第1話 性別

 私は男だ。男が好きだ。それの何が悪い。

 今であればそう言えるだろう。しかし、まだ幼かった私には、そう言い胸を張れるほどの勇気はなかった。

 最初は小学校での授業だった。初めてLGBTQ+という言葉に出会い、自分以外にも同性を好きになる人がいることを知った。そして同時に、自分は嘲笑の的になりうることを知った。自分の周りにはそういったことに理解を示してくれる友人は少なかった。中学生になればきっと現れるという淡い希望も無惨に散った。自分は一生このことを隠して生きていかねばならないのだと塞ぎ込んだ。

 しかしそんなある日、私に転機が訪れた。たまたまあるインターネットゲームで知り合った友人に、自分がゲイであることを打ち明けると、奇跡的にもその友人は、自分もそうだと言ってくれた。顔も名前も年齢も知らないはずのその友人が、まるで私の全てを分かってくれる唯一の存在のように感じられた。

「ねえ、なんで皆、男が男を好きだって言うと笑うんだろう。」

私がそう問いかけると、彼はこう返した。

「皆、自分と違う人間が怖いんだよ。皆弱虫なんだ。だから、自分と少しでも違う人間を拒絶するんだ。」

ネットの海を少し探れば出てくるようなありふれた言葉。しかし、私には釈迦の金言にも似た言葉のように思われた。まるで自分の今までの人生が救われたような気がした。

 彼とはその後も頻繁に会話を交わすようになった。初めはゲームの話しかしていなかったのが、次第に互いの好みや家族の話をするようになった。私は少しづつ彼に惹かれるようになっていった。

 ある日、恋人の話題になった。

「昔はいたけど、最近はずっと独り身だよ。」

彼はそう言った。その後に、彼はこう続けた。

「君は?恋人はいないの?」

これはチャンスだと、ここしかないと、そう思った。心臓がドキドキと音を立てる。緊張で震える声を必死になだめながら、つぶやくように言った。

「恋人がいないなら…僕の恋人になってよ。」

 しばらく沈黙が続いたあと、彼はやっと口を開いた。しかし、その声色は想像していたものとは違い、笑いを堪えるように震えていた。

「嫌だよ。君、男だろ?そんなにキャラ作りに必死にならなくていいって。俺もゲイキャラ気に入ってるけど、流石にそこまではしないよ。」

 最初、何を言っているのか分からなかった。その困惑は言葉にしなくとも伝わったのだろう。こちらが話し出す前に、相手が言葉を続けた。

「え…本気で言ってんの?」

 その声は聞き覚えのある声だった。小学校で授業を受けた後、先生に聞こえないように小声でコソコソと話す生徒達の声。嘲笑と拒絶を孕んだその声は、私の心をゆっくりと締め上げていった。

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