3−6 ゾンビが迫るロロ村へ







 ロロ村の外壁を包んでいるゾンビの数は結構なものだった。


 密集したゾンビたちは、ふらふらと歩きながら村の外壁に身体をぶつけているけど、壁を登って村に侵入するような能力を持つものはいないようだ。


 その見た目は色々。『フレッシュゾンビ』って呼べそうな人に近い容貌をしているゾンビもいるし、結構身体が腐り落ちている『ファルメントゾンビ』って感じのゾンビもいる。


 元々そんなつもりはなかったけど、マリーをファルメントゾンビ系統に進化させなかったのは正解だった。


「んみゃー……これじゃ、ロロ村に入れないにゃあ……」

「そうだねえ……」


 僕が一人であれらを蹴散らすことは簡単なわけだけど、僕とこの国との関係を考えるとそこまで目立つことはしたくないってのが本音。


 それに、あの閉じられた門の向こう側がどうなってるのかわからない現状では、リスクを犯す必要も特に感じられない。


「ここまで来て引き返したくはないのにゃけど……」

「うーん……なんとかゾンビを門から引き離す方法ってあるかな?」

「んにゃー……思いつかないにゃー……」

「だよねー……ってあれ? ゾンビが門のところから離れていってる?」

「ほんとにゃっ!」


 考えていたことが勝手に目の前で現実となっていく。


 もしかしたら僕の【ゾンビマスター】の新たな力にでも目覚めたのだろうか?


 敵対するゾンビの遠隔操作能力……ってあんまり使い道もないかな。


 なんてことを考えていると……


「おーい、そこの馬車のやつらーっ……近くに囮の生きネズミを放っているから今がチャンスだっ、今のうちに入ってこーいっ!!!」


 外壁の上から顔を出したおっちゃんが声をかけてくる。


 どうやら僕の力ではなく、村の人たちが僕達のために囮を放ってくれた、ってのが事実だったらしい。


 ゾンビには生き物を追いかける習性があるってことかしらね?


「助かるのにゃーっ! 今いくのにゃぁっっ!!」


 ナーニャが素早く操った馬車が、開かれた壁門へ向けて駆け込んでいく。


 馬車が通り抜けると同時に速やかに閉じられる門。


 ロロ村の中は以前『アマゾネス』と共に訪れた時とさほど変わってないように見える。この村はゾンビたちの被害をほとんど受けてはいないようだった。


 それは良いことなのだけど──


「にゃっ、にゃぁっっ!? なんのつもりなのにゃぁっっ!?」

「悪いな、にーちゃんと、猫人族のねーちゃんよぉっ……」


 ──問題は僕たちを囲む、武装した男たちの方だったのだ……















「がはーっはっはっはっ! 悪かったなっ、ビビらせちまってよっ……驚かすようなつもりはなかったんだがよっ!」


 悪人面のおっさんが大声を出しながら笑う。


「ホントにゃっ! ガーランドさん、悪人面すぎるにゃっ!」

「そうですよ。ガーランドさん、いくらなんでも悪人面過ぎですっ!」


 ぷんぷんと怒っているナーニャに乗っかり、僕もまたガーランドさんを糾弾する。


「がはははっ……すまんすまん、ってオイっ! 悪人面ってなんだよっ!! 俺ほど良いやつそうな顔したやつなんてそうはいねえだろっ!! ……っとまあ冗談はおいといてだな、すまなかったがこれもこのご時世じゃ必要なことなんだよ。ゾンビ因子を持ってそうなやつを、村の中に入れちまうわけにはいかねーからなっ!」

「それは、わかるにゃ。うちもゾンビになっちゃった冒険者に襲われたばっかりにゃから……でも、あんなところまでチェックされたのは……恥ずかしかったのにゃ」


 恥ずかしそうにもじもじと内股を擦り合わせるナーニャ。


 ……一体、どんなところを、チェックされたというのだろうか?


 まあ僕の方もそれこそお尻の割れ目の内側までいかついおっさんたちにチェックされてしまったわけだから、彼女も村のお姉さんに似たようなされていたってことだろう。


 僕の方の光景はとてもお見せできるようなものではなかったけれど、逆に言えばナーニャの方では極楽のような眺めが展開されていたという可能性も否めない。


 あ、念の為補足しておくならば、ナーニャの身体検査を対応したのはおっとりとした感じの金髪巨乳美女だった。


「おっ、おうっ……そ、そいつはあ、わ、わりいなっ……」

「あ、エロおっさんにゃっ! ガーランドのおっさんは、変なことを想像するなにゃっ!!」


 年甲斐もなく顔を赤らめているガーランドさんに、ナーニャが非難の声をあげる。


 そのままガーランドさんとナーニャの掛け合いが始まる。


 今はこうして打ち解けて和やかに話しているわけだけど……素っ裸に剥かれた僕たちがどこにもゾンビの噛み跡、引っかき傷跡がないってわかるまでは、ガーランドさんたちは決して警戒を緩めることはなかった。


 仮にそういった怪我があった場合には、ゾンビになってしまう可能性のある10日目まで、村の中に準備された隔離所に収容されることになっていたとのことだ。


 幸い、僕にもナーニャにもそういった傷はなかったわけだけどね。


「……んで、猫人族のねーちゃんは行商人ってことでいーんだな? 正直不足してきているものがいっぱいあるんだっ……この危険な中をロロ村まで来てくれて助かるぜっ」

「んにゃっ! 薬とか燃料、武器に防具に魔具、この状況で必要そうなものをたっぷり詰めてきてあるにゃっ!」

「そいつあー助かるぜ、できるだけ買いとらせてもらいたいっ!」

「もちろんにゃっ! マケはしにゃいけど、代わりにこっちも必要なものをたっぷりと買わせてもらうにゃっ!」

「くくっ、もちろんだよっ、こっちもマケはしなけどなっ」


 ぐふふふっ、とお互いに笑い合うナーニャとガーランドさん。


 二人は意外と似たもの同士だった、ってことなのかもしれない。


「こっちはできるならば食料品がほしいのにゃ、麦、小麦粉、米、干し肉……保存の効く食料品は全部大歓迎なのにゃ!」

「そうだな……念の為村に確保しておきたい食料はあるが、ここ数年豊作続きだったからこっちには備蓄がいっぱいある。それなりの量が出せると思うぞっ」

「完璧だにゃっ……それじゃあ詳しいお金の相談をするにゃっ」

「ああ……っとその前に、にーちゃんの方は……」

「そうだったにゃ!」


 二人で意気投合して出ていこうとするところで、ガーランドさんが僕のことを思い出す。


「にーちゃんは、冒険者か?」

「はい、そうです」

「そうしたら、にーちゃんにもちょっと後で頼みてえことがあるかもしれねえ……ふたりともカレンのところの宿に泊まることになるんだろうし、今日か明日、後で相談に訪れると思うから、よろしく頼むなっ」


 相談……ねえ。ゾンビの駆逐を頼まれる、とかだろうか? 


 とは言っても、普通の冒険者一人がこの状況でできることなんてそんなにないよな?


 僕はこのゾンビだらけの状況では結構な戦力とも言えるかもしれないけど、それはガーランドさんは知らないわけだし……


 まあ、このゾンビに囲まれてる状況の村なわけだし、冒険者にできることもいっぱいあるってことかな。


「はい……? わかりました。それじゃあ後で」

「お兄さん、また後でにゃっ。宿に戻ったら、会いに行くのにゃっ!」

「うん、ナーニャも、またねっ」


 奥の個室に入っていくナーニャに手を振り、僕は入り口へと振り返る。


「それじゃあ、いきましょうか、アキトさん」

「え? 僕?」


 そんな僕に声をかけてきたのは、ナーニャの身体検査をしていたおっとり巨乳の金髪お姉さんだった。


 あれ……もしかして、僕、何か彼女に気に入られることでもしてしまったのだろうか?


 彼女とこれから起こるかもしれないあれこれを想像すると、胸がドキドキと高鳴ってしまったりするわけだけど……


「ええ……これから私の宿に泊まるんでしょ? 私が白銀の鷹亭の女将のカレンよー」


 どうやら彼女は村に一軒しかない宿屋のおかみさんだったようだ。


「……あ、なるほどー、そういうことでしたか……はい、今日からしばらくよろしくお願いしますねっ」


 こんな美人さん一度見たら忘れなさそうだけど……前にロロ村に来た時は『アマゾネス』のやつらに色々とご奉仕するので一杯一杯だったからな。周りが目に入ってなかったんだろう。


「はいはいっ、最近では珍しく礼儀正しい冒険者さんねえ。よろしく頼むわねーっ」


 顔をぐっと近づけてにっこりと微笑んでくれるカレンさん。


 うーん……やっぱりぜひとも一度ご対戦願いたいような、大人の包容力のある美しい女性だ。


 ぐっと張り出している胸元はかなりの逸品だし、お尻の方もかなり豊満なものを持っていらっしゃる。


 出るところがしっかり出まくった身体付きの彼女の後を追いかけ、僕は白銀の鷹亭にチェックインしたのだった。





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