異界のゾンビを統べるもの〜異世界に勇者召喚されたけど禁忌職業【ゾンビマスター】を取得して奴隷落ち。え、ゾンビパンデミックで世界が大変?そんなのはどうでもいいので美少女ハーレムを作っていきます〜
4−8 ゾンビマスターはアリシュテルト神聖皇国の皇城に迫る
4−8 ゾンビマスターはアリシュテルト神聖皇国の皇城に迫る
「いやあ、壮観だねー」
アリシュテルト神聖皇国の皇都アリアが見える少し小高い丘の上。僕たち腐族の軍勢が一堂に会し皇都を見下ろしている。
皇国の首都だけあって皇都は高く頑丈な外壁で囲まれており、そう簡単に落ちそうには見えない。
だけど、僕の前・横・後ろを埋め尽くす数えきれないほどのゾンビの軍勢を前にして、それもいつまでもつものだろうか。
皇都アリアの中心で天を穿つように伸びている『天至の聖塔』──人族の精神的支柱となってきた超S級ダンジョンも、今はどこか輝きを失っているように見える。
「ベルティアナ……とうとう復讐の時間がきたよ…………さあ、みんな、始めようか……」
立ち上がった僕の背後に控えるは、ルーナ、マリー、ナーニャ、そしてコーネリアのゾンビ軍幹部たち。彼女たちエリートゾンビをトップとする鍛えられたゾンビ軍団が、一斉に皇都に向けて動き出したのだった。
「皇都の正門が、落ちたようだね……それじゃ、そろそろいこうか」
「はっ!」
「ゔぁー」
「にゃ」
「はいっ!」
戦闘が開始してから1時間ほどは、人族側が激しい抵抗を見せて状態は拮抗していた。だけど、この国の人族が抗うことができたのはたったそれだけの時間だった。
飛行系ゾンビの空からの襲撃だけではなく、少しずつ皇都の外壁を乗り越えて侵入するゾンビが増えていき、それにつれて王都を守る人族たちも一人また一人とゾンビ化し、僕らの仲間となっていったのだ。
人族から見れば仲間が減るだけではなく敵が増え続ける状況、一度天秤が傾いてしまえば、皇都が落ちるのはあっという間だった。
S級冒険者のような強者は各所に残っているようだけど、彼・彼女たちが落ちていくのも時間の問題。
僕たちがわざわざ倒しに向かう必要すらない。こちらの戦力はどんどんと増えていく一方であり、強者たるS級冒険者たちにだって体力の限界というものがあるのだから。
「ふふ……しかし、こうしてまたこの場所に戻ってくるなんて、思ってもみなかったな……」
僕が最初に召喚された場所である皇都アリア。冒険者奴隷としてしばらくの辛い時を過ごした場所でもある。
最後は『アマゾネス』の連中に連れられて皇都から出て、そのままあのゾンビダンジョンの中に置き去りにされたんだっけ。
思い出してみると、それも随分前のことだったかのように思われる。あの時と今では、全てが変わってしまっているから。
もっともその前の変化だって、割と急激なものではあったけどね。
「……あ、そういえばあの頃は『アマゾネス』のやつらには奴隷のように使われていたんだっけ? ……あれはあれで楽しんでいたところもあったけど、ちょっとはざまぁしてあげるべきなのかな?」
なんの因果なのか、『アマゾネス』の4人はいつのまにやら僕たちゾンビ軍側についている。今日も元気に皇都を走り回っては、人族を腐族に変えて回っているはずだ。
絶対強者として僕をこき使っていた頃の面影はなく、むしろ完全に僕にビビっている感じ。どんな危険な任務にも真剣に取り組んでくれるようになっているのだ。
元々彼女たちはS級冒険者だったわけだけど、それが僕の王液の影響でゾンビ化した上に進化、ついでにコーネリアの私怨が混ざったような鬼のような特訓で鍛え上げられている。
彼女たちはもはやうちのエースと言っていいレベルの実力をもっており、その実力に見合った大活躍も見せてくれているのだ。
「ま、それも全てが終わってから、か……今は、とりあえずこの場所に集中、だね……」
そんなことを考えながら、僕は打ち壊された皇都の門をくぐる。
「随分、変わったものだね……僕のせいでもあり、彼ら自分自身のせいでもある……ま、世界情勢なんてのは、いつでもそんなものだよね」
賑やかだった街にはもはや人の気配はない。動いているのは足を引きずり歩き回るゾンビだけ。
前世でやっていたガンアクション系のゾンビゲームのような光景なわけだけど、僕の過ごしているゾンビタウンだってこんな感じだし、これはこれで争いのない平和な世界なのだ。
言ってしまえば、一見平和に見える人間たちの世界なんてギスギスした小競り合いの連続だったわけで、このゾンビだらけの世界とどちらの方が平和かだなんて言うまでもないこと。
ま、前世でも今世でも、僕がその場所で虐げられ利用される側にいたから、余計そう思ってしまうのかもしれないけどね。
「マリー……皇城はこっちでよかったんだっけ?」
門をくぐって颯爽と歩き出してはみたものの、皇城の方向なんて覚えちゃいなかった。
「ゔぁー」
しょうがないなって感じで僕の手を引いて先導してくれるマリー。
「いつもお世話になってます、ありがとう」という思いをこめて、僕は彼女の冷たくて暖かい手をきゅっと握るのだった。
「本当に、あなただったんですね……わかってはいましたが、こうして直接見てしまうと、憎たらしさも100倍ですね」
たどり着いた皇城──そこで待ち受けていたのは意外なことに皇女のベルティアナ本人だった。
綺麗な顔をした美少女だというのに、その言葉は誰よりも汚い。ま、それも僕にとってであって、この神聖皇国、そしてミディラヌ教を信奉する信者たちにとってはきっと良い皇女であったのだろう。
ゾンビ、というかミディラヌ教の穢れものを心底嫌っているのが僕からすれば欠点なわけだけど、【ゾンビ・マスター】なんていう職業を得ることがなければ、彼女は僕にとって心から信頼できるパートナーのままだったはずだ。
今では道を違えてしまったわけで、彼女のしたことを許すことは決してないわけだけど……こうして向かい合ってみても強烈な憎しみの心が湧いてくる、なんてこともなかった。
「ベルティアナ……久しぶりだね」
がらんとした人気の感じられないこの場所、美しい美少女が佇んでいる様。そこには滅びの美しさのようなものすら感じられる。
たとえ、それがこの憎むべきであるはずの神聖皇国皇女ベルティアナであったとしても。
「それで、君がこんなところまで出てくるなんて、どうしたの? 逃げなくていいの?」
「神聖皇国騎士団も近衛も全て皇都防衛に出しましたから、この城に残っているのなんて皇族や戦えないものくらいですよ。そんな残っていたものたちも、今はほとんどは逃げ出してしまいましたからね。外に逃げても国中穢れものだらけ、残るこの皇城の中にしても、あなたたちがくるのであればどこにいても一緒でしょう……」
「そう、なんだ……でも、まだ余裕が、ありそうだね?」
彼女は極限まで追い詰められたものの気配は感じられない。
完全に諦めている……ってわけでもなさそう。
「そちらこそ、その余裕……『穢れもの』の分際で苛立たしいことです。私一人どうとでもなると思っているのでしょうけど、こちらにもまだっ、残された力が、ありますっ……」
「力? 皇帝のこと? 今の彼の力が、僕に通じるの?」
「いえ、確かにあなたの今の力は強大なものなのでしょうね、もはや皇帝陛下でも正面から戦うことは不可能でしょう。陛下は『天至の聖塔』の最上階に避難されていますが、あなたとあなたの部下たちにとっては、超S級ダンジョンの守りであっても、大した障害にはならないのでしょうね。この私を乗り越えた暁には、好きになさい」
僕のことを憎んでいるのは確かだろうけど、それで判断を見誤るようなことはない。
ベルティアナという皇女は、冷静で冷徹な判断を下せる優秀な皇女なのだ……『穢れもの』という存在さえ、絡んでしまわなければ。
「……それじゃ、皇帝じゃない、切り札でもあるってこと?」
少し前にマリーがベルについて何かを警告していたことを思い出す。
でも、今の僕を一体どこの誰が止められるというのだろうか?
「あなたがその力を持つのはダンジョンマスターであるからということが一つですが……そのベースにあるのは異世界勇者としての天運。死んだはずなのに生き返る、生き返ったと思ったら世界を震撼させる騒動を起こす……そんな普通の人間には起こるはずのないことを起こす天運に、私は、やられてきたわけです…………ですが、その条件と同じ、異世界勇者が相手ならばどうでしょうか?」
「っっ!?」
「さあ、新たな正しい光の聖女たる異世界勇者よっ、いきなさいっっっ!!! この穢れをこの世界から祓うのですっ!!!」
ベルの声に応えて、彼女の後ろの扉から、飛び出してくるものがいた。
「えっ……」
光の勇者と呼ぶにふさわしい眩い光の中から現れたのは──僕が全く想像すらしていなかった人だったのだ。
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