3−19 ゾンビと楽しむ時間の終わり
「ついたー!!」
「ついたにゃー!!」
特に問題らしい問題も起こらなかった数日の旅を終え、僕達はアリシュテルト神聖皇国第二の都市ミーレルにたどり着いていた。
その外観はさすがは神聖皇国有数の大都市と言いたくなるもの。綺麗に整備された街道が街を囲む外壁門へとのびており、その外壁の内側には多くの家屋が連なっているのが見える。
奥に見える大きな城のような設備はこの都市を治める大貴族の屋敷だろうか?
なんだかいかにもな異世界都市って感じの様相をしていて、ワクワクしてしまう。
「このあたりに、ゾンビは……いないんだね……」
「にゃ……うちがミーレルを出てくるときには既に街の中も外も、ゾンビは駆逐されていたにゃ。大都市の周りは警備とか冒険者の人員も多いだろうし、農村部と比べたらかなり安全なはずにゃ……」
そうなると……少しずつ大都市の周りからゾンビの駆逐が進んでいって、やがては普段の安全な世界が戻ってくるってことになるのかな。
それはいいことであるはずなのに、どこかもやっとしてしまうというか……やっぱり僕の心の中で何かしらが変わってきている気がする。
「目覚める……ねえ……」
心の中で反芻されるのは、昨日出会った龍人の美少女の言葉。
僕の中で何かが目覚めているから、僕の心の中に何か変化が起こっているってことなのだろうか?
「……っとそれはともかく、このまま門に行けばいいのかな? ゾンビもいないし街に入るのには問題なさそうって感じだけど……」
「にゃ、あそこの門のところまでいけば、警備の人がいるはずだにゃ。普段なら長蛇の列でもできてるところにゃけど、今は街に出入りする人はそんなにいないのにゃ……」
確かにここまでの旅路でも、すれ違う人はほとんどいなかった。時間帯も良かったのか、門のあたりに今は人影はない。
ナーニャは馬車をゆっくりと門に近づけていく。
「そこで止まれぇっっ!!」
大声で門の窓から僕らを止めたのは、街の警備兵だろう……それ自体はいいんだけど、口調が荒いしなんだか感じが悪いな。
いつもこんな感じなんだろうか?
それともゾンビパンデミックの影響で、気が立ってるってことだろうか?
「ごめんにゃ、うちのせいかもしれないのにゃ……実は、この神聖皇国の都市部では、うちら亜人の扱いってあんまり良くないんだにゃ……」
ふむ、そんな差別があったのか……この国には。
そういえば最初に僕のメイドとしてあてがわれた人達にも亜人のような人は多かったっけ。
あの頃は有頂天で特に気にすることもなかったけど……彼女たちが僕のメイドに選ばれたのにも、もしかしたらそういった理由があったのかもしれない。
ロロ村とかではまったくそんな印象を受けなかったから、そんな差別があったことなんて気付かなかったけど……
「そんなのっ、ナーニャのせいじゃないじゃないかっ。ナーニャは危険を冒してまで、この街のためにロロ村まで行ったっていうのにさ……」
「仕方ないのにゃ……とりあえず、今は中に入ってこの積荷を街の人達に届けることを優先するのにゃ……」
ナーニャはそう言うと、指示に従って馬車を止める。
数人で降りてきた警備兵は、馬車に向かうものと僕達に対応するものたちに別れる。
「よしっ、お前たちはこっちに来いっ! 変な真似はするなよっ!」
「はいにゃ……」
相変わらず感じの悪い警備兵達の後に続き、門の横についた小さな扉をくぐり開けた空き地へと出る。
「さてっ、そこの男っ、お前はちょっとそこで待機だっ」
「はあ……」
「そっちの猫人族はこっちに来い……」
「……はいにゃ」
にやにやと笑う感じの悪い男がナーニャを呼びつける。態度から見て警備兵達のリーダーなのだろうか。
ナーニャが男の元へとたどり着くと、男は信じられないことを言いだす。
「よしっ、お前はここで脱げっ! ゾンビに噛まれていないか検査しないといけないからなぁ」
「にゃっっ!?」
「そんなばかなことっ!!」
もちろん、彼らが僕達がゾンビに噛まれていないか確認するため、身体検査をしたいってのはわかる。
だけど、こんなオープンな場所で、ニヤつく汚らしい笑顔の男たちの前でナーニャが素肌をさらさなきゃいけないって理由にはならない。
ロロ村の時だって、ナーニャのことは個室の中で女性が担当してくれたわけだし。
だけど……
「うるせえっ! 猫女なんかを街にいれてやる手続きをしてやるだけありがたく思えっっ!」
隊長らしき男は僕達の言うことに耳を貸さない。
それどころか口汚く罵ってくる始末だ。
「そんな無茶なっ……」
「猫人なんぞに無茶も何もあるかっ……んっ、っていうか、そっちのお前もどっかで見たことがある顔だな……おいっ」
男に顎で指示された部下たちが僕に近づき、身体を拘束しようとしてくる。
「ちょっ、やめてくださいよっ……」
正直簡単に振り払えるくらいのステータス差があるとは思うけれど、こんなことで抵抗して怪我をさせるわけにもいかない。
そうしたらこの街でのナーニャの立場も悪くなってしまう。
僕はおとなしく抑えられながら、彼らにやめてくれと言葉だけで訴えかけ続ける。
「やめるにゃっ、うち、言う通りにするから、アキトに手を出さないでだにゃっ」
「駄目だよっ、ナーニャ……君がそんなことをする必要はないよっ」
ナーニャの柔肌をこんなやつらに見せるくらいなら、ここでUターンしてロロ村に戻ったほうがいい。
そう思ってしまうくらいだ。
「うるせえぞっ、てめえらっ、だまってろ!! ……その黒髪に、変わった顔色……あっ、わかったぞっ。もしかしたらベルティアナ様の最近の告知にあったやつじゃねえかっ? おいっ、お前っ、例の手配書をもってこいっ!」
「へぇっ! わかりやしたっ!」
ベルティアナ様って、ベルか……嫌な予感がするな……
男が一人部屋へとはいり、一枚の紙を持って戻ってくる。
「ドンピシャじゃねえかっ……おいっ、てめーは国賊として手配されてるやつだなっ!」
そう言って男がぐっと手に持った紙を見せつけてくる。
確かにそこに書かれている顔は、僕のものと似通っているように見える。
「国賊っっ!? なんで僕がっ!?」
確かに僕が冒険者奴隷だったのは確かだけど、それを殺そうとしてきたのは『アマゾネス』のやつら。
なんとかダンジョンを踏破して助かったわけだけど、それをこの国のやつらに責められるいわれはない。
「なんでかはしらねーけど……皇女様が国賊っていってるんだから国賊なんだろっ!」
「そ、そんなっ……」
「ってことでだなっ……てめーらの荷物はぼっしゅーだなっ! ぼっしゅーっ! なに、心配するなっ、俺たちがこの中身はしっかりと有効活用っ、しといてやるからよぉっ!!」
……何を言ってるんだっ、こいつらは……?
ナーニャが一生懸命この街の人たちのために運んできた物資を、こいつらなんかが奪う?
そんなことが……許されるわけがないだろッッ!!
「ふっ、ふざっ──」
「──だめにゃぁっっ……これはこの街の人のためのものなのにゃっ、中では食料がなくて困ってる人がいっぱいいるはずなのにゃっ!」
怒鳴りつけようとした僕の声を遮ったのはナーニャだった。
彼女がこのまちの人助けたい、そんな心からの叫びが彼女の口から溢れ出す。
「だからっ、その街で困ってる俺たちが食ってやろうって言ってるんだろうがよぉっ! くくっ、配給の食料じゃ満足できなくなってきたとこだったし、ちょうどいいじゃねえかっ……くくっ、夜の相手をさせる猫も手に入ったことだしなっっ」
「隊長、俺たちにもおこぼれをくだせーよっ」
「へへっ、俺が使った中古でよければなっ……飯の方は安く売ってやるぜ、げへへへっ……」
「しょーがねーっすけど、猫の方は隊長ので完全に壊さねーでくだせーよっ……」
そんな会話に、僕はあっけに取られてしまう。
なんだ、こいつらは……人間とは、こんなにも醜いものだったのだろうか……
こんなやつら、僕らとは、違う……消してしまっても……
そのまま、気持ち悪い顔でナーニャに近づいていく男。
「や、やめるにゃぁっ……ぁっ……」
振り回したナーニャの指先が男の頬をかすり、そこから一筋の血が流れ落ちる。
「……やってくれたな。国賊の仲間の獣がっ……」
男はチャキンっと剣を抜く。
……待てっ、何をするつもりだっ?
「この獣風情がぁっっ!!!!」
「や、やめろっっっ!!!」
僕は慌てて僕を抑えた男たちを一瞬で吹き飛ばし、全力で前へとかける。
必死でのばした手の先で……
──ズパッッッ
僕の目の前で……
ナーニャの首が……
──ストン
地面に落ちたのだった。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
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