3−10 ゾンビの川流れ
ロロ村を出発してから1時間ほど──のどかな街道の先の方に、うろうろと歩きまわっている群衆のような姿が見えてくる。
「ん……あれは……ちょっと止まって……」
僕は馬に声をかけながら手綱を操る。
すぐに馬車は小さな音を立てて、その場にぴたりと止まる。
「ここがガーランドさんが言ってたところなんだろうね……」
ガーランドさんやナーニャから聞いた情報をまとめると、10日と少し前のその日に全世界的にたくさんの人間の死体がゾンビになったってことは間違いなさそう。
それからそんなゾンビ達が倒されたり、ゾンビに襲われた人や動物、魔物がゾンビになったりで、ゾンビの全体数は一進一退ってところのよう。
まあ、都市部なんかの治安要員がいっぱいいるところは、だいたいのゾンビが駆逐されたようだけど……こんな辺鄙な村のあたりではそうはいかない。
何かって言うと……
「あれが全部ゾンビ、ってことなんだよな……結構な数だよねえ。つまり、ここが例の2つの村の共同墓地がある場所、ってことなんだろうね」
墓地なんかがある死体がいっぱいだったところは、ゾンビ密度がどうしても高くなっているとのこと。
ついでにこの墓地の近くには、討伐された盗賊の死体を埋める場所なんかもあったらしくて──
「うーん、だいぶ人相、ってかゾンビ相が悪いゾンビが混ざってるし、そっちのやつらもこのあたりに混ざって溢れてるんだろうね……」
それだけじゃない、ゾンビっぽく変色した鹿やらウサギやら狼やら……
たぶん墓地生まれの人型のゾンビに噛まれてゾンビ化したのであろう動物たちまでうろついている。
そんなゾンビたちをどうするかって話なんだけど……
「うーん、倒すのは簡単なんだろうけど……」
ゾンビ相手ならば主人公最強俺TUEEEEができる僕。
そんな異世界無双をやりたい気持ちがゼロとまでは言えないんだけど……
「やっぱりあんまりゾンビたちを倒したいって感じはしないんだよなー……」
隣にゾンビであるマリーがいるからってのもあるけれど、それだけではない。
この世界におけるゾンビたちは、なんとなく【ゾンビマスター】の職業を持つ僕の仲間、って感じがしてしまっている。
頭での理性的な考えとかじゃなくて本能のところでそう感じてしまっているわけなので、この気持ちに抗うのは結構難しいものなのだ。
「倒さないでゾンビをどっかに移動させることができればいいわけだけど……マリー、なんか方法思いつく?」
「ゔぁー……ゔぁーゔぁー」
なるほど、村でしていたように囮を使ってどかす……ね。
確かにそれが一番順当な手段だよな。
ゾンビには生者をゾンビに変えようとする性質があるみたいだから、村では生きているネズミとかを使ってゾンビの誘導をしていた。
だけど、今ここにはそんな囮となるような生き物はいない……
マリーに生きたモンスターでも捕まえてきてもらうってのは有りかもしれないけど……マリーに無駄に怪我をさせるようなこともしたくはない。
それに囮をどうやって操るのか、っていう問題もある……
「なんかいい囮……いないかねえ?」
「ゔぁー……ゔぁ!」
ああ、そうかっ……それでいいのか。
マリーの答えは驚きというべきか当たり前というべきか……僕はマリーの勧めに従ってみることにしたのだった。
「「「「「「「ゔぁーゔぁー」」」」」」」
歩く僕の後ろをついてくるのは大量のゾンビだ。
一番僕の近くにいるやつなんかはがじがじと僕の頭やら足やらをかじっているわけだけど、相変わらず僕にはなんの効果もない。
僕はそんなゾンビたちを引きずったまま、ただ前へと進んでいく。
ゾンビが生者に惹かれるってのは結構強い本能みたいで、僕の後ろにはゾンビの行列ができている。
そんな寓話の笛吹き男にでもなったかのような僕がどこを目指しているのかと言うと……
「お、あったあった……結構大きいんだね……」
川。
橋がなけれ対岸には渡ることはできないって感じの本格的な川で、アリシュテルト神聖皇国を横断している大きなものだ。
「よーっし、それじゃいくぞっ、せーっっい!!」
僕は掴んだ一匹のゾンビを川へと投げ込んでみる。
「おー……流れてく流れてく……沈んでないみたいだし大丈夫そうかな。向こうでも元気でやれよー……そーっっい!!!」
僕はどんどんと僕に絡みついてくるゾンビたちを川へと投げ込んでいく。
ゾンビの川流れ……結構微妙な光景ではあるけれど、まあゾンビたちは気にせずぷかぷかと浮いているようだしいいのだろう。
「まあ、このあたりにいたら、騒動が落ちついたあたりで冒険者とかに狩られちゃう可能性が高いだろうし……人が少ないあたりにでもうまく漂着できればきっと長生きできるよね。そりゃーーっっ!!」
ドポンッっとクマ型のでかいゾンビが川へと飛び込む。
そんな感じで投げ込み続けること数百匹。
ようやく大量のゾンビの処理がおわったのだった。
「ふう、それじゃ、マリー行こうか……後1時間くらいでララ村につくはずだよ……」
「ゔぁー……」
一仕事やり終えた後の良い気分で、僕は馬車へと戻る。
それからの道中は特に問題が起こることもなく、僕たちは無事目的のララ村へたどり着くことができたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます