第6話 私は聖女!


 魔獣討伐ももう3回目になった。


 その日もまた、テオ君が倒れた。



 今日は、さすがにもう見ていられなくて私はテオ君の自室の前まで来た。

 聖水で一時的に良くなっても、その晩はまたぶり返すことが多いとユジンさんに聞いたから。


   *


 テオ君は、奥の寝室で寝ていた。

 赤い顔をしている、まだ発熱や発疹があり苦しそうだ。


「不甲斐ない姿を見せてすみません……」


 体を起こそうとする勇者様を私は制止する。


「無理に起きないでいいよ。辛いでしょう? ゆっくり休んでね。心配だから看病させてね」

 

 私は、テオ君の額に濡れタオルをあてがった後ベッドサイドにあるイスに腰をかけた。

 発疹が出て、熱を帯びた皮膚にはひんやりとして気持ちがいいだろう。

 テオ君はこくんとうなずいてホッとしたように息を吐き目をつぶった。


「……」


 私は、なんて声をかけていいのかわからなかった。

 あれだけの力で魔物を倒せる勇者様が、今、目の前で力なく横たわっている。


 ふと弟のユウちゃんの小さなころが思い出された。

 いまでこそ健康になったが、幼い頃は色々なアレルギーで食が細く体が弱くよく看病してあげたものだ。

 心配をかけまいと我慢するところが似ている。


 そして、この症状も似ていた。

 運動後に繰り返す発熱、発疹、息苦しさ。



(これはたぶん、運動誘発や遅延型の食物アレルギーなんじゃないかな……)


 私に中でひとつの確信に変わったが、期待させて違いましたとがっかりさせたくない。

 明日の朝、試しに私の作った食事を食べてもらってから話してみよう。


 私は、目の前で苦しむ国を守る勇者様で、頑張り屋の青年剣士のテオ君に、一人でがんばらなくていいんだよって言ってあげたくなった。

 なんでも一人で抱え込む辛さは私も知っているから。




「……テオ君」


 心の中で呼んでいた呼び方で呼んでみる。

 なんだか少しこそばゆい。

 でもテオ君には『勇者様』じゃない時間が必要なんじゃないかと思った。

 笑顔の下では、ずっと責任や重責を担っている。


「あなたは、休めるところがあるのかな?」


 私の声にテオ君が、ぴくりとまつげを揺らした。

 まだ、起きてたみたい。


「私、なんの力もないけど話を聞くくらいはできるから。

 いつでも、辛いときは辛いって言ってね。

 私、『聖女』だしね。約束は守るよ」


 初めて、自分から聖女だと名乗ってみた。

 テオ君の力になりたいという、私の決意の表れだ。


「それにね、私、小学生の頃から友達からは『おかあさん』ってあだ名で呼ばれてるからどんと任せてよ」


 私は、少し空気を和ませるようにいう。


「千穂、子供の頃からあだ名が『おかあさん』って……」


 テオ君は少し目を開けて力なく笑った。


「ふふっ、でもまあ、嫌じゃないのよ。頼られてる感じがするしね。テオ君も頼っていいよ。すごい力はないけれど、愚痴を聞くくらいはできるからさ」


 私が笑いながら言うと、テオ君は私の顔を見ながらポロッと涙をこぼした。



   *



「聖女様……」


 テオ君は、天井を見ながら両手で顔を覆った。


「俺は…怖いんです。

 俺が魔王を討伐できなければ、大きな被害が出ます。

 俺みたいに村や家族を失って悲しむ人がいるとわかっているのに、今の俺には守る力があるのに、この病のせいで肝心なときに力が出せない。また何も守れず失うのが怖いんです。


 魔獣と対峙するときもそうです。

 特に竜型の魔物を見ると、今でも子供の頃に魔王に襲われ家族を失ったときのことを思い出し、手が震えます。


 そうやって、怯えてたから、逃げたいと思ってたから罰が当たったんでしょうか?

 勇者として不適格だから呪われたんでしょうか?」


 テオ君のすすり泣きが薄暗い部屋に響いた。

 そこいるのは魔獣を軽々と倒す勇者ではなく、テオドールという責任感の強い悩み多い青年の姿があった。


「テオ君、これは病気だから自分を責めないで、病気が何かの罰ならばどうして善良な人もかかるの?」


「それは……」


「それに、たとえ呪いだったとしても、それは呪った人が悪いのであって、あなたのせいでもないでしょ?」


「俺が悪いんじゃないですか? 怖くて、逃げ出したかったから、こんな風になったじゃないかってずっと思ってて……」


 私はニッコリと聖女のように微笑んでみせた。


 それがたとえ虚勢であっても、今の彼の救いになるならばそれでいい。


「馬鹿ね。怖くて逃げだしたくても、そうしたことなんて一度もないんでしょ? だったら違うに決ってるじゃない」


 私は、再びひんやりと冷たいタオルを絞って泣いているテオ君の頬をぬぐってあげた。


「『聖女様』が言うんだから間違いないよ」


 テオ君は、こくんとうなずくとそのまま安心して寝入ってしまった。


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