幕間 とあるS級冒険者たちの憂鬱
「はぁっ、はぁっ……このあたりまでくれば、しばらくは大丈夫だろ」
「そ、そうだねっ、アマンダ」
「ええっ」
「……うむ」
アリシュテルト神聖皇国の首都アリアを脱出したS級冒険者チーム『アマゾネス』は、静かな川原で人目を忍ぶようにささやきあっていた。
「あー、この身体ほとんど疲れねーし腹が減らねーのもいーんだがよ、性能の方はイマイチなんだよなっ」
「そうねー。もとの人間のときの身体のステータスをかなり絞られてる感じだわー」
「うんっ、僕もそう思うよっ。スキルも使えなくなってるのがあるみたいだしねっ」
「うむ……」
彼女たちの逃避行は問題らしい問題があったわけでもなかったが、順調と言えるほどに楽なものでもなかった。
元S級冒険者とはいえ人目につかないように裏道を進む彼女たちの前には、大量の強力なモンスターたちが待ち受けていたのだから。
そのうえ、ゾンビとなった彼女たちの身体性能は人間であった頃よりも著しく減少しており、また幾つかのスキルの使用は制限されてもいた。
元S級冒険者であった彼女たちだからこそ、なんとか死ぬことなくここまで逃げのびることができていたのだが、そうでなければ道中に屍を晒すことになっていたかもしれない。
もっとも、ゾンビである彼女たちが屍になるかどうかは謎なのだが。
「ま、ここは休むにはちょうど良さそうな川原だし……今夜はここで休むとしようぜっ……」
「うん、そうしよっ」
「そうしましょうかっ」
「……うむ」
ゾンビとなり疲れはしない身体ではあるものの、人間であった頃の習慣には縛られてしまうもの。
アマンダが提案した休憩に反対の意を唱えるものはいなかった。
自然とアマンダとクリーシュラ、サフィナとダリアと組になって分かれ、少し離れて砂場に腰を下ろす。
「クリーシュラっ……」
「アマンダ……」
ぴたりと身を寄せ合うアマンダとクリーシュラ。
お互いにゾンビになってしまうという異常な状況の中、チームメンバーである彼女たちの絆はより深いものと変わっていた。
ぴたりと寄せ合った身体を抱きしめ合った二人は目を瞑る。
そのまま抱きしめ合っていた二人だったが……やがて二人はくすぐったさそうに身を捩らせ始める。
「って、んっ? そんなとこ触って、どうしたのっ、アマンダっ? まさか、僕とそういうこと、したいってこと?」
「……ん? そんなとこってどこだよっ? んーっ、ってか、クリーシュラ、そっちこそ、そんなとこは触るところじゃないだろっ!? ど、どこを、触ってるんだよっ!」
「そんなとこってどこ? って僕アマンダのこと、触ったりなんてしてないよ……」
二人はようやく自分たちの様子がおかしいことに気づく。
恐る恐る目を開いていくクリーシュラ、そしてアマンダ。
二人の目に飛び込んできたのは……
「「「「「ゔぁー」」」」」
まるで「仲間を見つけた」とでも言いたげに、二人の身体を後方から撫で回している数匹のゾンビたちだったのだ。
「きゃぁぁぁぁぁぁっっ、なんなんだよこいつらぁっ! 僕の変なとこ触らないでよぉっ!!」
「やめろっ、お前っ、あたしのそこををいじってたのは、お前だったのかよっ!! ゾンビ風情があたしの身体に触るんじゃないっ!!」
慌てて二人が辺りを見回してみると、同じようにダリアとサフィナもゾンビに絡まれている。
更にその先を眺めてみると、ゾンビは川から次々とあがってきているようであり、なんなら川の上には多種多様なゾンビがぷかぷかと浮きながら流れていっているのも見える。
「「「「誰だ川なんかにゾンビを大量に流したアホはぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」」」」
『アマゾネス』の一同は、声を揃えてその誰かに向けて文句を叫んだのだった。
「くしゅんっっ!!」
「ゔぁー……」
「あ、大丈夫だよ、マリー。昨日ちょっと冷えてたから、少し風邪でも引いちゃったのかも……」
「ゔぁ、ゔぁー……」
「うんうん。今日は早く寝るねっ」
「ゔぁっ」
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