頑張る
「俺が適当に手に取っていくから、何か欲しいものがあったら軽く手を引っ張ってくれ」
コンビニの前まで来た俺は、小さく呟くようにしてそう言った。
……さっきまでは周りに人がいなかったら良かったけど、今はそうじゃないし、普通の声量で話したりなんてしてたら変質者でしかないからな。
「分かった」
「……最高でも二個までだからな」
「分かった」
よし。
なら、入るか。
そして、コンビニの中に入った俺は、なるべくボリュームがあって安いものを片っ端から手に持っては元の場所に戻してを繰り返していた。
……今更だけど、愛羅はここにあるもの全部初めて見るようなものばっかりだろうし、迷ってるんだろうなぁ。
時間があるのなら好きなだけ迷ってくれていいんだけど、残念なことに俺には学校に行く時間が迫ってきている。……出来れば、急いで欲しかったりする。
「……ヒロト」
「ッ」
いきなり耳元で俺を呼ぶ愛羅の囁くような声が聞こえてきて、びっくりしてしまった俺は大きく体をのけぞらせてしまった。
反射的に店員さんの方に視線を向ける。
すると、そこには訝しげな視線を向けてきている店員さんがいた。
そりゃそうだ。店員さんから見たら、俺はいきなり体を大きくのけぞらせた変質者なんだからな。
……うん。理由は分かってるんだが、それが分かったからって、この顔から火が出そうなくらい恥ずかしい気持ちが消える訳では無い。
「……あれは、何?」
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、相変わらずマイペースに愛羅はそんなことを聞いてきた。
相変わらずの囁き声でまたつい反応してしまいそうになったけど、二度目だからと我慢して、愛羅に体の主導権を委ねた。
すると、愛羅は俺の腕をホットスナックが並べてあるホットショーケースの方向に向けてきた。
ホットが食べたいのか? ……まぁ、美味そうだもんな。
ただ、あれを二個かぁ。
……いや、愛羅が二個頼むとは決まったわけじゃないけどさ。仮に二個頼むんだとしたら、想定よりも俺の財布へのダメージが──
「……あそこのどれかが食べたいのか?」
そんなことを思いつつ、俺は店員さんから視線を向けられないところに移動して、周りに人がいないことを確認しつつ、口元に手を当てながら、そう聞いた。
「……うん」
「……分かった。なら、ホットショーケースの前まで移動するから、俺の手を動かしてどれが欲しいか教えてくれ」
俺は自分で言っていて思った。
別に学校じゃなくてコンビニなら別に愛羅に隠れてもらう必要なんてなかったんじゃないか? と。
……つまり、俺は掻く必要のない恥を掻いてしまった訳だ。
……次からは気をつけよう。
ここが姉さんや俺の友達が来るような場所なら、愛羅の姿を見られたら説明が大変だから今の俺の対応は間違ってなかったんだろうけど、姉さんも俺の友達もこのコンビニいるわけがないもんな。……本当に無駄に恥を掻いただけだ。
まぁ、今更外に出て愛羅と一緒にコンビニに入ってくるのも不自然すぎるし、今はこのまま行こうか。
愛羅の肯定の返事を聞いてから、俺はホットショーケースの前に立った。
すると、腕が愛羅により動かされだしたかと思うと、唐揚げ棒とフランクフルトの前で一度ずつ俺の腕は止まった。
この二つが欲しいってことね。
……約400円か。……まぁ、その程度で済んだと思っておくか。
「ほら」
その二つを買った俺は、コンビニから離れて、人が誰もいないのを確認してから、愛羅に買ったものを渡した。
「ありがとう、ヒロト。……好き」
「……俺も、好きだよ。……娘としてだけどな」
「うん。頑張る」
……学校、早く行こう。
そろそろ本当に急ぎ出さないと、遅刻になってしまう。
愛羅の最後の言葉を聞かなかったことにして、俺は少しだけ早歩きになりながら改めて学校に向かい出した。
───────────────────
あとがき。
少しでも面白いと思っていただけたのなら、私のモチベーションに繋がりますので、星やハートのお恵みお願いします。
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