不安なだけかもだし
チャイムが鳴り、もう授業が始まる、というところで、やっと愛羅は離れてくれた。
……嫌だった訳では無いんだけど、いくらこの時期でもあんなにずっとくっつかれてたら暑い、からな。うん。もちろんそれ以外の理由なんて無い。
こうやって本当に離れてもらわなくちゃ困るっていう時になったらちゃんと離れてくれるから、注意がしずらいんだよな。
と思っていたら、俺の膝の上に跨るようにして愛羅が座ってきた。
そしてそのまま、俺の胸に抱きついてきた。
……え? あれ? もしかして、ただこうしたかっただけ?
やっぱり、ちゃんと注意した方がいいのかな。
……でも、いくら俺がいるとはいえ、いきなり知らない世界に来て、不安なだけかもしれないし……少しくらいなら、許してやってもいいか。
この世界に来たのは愛羅の意思ではあるけど、俺も、なんだかんだ言ってあの時、愛羅にまた会えて良かったって思ったしな。
……まぁ、取り敢えずはこのままでいいか。
どうなってるのかは全く分からないが、気配を感じないどころか、愛羅の姿までもが見えないし、机の上に置いてある教科書やノートを見ることはできるし、大丈夫だろう。そのおかげで、ちゃんと勉強は出来るからな。
……強いて問題点を言うなら、俺が……いや、なんでもない。問題点なんて無い。
自分で言うのもなんだけど、娘に甘い俺はそのまま膝の上に座って抱きついてきている愛羅に対して何も言うことなく、授業を受けていると、チャイムが鳴った。
起立、という言葉に愛羅を抱っこするようにしながら席から立ち上がり、愛羅の負担にならないように少しだけ頭を下げ礼をした。
……次は、美術の授業か。
移動教室だな。
別に誰もこっちに視線なんて向けていないだろうけど、一応不自然じゃないように愛羅のことを降ろし、俺はそのまま授業に必要なものを取り出し、そのまま美術室に移動するために教室を出た。
気配はしないけど、愛羅も一緒に来ていると思う。
「……ヒロト、どこ、行くの?」
「ッ」
案の定と言うべきか、やっぱり付いてきていたみたいで、耳元で愛羅がそう聞いてきた。
ついてきているとは分かっていても、やっぱりいきなり耳元で声がするのはびっくりするから、出来ればやめて欲しい。
……ただ、愛羅の中で俺には耳が弱いと思っている節があるから、下手なことは言えない。……ってのは言い訳で、普通にただでさえ窮屈な生活をさせてしまっているのに、自由に口を開くことさえ出来なくしてしまうのは嫌だなんだよ。
……本当なら、愛羅には……愛する娘には、自由でいて欲しいんだからな。
「……」
そんなことを思いつつも、俺は愛羅の言葉を無視した。
別に好きで無視している訳じゃない。
……周りに思っていたよりも人が多かったんだよ。
こんなところで返事なんてできるはずがなかった。
愛羅もそれを分かってくれているのか、不満そうな雰囲気が醸し出されることは無かった。
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