3−14 ゾンビを倒してララ村脱出
「うーん……こうなっちゃった以上は、仕方がないか」
「ゔぁー……」
同意してくれるようなマリーの声に背中を押され、僕はゾンビたちと戦うことを決める。
「ヘレナさん……ここは、僕がゾンビたちを片付けてしまおうと思います」
「え、アキトさんが、ですか? 大丈夫なんですか? あの……マリーさんに、おまかせしたほうが良いのでは?」
僕の戦っているところを見たことがないヘレナさんは、心配そうに僕の方を見てくる。
まあ、マリーはかなり強いわけだし、彼女がそう言いたくなる気持ちもよくわかる。
「いやー、その……実はこう見えて、ゾンビが相手の場合ならマリーよりも僕のほうが強いんですよ。ゾンビ相手じゃなかったら、僕は弱いんですけどね……」
「ゔぁー……」
マリーも同意するように穏やかな声をあげながらコクリと肯いてくれる。
そんなマリーの様子を見て、ヘレナさんも納得してくれたようだ。
「ただ、僕の場合はちょっと戦闘の手加減ができないので……ヘレナさんは小さな子どもたちの目を塞いでおいてもらえると……」
ゾンビとなってしまっているとはいえ、その多くはこの街の元住人たちだ。
孤児たちなわけだから親族がいるってことはないだろうけれど、子どもたちの元知り合いがいる可能性はそれなりにあるはず。
「わ、わかりましたっ。そうしておきますっ!」
「よろしくお願いしますねっ……マリーはみんなの守りを頼むよっ」
「ゔぁー……」
僕はそれだけ告げると、ゾンビの中へと突っ込んでいく。
僕の目の前にいるのはヒューマンタイプのフレッシュゾンビがほとんど、ファルメントゾンビや動物型もちょっとは混ざっているけれど、そんなのはあんまり関係ない。
僕が腕を振ればゾンビが飛び散り、僕が足を回せばゾンビが飛び散る。
僕はゾンビを掴み振り回したり、ぶん投げたりしながら、効率的にゾンビを無力化していく。
「なんだか……前よりも、調子が良くなっている気がするな……」
どれだけ大量のゾンビが溜まっていたのかわからないけれど、湧いてくるゾンビには終わりが見えない。
それでも僕にはまったく問題はなかった。
ステータスが上がっているおかげかスタミナには問題がなさそうだし、息を切らすことなく戦い続けることができている。
「はぁっっ! ふぅっっ! はっ!!!」
強すぎるゾンビ相手限定の能力による破壊の嵐。
ゾンビたちにとっては地獄としか言えない光景がひろがっているわけだけど……そんな光景にやっぱり僕の心がシクシクと痛んでしまうのを感じる。
できることであれば……ゾンビたちとは戦いたくない。
それが僕の正直な気持ちのよう。
やっぱり僕の心は、前とは何かが変わってしまっているようだった。
「……っと、このゾンビはちょっと強そうだね」
そんな僕の前、武装した一人のゾンビが僕へと迫ってくる。
村人ゾンビって感じだった他のゾンビたちとは違い、彼は剣を構えて僕へと対峙してくる。
ガーランドさんにどことなく似ている感じがするし、もしかしたら彼こそがジェラードさんって言う人なのかもしれない。
「くっ、速いっ!」
そんな彼の振るう剣戟はかなりの速度。
なんとかかわすことはできるわけだけど、少しずつ彼の剣が僕の体を捉えているのがわかる。
やっぱり僕は技術を持つ人間と向き合ったとしたら、まだまだ簡単に倒されてしまうくらいの力しかないってことのようだ。
「……でも、剣を使おうがスキルを使おうが、ゾンビ相手なら関係ないんだよな……ふぅっ!」
僕は気合いの声を上げながら、ゾンビ剣士の振るった剣を掲げた腕で受け止める。
そんなことをしたら間違いなく腕を切り落とされてしまうはずだけど……彼の持つ剣が僕に影響を及ぼすことはなかった。
ゾンビでありながら少し驚いたような顔を見せている気のする男の腹部を、僕は軽く蹴り飛ばす。
彼は軽鎧を着ていたせいか手加減がうまくいって、剣士ゾンビは遠くへ吹っ飛びながらも原型を止めている。
「ゾンビじゃいつかは討伐されちゃうのかもしれないけど……せめて、それまでは…………」
僕はこれからの彼の人生ならぬゾンビ生が少しでも良いものであることを祈りつつ、残った数匹のゾンビを片付ける。
「よしっ! このくらいで大丈夫でしょうっ! ヘレナさん、このまま行きますよっ!」
三叉路のゾンビ達を一掃した僕は、マリーとヘレナさんの元へと戻る。
「す、すごかったです、アキトさん……」
戦闘の前と後で、ヘレナさんが僕を見る目がちょっと変わっている。
そんな美少女からの熱い視線が嬉しくないわけはなくて……ゾンビを倒して傷ついていた心が、少しだけ癒やされていくのを感じる。
「ゔぁー……」
マリーの視線もまた優しいもの、
以前と変わらずと言えばそうだけど、日に日に信頼感が増してきているような気がしないでもない。
「はは、状況が限定されてしまうんですが、僕はゾンビ相手ならこういうこともできるんですよ……ただ、あまり使いたい力ではないので、できれば秘密にしておいていただけたら」
目を伏せながらそんなことを言うと、ヘレナさんは慌てたように言葉を返してくる。
「わ、わかりましたっ……私達はこの窮地から助けていただけただけで、アキトさんには感謝しかありませんからっ……」
「ええ、理解していただけたら嬉しいです。ではいきましょう。ライルくん、さあ背中に……」
「うんっ!」
僕はライルくんのことを背負い直すと、村の外へと向けて再び走り出すのだった。
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