2−8 異世界ダンジョンボスはちょっと厄介
くすぐりの衝撃から回復したハイヒューマンエンシェントノーブルゾンビは、僕にその身の全てを委ねるということを伝えてきた。
くすぐり勝負のせいで汗だくで妙に色っぽくなっていた彼女にそんなことを言われてしまい、思わず30分ほど余計な時間を使ってしまったりもしたわけだけど……
ともあれ、この世界に来てからというもの見た目の良い女の子には裏切られてばかりだった僕だけど、目の前の彼女からの忠誠心はもはや疑いようはなかった。
「アキト様……それでは作戦通りに参りましょう」
「ああ、わかってる。それじゃ、いこうか……ルーナ」
「はっ」
まるで軍隊の部下であるかのように付き従ってくれるルーナを引き連れ、僕はダンジョンの最終階層へと足を向ける。
ちなみに彼女の肌は元の青白いゾンビのものに戻してある。
生身のままの体は彼女の弱点にもなりうるってことで、ボスとの最終戦を前に《パーシャルターンアンデッド》を使い直して彼女を完全なゾンビの身体へと戻しておいたのだ。
彼女の部屋から続く長い階段を下ること数分、僕たちはダンジョンボスの待ちうけるフロアへとたどり着く。
「うっわー、すごいな……これは……」
自分という存在を……【ゾンビ・マスター】という職業の恩恵をハッキリと認識している今でなければ、ここまで来て引き返していたかもしれない。
たとえゾンビモンスターを雑魚キャラだと信じ込んでいたとしても……この目の前の光景を前にして、この先に一歩を踏み出せたかどうかは自信が無かった。
目の前に広がる広大なフロアの中には異形──腐れ落ちようともドラゴンの王たる風格を感じさせる巨大な怪物が、僕たちを待ち受けていたのだ。
「……《ゾンビステータスアナリシス》」
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名前:シファルーダ
種族:ファルメントドラゴンキング
称号:超S級ダンジョンの管理者
LV:13241
HP:5289000/5289000
MP:14072340/14072340
攻撃力: 68061
防御力: 22422
魔攻力: 109648
魔防力: 27321
素早さ: 8062
スキル:
《ステータスアップ・ドラゴンキング》《神聖魔法無効》《闇魔法無効》《炎魔法無効》《物理攻撃半減》《魔法攻撃半減》《ダンジョンマスター・リミット》《ドラゴンテイル》《ドラゴンクロウ》《ドラゴファイア》《ドラゴサンダー》《ドラゴアイス》《ドラゴキネシス》《ドラゴンシャウト》《カースドドラゴンブレス》《ファルメントドラゴンブレス》《サモンドラゴン》
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「うん、思ってたとおりやばいね。やばすぎるステータスなわけだけど……それは僕には関係ないから問題ないっと。それじゃ、予定通りルーナはここで待機で」
「はいっ、どうかお気を付けてっ!」
「うん」
とは言ったものの、この段階で僕が気をつけなければいけないことなんてそんなにはない。
ゆっくりとドラゴンキングへと距離を詰めると、目の前の巨大なドラゴンの眼が見開かれ、その巨大すぎる身体の一部──電車の車両くらいの太さがある尻尾が姿を消す。
「うへえ……普通の冒険者パーティーとかだったらこの一発でおしまいなんだろうな……」
何を言ってるのかっていうと、姿を消したと思ったその尻尾が既に僕の顔の前でストップしているのだ。
のっけから顔面鉄道事故から始まるようなボス戦、そんなのって普通に相対していたらやってられないって思うことだろう。
昔のゲームでは対策してないとボス戦開幕直後に即死……なんてのは定番だったけど、現実世界でそんなことをやられた日にはたまったもんじゃない。
だけど、予想していたとおり、ゾンビであるドラゴンキングの尻尾の一撃は、僕の身体になんの影響も及ぼすことはなかった。
そのままドラゴンキングは僕の身体をべしばしとしばき続ける。
「さて、それじゃあちょっとずつ削っていきますかー」
僕の身体にあたった瞬間、一瞬だけ止まるドラゴンキングの尻尾。
僕はその尻尾に、肘打ち、フック、回し蹴り、と少しずつカウンターを叩き込んでいく。
見えないほどの速度の尻尾だ。当たればラッキーくらいのイメージで、適当にビシバシと手足を振り続けるだけ。
ゾンビの僕に対する攻撃は完全に無効化されてるのに対して、攻撃の方は極めて強力化されているというくらい。
このデカブツにダメージを与えるには、かなりの回数殴ってやる必要があるはず。
「ふっ! はっ! はぁっっ!」
時間が経過するにつれて少しずつぼろぼろになっていく尻尾だけど、ゾンビには痛覚がないからかファルメントドラゴンキングは機械的に攻撃を続けてくる。
「そろそろ、いけるかなっっ!」
ルーナに聞いたところによると、ファルメントドラゴンキング戦の第一段階はこの尻尾を削り落としきること。
尻尾が健在なうちは、弱点である首部を僕が攻撃できる範囲に下げてくることはないのだそう。
普通の身体能力しか持たない僕には、ドラゴンの身体をよじ登って攻撃する、っていうのはなかなかにしんどいものがある。
自然落下したら大ダメージをくらっちゃうしね……
だからこそ……
「ふうぅぅぅぅっっ!!!」
薄くなり尻尾のさきがぶらぶらと揺れている接続点に向けて、僕は勢いよく手刀を振り下ろす。
──ズシャァァァッッ
ついに半ばから斬れ落ちたぶっといドラゴンキングの尻尾。
「グォォォォォォオオオオオオオオオオッッッッッッッ!!!!!!」
心の底まで震えるような凄まじい雄叫びとともに、ドラゴンキングが大きく口を開く。
「くるのかっっ!!」
太い首が振りおろされるのと同時に、大きく開けた口から緑色の閃光が僕へ向けて飛び出してくる。
ファルメントドラゴンキングのこの《カースドドラゴンブレス》は凄まじい威力を持つ上に、呪い効果付き。
過去にはルーナに認められてドラゴンキングに挑んだものこそいたけれど、未だ嘗てこのドラゴンブレスに耐えきった存在はいない、とのこと。
だけど……
「やっぱりゾンビのすることなら……僕には完全無効なんだよな」
そんな凶悪なドラゴンブレスですら、僕の体に傷一つつけることはない。呪いの効果が現れることもなかった。
このままなら他のゾンビと同じようにちょっとずつ削っていけば倒せるはず。
僕はドラゴンへとゆっくりと距離を詰めていく。
必殺だったはずのドラゴンブレスの効果がなかったことで、ドラゴンも少し怖気づいたような雰囲気が感じられる。
ドラゴンは一旦攻撃を止めて、こちらの動きを伺っている。
警戒してるドラゴンだけど、その身体の大きさが仇となる。
その巨体では僕から逃げ切ることなんてできやしないのだから。
「ふぅぅぅっっっっ!!! はぁっ! はっ! たぁっっ!」
僕はまずは駆け寄った左前足に連撃を叩き込む。
サイズはでかいけれど、今の僕の前には良い的ってだけ。
僕の手足が当たりさえすれば、勝手に大ダメージが入っていくのだから。
ドラゴンは苦し紛れに様々な魔法やブレスを降らせてくるけれど、そのどれもが僕に効果を及ぼすことはない。
どんどんと足が抉られていき、少しずつドラゴンキングの顔が地面へと近づいてくる。
「ブォギャァァァァァァッッッ!」
ついには左足が完全に崩れ落ちたところで、僕はドラゴンキングから一旦距離を取る。
「さて、これで第三段階に突入だな……そろそろ、ルーナに聞いていたあれを使ってくる頃かな……?」
ドラゴンキングの瞳からはまだ光が消えていない……
ドラゴンキングがぶるんっと身体を震わせると、ドラゴンキングの周りにいくつもの魔法陣が描かれる。
「きたかっっ!!」
このダンジョンでは完全に無敵だと思っていた僕だったけど、実は一つだけ弱点があったのだ。
ルーナに指摘されたその弱点とは……
「こいつは、ワイバーンかなっっ」
空に浮かぶ魔法陣から飛び出して来たのは数多くのワイバーンらしきモンスターの影。
地に描かれた魔法陣から浮かび上がってくるのは、カラフルな色違いの龍たち。
ゾンビではなく生きている龍種だ。
ファルメントドラゴンキングの使う《サモンドラゴン》のスキルに呼び出されたドラゴンたち。
こいつらはゾンビではないわけだから、僕なんて一瞬で殺られてしまうに違いない。
だからこそ……
「ルーナっっっ!!!!」
「はっっ! お任せくださいッッ!! 《アブソリュートガード》!」
満を持して、と言わんばかりに飛び出してきたルーナ。
彼女は僕に最強の防御魔法をかけると、空を飛ぶワイバーンたちを次々と叩き落としていく。
面目躍如とばかりに最強のダンジョン守護者としての力を見せてくれるルーナ。
ワイバーンや他の龍種もそれなりに強力なモンスターだけど、1万レベル超えのルーナやファルメントドラゴンキングから見れば桁違いに格下だ。
ルーナが地上のドラゴンまでを殲滅するのに、そう時間はかからないことだろう。
僕も地上のドラゴンたちから攻撃をもらわないように気をつけながら、再びファルメントドラゴンキングへと近づいていく。
派手に暴れるルーナの陰、僕はこっそりと近づいたドラゴンキングの残った前右足へと連撃を加えていく。
右足が吹き飛んでいくと同時に、ドラゴンキングの凶悪な顔がどんどんと地面へと近づいてくる。
「グォォォォォォオオオオオオオオオオッッッッッッッ!!」
最後の抵抗とばかりにドラゴンブレスをはきながらのカミツキ攻撃を放ってくるドラゴンキング。
もちろん、ゾンビであるドラゴンキングの攻撃は僕には通らない。
それどころか……
「ここだあっっっっっ!!!!」
僕は噛みつかれた状態からあっさりと抜け出すと、地面に落ちきったドラゴンゾンビの首元へと走る。
そこに見えるのは毒々しい緑色の鱗。
ファルメントドラゴンキングの逆鱗だ。
「はぁぁぁぁっっっっ!!!」
僕はその鱗を、迷うことなく殴りつける。
──パリィィィィンッッ
ガラスの割れるような澄んだ音が当たりに鳴り響き。
粉々に砕けた緑色の鱗が地面へと落ちていく……
そして、次の瞬間……
ファルメントドラゴンキングの身体は、煙となって消えたのだった。
──ファルメントドラゴンキングを撃破しました
──経験値を得ました
──レベルはロックされているため上がりません
──レベルはロックされているため上がりません
──レベルはロックされているため上がりません
………
………
──レベルはロックされているため上がりません
──レベルはロックされているため上がりません
──腐系ダンジョンの踏破を確認しました
──【ゾンビマスター】の派生スキル取得条件3を満たしました
──《サモンゾンビ》を取得しました
──超S級ダンジョン『深淵の腐海』の踏破を確認しました
──ダンジョン踏破者にユニーク称号【ダンジョンマスター】を与えます
──世界状況を確認しています……
……
──現在の世界は人族・魔族・龍族・精霊族で構成された世界です
──ダンジョン踏破者の固有職業は【ゾンビマスター】です
──ダンジョン踏破者への報奨を計算します……
……
──決定しました。
──ダンジョン踏破者にユニーク称号【腐界の王】を与えます…………エラーが発生しました。
……
──ダンジョン踏破者はユニーク称号を既に限界数保有しています。
──状況の再確認・再計算を行います
……
──解決方法が見つかりました。
──ユニーク称号【異世界勇者】とユニーク称号【ダンジョンマスター】を統合します
──ダンジョン踏破者に特別ユニーク称号【異世界ブレイブダンジョンマスター】を与えます
──ダンジョン踏破者の一部スキルの書き換えが起こります
……
──ダンジョン踏破者にユニーク称号【腐界の王】を与えます
──腐族を正式にこの世界の第五種族と認定します
──腐族の繁殖方法を体液媒介による感染増殖と設定します
──新種族開始ボーナスとして5年以内に生を失った人族・魔族・精霊族・龍族の死体を腐族へと転換させます
──腐族の増殖によるステータスボーナスを腐界の王へと設定します
──ダンジョン踏破者の心身改変のためダンジョン踏破者を強制休眠させます
──休眠は10日間を予定しています
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名前:ヒラヤマ・アキト
種族:異世界人
称号:異世界ブレイブダンジョンマスター・腐界の王
装備:封印の指輪(呪)
LV:1 (固定)
HP:481/481(+20%)
MP:729/729(+20%)
攻撃力: 519(+20%)
防御力: 436(+20%)
魔攻力: 731(+20%)
魔防力: 664(+20%)
素早さ: 432(+20%)
固有職業:
【ゾンビ・マスター】
固有スキル:
《オートトランスレート》
《ステータスアップ・ブレイブダンジョンマスター》(半封)
《パーシャルターンアンデッド》
《ゾンビステータスアナリシス》
《サモンゾンビ》
汎用スキル:
《ステータスオープン》
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