第41話
コテージに帰った私は、リビングのソファに倒れ込んだ。
「……ご飯の味がしなかった」
「ごめん!
お母さん、私のスマホのロック外しちゃったの!」
私はよろよろと起き上がって
「隠す努力はしてくれたんでしょ?
それならもういいよ。しょうがないし」
マスターも眉をひそめて困ってるみたいだった。
「どう言えば理解してくれるだろう」
「秀一さんが見えない人には、どう見てもカップルだったはずよ。
その上に写真付きだもの。弁解の余地はないわ」
「そうか……」
インターホンが鳴って、マスターがエントランスに向かう。
少しして、マスターと一緒に入ってきたのは――案の定、お母さんだった。
浜崎のお爺さんと秘書さんも同伴してるみたいだ。
「すまんが、
みんなはうなずいて部屋に入っていった。
ダイニングキッチンで私とマスター、お母さんと浜崎のお爺さん、秘書さんがテーブルに着く。
浜崎のお爺さんが口を開く。
「事情は伺った。
今回のことを、
マスターはテーブルを見つめながら応える。
「……やはり、言い訳のしようがないかと」
「
それもきちんとわかっているね?」
「はい」
「では、とるべき道もわかっているね?」
「はい。
お母さんが頷いて告げる。
「
ではこれからも、
マスターがお母さんの目を見てうなずいた。
「それにかけては、神に誓って」
浜崎のお爺さんが小さく息をついた。
「
だからここは、儂に免じて
お母さんが浜崎のお爺さんを見つめた。
「それは、浜崎さんの力で『きちんと
「ああ、その解釈であってるよ。
心配はいらないと思うが、万が一の時でも安心して欲しい」
お母さんが深くため息をついた。
「――
私はうなだれて「はい……」と応えた。
浜崎のお爺さんが立ち上がって告げる。
「もうこれで充分だろう。
本人たちもよく理解している。
あとは、
お母さんもうなずいて立ち上がった。
マスターに見送られ、お母さんたちは自分のコテージへ帰っていった。
****
ドゴン! とすごい音がしてコテージが揺れた。
パラパラと天井から何かが落ちてくる音が聞こえる。
柱に拳を叩きつけた姿勢のまま、マスターが歯ぎしりをしていた。
「――秀一め、すべて計算ずくか!」
「えっ?! これ、秀一さんの仕業なの?!」
部屋から飛び出てきた孝弘さんが、マスターを見て驚いていた。
体中から怒りを迸らせるマスターは、まだ怒りが収まらないみたいだ。
孝弘さんがため息をついて告げる。
「なんだ、やっぱり葛城さんのしわざだったのか。
九頭竜神社の神様は、縁結びの神様でもあるからな。
トリックスターかと思いきや、
私は小首をかしげて孝弘さんに尋ねる。
「なーに? そのトリックスターって」
「良くも悪くも場をかき乱す神様のことだよ。
神話じゃ珍しくない存在だ。北欧神話のロキとかな」
いや、北欧神話とか知らないし……。
でも『場をかき乱す』ってのは、まさに秀一さんの特性っぽい気がするなぁ。
「何? 今の音。地震?」
孝弘さんが
「葛城さんに振り回された
たぶん、
私は黙ってうなずいた。
私は肩を落として応える。
「あの話し合いの場にいて、『役得』とか思えるなら代わってくれないかな……」
「ともかく、明日も予定があるのでしょう?
温泉に行くなら、そろそろ行かないと」
私はうなずいて、重い足取りで階段を上り、部屋に戻った。
****
温泉に行く道すがら、私はマスターに尋ねてみる。
「あんなにマスターが怒ったのに、雨粒ひとつ降らなかったのはなんで?」
マスターが疲れたような微笑みで応える。
「ここは秀一の領域だからね。
僕の影響力が及ばないんだよ。
――それより、本当にごめんね。
私は首を横に振って応える。
「ああなったら、もうあれしか道はなかったし」
「イケメンマスターと公認カップルかー。いいなー」
「よくない! ――いや、嫌って意味じゃなくて!」
あわててフォローしたけど、マスターはしょんぼりしていた。
「本当にごめん。
全部、僕の責任だね。
これじゃあ
もしそういう人ができたら、いつでもバイトを辞めていいからね」
「――そんな! 私、恋愛の予定とかないし!
『カフェ・ド・ビジュー・セレニテ』で働けるのが、今は一番楽しいんだよ!
だから『辞めろ』だなんて、言わないでよ!」
マスターが私の目を嬉しそうに見つめてきた。
「……ありがとう、
私はニコリと微笑んで、マスターの目を見つめた。
「なによ、立派にいちゃついてるじゃない」
「そういうのじゃないってばー!」
「はいはい、言い訳は署で聞きます」
「犯罪者か!」
「『イケメン捕縛罪』で『永久就職の刑』ね。
おめでとう。ご祝儀は弾んでおくわ」
「結婚式の話なの?!
ちょっと待って話について行けないよ!」
気が付くと、マスターがクスクスと楽しそうに笑っていた。
「――
「はーい……えっ?! 今、何て言ったの?!」
マスターが私に優しく微笑んだ。
「内緒。
――さぁ着いたよ。
温泉に入ろうか」
さっさと男湯に入っていったマスターの背中を、私はぼんやりと見つめて居た。
****
温泉につかりながら、今夜のことを思い返す。
「――はぁ。色々あり過ぎて、頭がついて行かないよ」
「何を言ってるのよ、この贅沢もの!」
「まぁいいわ。他人のものでもイケメンはイケメンだもの。
目の保養には使えるし」
「マスターは別に私のものじゃないってばー!」
「あら、でもマスターの心は
お酒を飲んだら、あんなに強く抱き着くぐらいだもの」
「それはっ?! ――そんなの、わかんないじゃん」
「まだ言うか! 理性を失くしてああなったんだから、本心に決まってるでしょ!」
「――でも! 言葉で言われたわけじゃないし!」
「聞きまして? 奥様。態度で示されるだけじゃ不満なんですって」
「まぁ~~~っ! 贅沢ですわね。
次は『結婚してください』しかないのに、それが欲しいのかしら」
私は思わず突っ込んでいく。
「なんで奥様談義になるの?!」
たくさん騒いだのに、今夜はマスターが注意をしてこなかった。
温泉から上がった後も、なんだか口数が少ない。
「……それじゃ、戻ろうか」
帰り道も、
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