が変わる】・-・-・-・-・
うぉお!?
すごい速さだ!!
走っているのか!!
目の前に髭面の男が見える。
どうやら、あのおっさんが逃げるのを、追っているみたいだ。
『こちらを見よ!!無法者!!』
声がした方向を見ると、
白地に、金刺繍のローブを着た、黒髪の少女が見える。
ふ〜ん。なかなか、可愛い娘じゃないか。
なんとか、こういう娘と、ラブコメできないかな?
黒髪の少女は、短い杖をこちらに向けると、
緑色に光る電撃を出して妨害してくる。
視界が、もの凄い速度で回る。
うわわ!!酔いそう!!
ゲーム酔いする質なんだ!!やめてくれ!!
ようやく視野が定まったかと思えば、
あの黒髪少女の顔が目の前に。
お!お!チュ〜しろ!!チュ〜ッ!!
『コブロン様…っお逃げください!!』
……え?、殺しちゃうの!?
うっわ!!グロい!!
そんな……何も…バラバラにしなくても……
視界は、また男の方へ。
『うああぁ!!アラランッ!!俺様を守れぇえ!!』
男は、太っていて足が遅い。
一瞬で距離を詰めて‥‥
うわぁ‥‥これもグロいなぁ‥
ぐちょってして‥‥温かい‥。
ぉえっ!……吐きそうだ!!
-・-【場面が変わる】・-・-・-・-・
左手に青緑の宝石を持っている。
それを砕くと、身体中が元気いっぱいになった。
右手から青紫の光線が飛び出て………
大地ごと人間を吹き飛ばしている。
とても気持ちがいい。
『ふざけるな!!人に向けて撃つなど!!』
誰かに強く怒られた……
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窓から、日光が降り注いで、
白を基調とした部屋を明るく照らしている。
「……………んん?」
……ああ、そうだ。
昼寝してたんだった。
う〜っ!頭が痛い。
何か、複雑な夢を見ていたな。
やけに具体的で、でも支離滅裂な…
夢らしいけど、何かリアリティも感じる。
まぁ、夢ってそういうもんか。
「アキヒロ様…お目覚めになりましたか?」
俺の世話係をしてくれている
白髪のメイドからのイブニングコールだ。
ベットの横に立っている所を見ると、
どうやら、俺が寝ている間、
ずっとそこに、居たみたいだ。
苦しゅう無いぞ。
「うぅ〜ん。少し頭が痛いんだよなぁ〜
マッサージしてくれる?」
「……はい。かしこまりました」
「うんうん!!しくよろ!!!」
この西部?とかいう場所に来る前は、
おばあちゃんメイドが、せっせと世話焼いてくれたけど
こっちに来てからは、この若いメイドちゃんが、
世話してくれるからマジで最高だ。
こうやって、首やら背中やらを
マッサージしてくれていると…
たまにムニュって当たるんだよ!
柔らかいものがさぁ!!
大きなラッキーじゃない。
こういう少しのラッキー。
こういうのだ。
こういうのでいいんだよ。
「肩周りを失礼します。
お手を上げて頂けますか?」
「あ〜はいはい」
お?肩のマッサージ?
そういうのもあるのか……なるほど。
「ん〜……」
おぉ…肩を後ろに回して?
肩甲骨?とかいうのをグッと持ち上げて……
おぉ…気持ちいいぞ……
それに…全身が密着して……
柔らかい
いひひひ!!サイコーゥ!!!
「あぁ〜いいねぇ〜
えっと…名前はなんだったかな…」
確か…ミナミ…ミナミミ?……なんだっけ?
「ミミナミでございます」
「そうそう!ミミナミ…うーん…いい感じだなぁ」
「左様ですか。
では、次は肘のマッサージを行います」
「うーん。
任せるよ〜」
あー、いい気持ち。
そう言えばマコト達、もう敵と戦っているのかな……
うーん。
俺も沢山頑張ったけど、
まだ、覚醒の時じゃないみたいだし。
とりあえず、マコト達にザコを倒してもらって、
俺は……敵の魔女?だったか?
その大ボスを倒す流れになるのかな?
まぁ……気長にやっていくさ。
俺は努力とか、一生懸命とか、
そういうキャラじゃないんだよなぁ。
こう……一発勝負で大成功…的な?
そういうキャラなんだよなぁ……
ああいうのは、やれる奴に任せれば良いのさ。
「ぁ……いてて」
ミミナミのストレッチ?マッサージ?が、
最終段階に入ったのか、少し痛みが出てきた。
そうそう。
何かのアニメで、何かを手に入れるなら
多少の痛みは覚悟しなければいけないとか
なんとか…言っていた気がするし。
これが……そういう………こと…なの……か…
「いててててて!!!ちょっ!!いたい!!!」
さすがに!!痛すぎる!!
「ちょっと!!
ミミナミちゃん!!
少し加減して…」
「うるさい。黙れ」
「はっ!?いきなりどうしたのさ!!」
「勇者アヌロヌメの剣はどこにある?」
「勇者!?……ぁ!!…いてて!!」
ミミナミは、俺の腕を、
これでもかと後ろに回して
うつ伏せにベットに押し付けてきた。
「あぃい〜ッ!!」
完全に関節がキマってる!!
取れる!!
プラモデルの関節みたいに!!
腕が取れちゃうよぉ〜ッ!!!
「君は!メイドじゃないの!?」
「馬鹿な男め。こんな若い女が、
貴様のようなブ男の世話など買って出るものか!!
無駄な口を叩いてないで、とっとと剣の在り処を言え!!!」
「剣!?あ……ああ!!
そこだよ!!そのリュックの中!!」
俺は激痛に耐えながら、
部屋のすみに放り投げている、リュックを指差した。
あのリュックは、この世界に来た時に
元の世界から持ってきたものだ。
「む!あれか!!
よしよし!動くなよ!!
動くと殺す。
すごく痛い目にあわせて、殺してやるんだからな。
楽に死にたいなら、動くんじゃないぞ?」
「ど…どっちにしろ殺すって事!?」
「ああ。そうだぞ。
私はお前を殺すんだからな。
無駄な手間を増やすんじゃないぞ」
ミミナミはそう言うと、
リュックを拾い上げて、
ガチャガチャと弄り始めた。
右に、左にリュックを振って…5秒ほど止まる。
すると、ゆっくりと振り向いて俺を睨んできた。
「……おい。これはどうやって開けるんだ!!教えろ!!」
あー…なんか喋り方で、薄々わかってたけど、
こいつ頭が悪いぞ。
「ちょっと……やらせてくれ…」
「よしっ!素直にやれよ!
変なことしたら、殺しちゃうんだからな!!」
「あ〜はいはい」
俺は、リュックの横に挿してある、制汗スプレーを抜き取って
くるくる回してみたり、振ってみたり、
それっぽい動きをしてみせる。
これは、汗っかきの俺に、
母親が「使いなさい」と渡してきたものだ。
その時は「お節介すんなよババァ!!」と思ったものだが、
今ばっかりは、本当にあって良かった。
ありがとうママン。
「これを…」
「……?これはなんだ?」
「こうするんだよぉッ!!」
俺は、制汗スプレーを、
思いっきりミミナミの顔面にシャーっと吹きかけた。
「うぉおお!!何をするんだお前!!
くそ!!目が見えなくなったら、どうする!!!」
「うるせぇ!!おととい来やがれ!!間抜けぇ!!」
両目を抑え、足をバタバタさせる、ミミナミを無視して、
俺は、リュックを担いで、窓から飛び出した。
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住居として使っていた、王族の別荘は、
すぐ隣には、森が広がっている。
奥を覗けば、暗くて見えない、深い深い森だ。
俺の中で、二つの選択肢がちらつく。
1.別荘に戻って助けを呼ぶ。
2.森の中へ身を隠す。
1.を選んだ場合、すぐに解決する気もするけど、
もし、あのミミナミの仲間が、他にも居たら…アキちゃん絶体絶命。
2.を選んだ場合、見知らぬ森をさまようハメになるが、
身を隠しながら逃げる事は出来る。
せっかく異世界に来たのに、殺されてたまるか!!
絶対に殺されたくないでござる!!!
なら…選ぶのは確実に生きられる方だ!!
「せっかくだから俺は、2の選択肢を選ぶぜ!!!」
決めるが早いか、俺は森へ向かって全速力で走っていた。
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